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寒空の下 [中編小説]

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西山拓己は両親をはじめ、周囲の大人から過度に甘やかされて生きてきた。結果、特別な才能もないくせに、プライドだけは非常に高い人間に育ってしまった。彼は単位が足りず、大学を留年するこ…
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記事一覧

連載小説|寒空の下(20)

 勤務を終えた足で、駅近くにある会社の事務所に向かった。最後の給料をもらうためだった。い…

諸星颯太
2年前
4

連載小説|寒空の下(19)

 最後の数日も相変わらずショッピングモールの「東側平面駐車場出入り口」に立ち、仕事を続け…

諸星颯太
2年前
4

連載小説|寒空の下(18)

 あと一週間働けば、母親と約束していた30万円を貯金することができるというところまできてい…

諸星颯太
2年前
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連載小説|寒空の下(17)

 ショッピングモールを利用したこともないのにネルーダは厄介なクレーマーだと認定された。俺…

諸星颯太
2年前
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連載小説|寒空の下(16)

 竹岡はあっという間に昇格した。新体制になってからたったの三日で、俺は笠原から譲り受けた…

諸星颯太
2年前
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連載小説|寒空の下(15)

 ショッピングモールに起こった革命によって自由を失った。仕事を続けていくのがいよいよ辛い…

諸星颯太
2年前
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連載小説|寒空の下(14)

 俺だけはどういうわけかクビにされなかった。嫌がらせをされることになるのだろうと思った。花蓮さんと笠原の代わりはすぐに派遣された。もともとは事務をしていた藤本という眼鏡の女性と、研修の時に一緒だった竹岡の二人だった。もちろん、木下と石田も残っていた。  ショッピングモール側が決めた時間に沿って働く生活に逆戻りする羽目になった。防災センターと控え室の至る所には張り紙がされていて「飲酒禁止!労働時間厳守!賭け事禁止!」などと書かれていた。気持ち悪かったので全て剥がしたが、トイレ

連載小説|寒空の下(13)

 社会的組織の中でどれだけ長く貢献しようが、方針にそぐわない行動を取っていればすぐに切り…

諸星颯太
2年前
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連載小説|寒空の下(12)

 職場は知らず知らずのうちに、春休み中の居場所になっていた。俺がしていたのは仕事と呼べる…

諸星颯太
2年前
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連載小説|寒空の下(11)

 花蓮さんと手を組んだことによって、労働環境は見違えるほど改善された。午前に2時間、午後…

諸星颯太
2年前
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連載小説|寒空の下(10)

 警備員として働き始め、1週間ほど過ぎた日。俺は時間という概念に縛られすぎている自分に気…

諸星颯太
2年前
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連載小説|寒空の下(9)

 数日働いただけで心が折れかけていたが、どうしても大学生という自由な身分を失いたくなかっ…

諸星颯太
2年前
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連載小説|寒空の下(8)

 ショッピングモールで働く生活が始まった。俺は笠原にアドバイスを受けながら「西側の立体駐…

諸星颯太
2年前
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連載小説|寒空の下(7)

 無事に研修も終わり、俺は警備員として初めての現場へ向かっていた。久しぶりに早起きをしたので軽い動悸がした。その日、早朝の気温はマイナス2度だった。古いクロスバイクはますます軋み、うなりを上げていた。  最寄り駅までの道のり、途中で富士山を見るのを楽しみにしていた。ずっとここで暮らしていけば見飽きるのかもしれないが、5年も暮らしていない俺はまだその域には達していなかった。冬の澄み切った空気、真っ白な富士山。夏の富士山は黒と緑を混ぜた色で、胃腸の調子が悪いときの糞みたいで好き