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記事一覧
ヒーローよ永遠なれ!【北村倫理誕2023】
かちり。枕元の時計の音で目が醒めた。時計の針は二本とも真上を指しており、辺りは静寂に包まれたままだ。寝ぼけて一瞬自分がどこにいるのか分からなくなったが、実家とは明らかに違うサイズの個室が目に入り、ここが合宿施設であることを理解させられた。
だんだん頭が覚醒してくる。そういえば明日は俺が早朝パトロールの担当だったな、今日合宿施設に泊まっているのは白星の中では俺だけだったな、明日一緒にパトロール
おいしいウニを召し上がれ【北村倫理誕2022】
「好きな食べ物は?」
なんて、世の中のあらゆる人間に擦り切れるまで使い古されてきた質問だ。
ハンバーグとか、オムライスとか。そこら辺の「いかにも」って感じのものを適当に答えておけば切り抜けられる。ボクの場合、それがお寿司だった。
ただ浅桐サンじゃないけど人間ってのは不便なもので、プラシーボ効果みたいなものにやられた今では名実ともにお寿司が好きになってしまった。まあ、それ自体に不便はないか
夜明けの先を【#第67回whrワンドロ・ワンライ】
草木も眠る丑三つ時。……って言うんだっけ? 正確な時刻としては午前二時からしばらくの間。俺とユウナギは七見の計画の一端として、ALIVE本部の見張り番をしていた。
計画といってもまだ七見も俺たちも動き始めたばかり。コールドスリープから目覚めたての身体は未だ本調子ではない。そんな状態で敵の本拠地に乗り込むのは得策とはいえない……ってんで、今夜は大人しく監視に徹していろ、とのお達しだった。
「
折り目の役目【#第63回whrワンドロ・ワンライ】
「はーあ。流石にこの量のプリントを終わらせろってのは無理難題じゃない? 解いた傍から増えてく心地だよ」
「……? 倫理のプリントは別に増えたりしてない」
「物理的にはそうだろうけどさあ。気持ち的にはネズミ算式にたっぷり増えてるよ」
そう言ってボクは、自分と同じように教室の机に縛り付けられた隣人を見る。ふわっと窓から夏風が吹いてきて、彼の隠れた黄金の瞳が一瞬顕わになった。
ボクたちは名誉ある
最後の一葉を吹き飛ばす【#第62回whrワンドロ・ワンライ】
「あーあ、私にもベアマンさんが来ないかなぁ」
「なにそいつ。熊人間?」
びゅうう、と窓から病室へ強い風が吹き抜ける。カーテンがぶわりと膨らみ、窓際のベッドで体を起こしている線の細い女性の姿を一瞬かき消した。その隣のベッドをあてがわれている矢後は、寝ころんだまま退屈そうに彼女へ相槌を打つ。彼女は薄いレースカーテンをさりさりと開け矢後へ向き直った。
「私を助けてくれるヒーロー。『最後の一葉』って
黄金色へと踏み出す半歩
絶好調で核融合反応を起こしている太陽に辟易しながら桜並木を歩く。まだ四月だというのに今日はやけに暖かい。
俺の気分など知らずにずけずけと照りつけるさまはまるで頼城のようだ、と考えてしまうのは、きっと入学式で生徒会の一員として祝辞を述べていた幼馴染の姿が海馬に引っかかっていたためだろう。
太陽は俺の行く道をあたたかく、輝かしく照らしていた。
かつかつと歩きながら桜並木を抜けると、やっと体
雨上がりのEXR【#第57回whrワンドロ・ワンライ】
「まったくもう、矢後さんってばまた指揮官さんからの呼び出しすっぽかして! 僕が真面目にALIVEへ行っていた間、コンビニでのんびりカレーまんを買い食いしてるなんていいご身分ですね」
「今日は行こうと思ってたっつの。ただ雨が降ってきてうざったかったからコンビニ寄って、そのままめんどくさくなってフケた」
「結局すっぽかしてるじゃないですか!」
うぃーん、と自動ドアが開いてコンビニから出てくるあいだ
きらきらの答え【#第55回whrワンドロ・ワンライ】
がこん、ごとっ、という不規則な音。それに合わせて否が応でも揺らされる身体。高速で移り変わってゆく車窓越しの光景。『透野光希』にとって、これらの感覚はどれも初めてのものだった。
隣に座っている少年は慣れた様子で両足を畳み、他の乗客の邪魔にならぬよう最低限のスペースを使って電車に揺られている。透野もそれを真似するようにぴたりと足を閉じ、ちんまりと座り直した。
「慎くん」
「どうしたの、光希くん
箱の中身は【#第53回whrワンドロ・ワンライ】
ボクの変身アイテムが無様にも復活して、ヒーローらしくさっさと元気に退院したあと。
なんだか無性にひとりの時間が欲しくなって、気付けばボクはふらふらと瓦礫降り積もる廃墟にやってきていた。初めて行く場所だけど、見るのは初めてじゃない。我ながら、道もわからないのによく辿りつけたなと思う。これが神の思し召し……なーんて、死んでも思わないけど!
「うわ、あのとき見たのとそっくりそのままおんなじだ」
踏みしめる【#第51回whrワンドロ・ワンライ】
すう、とゆっくり息を吸って、ふっと短く吐いた。まだ自分の喉は空気を通している。
身に纏っている白いシャツはいつも仕事で着ているもの。同じく真っ白なパンツは洒落た服屋で買ったもの。自らのことながら、そのアンバランスさを嗤いたくなった。
常にきっちり締めていた第一ボタンをぷつりと取り外し、くすんだ茶色の輪っかを首に掛けた。ああ、あとは足台から降りるだけ。
さん、にい、いち。心の中で数えて、
腐ったミルクは願い下げ
「屋外は真ッ闇、闇の闇。夜は劫々と更けまする。落下傘奴……なーんて、こんな裏路地にはとんと縁のないモンだよね。ノスタルヂアもへったくれもありゃしないや」
ちかちかと電気の切れかかっている街灯の下を、音もなく通り抜ける人影がふたつ。はたはたとたなびく黒のマフラーを、ふわりと空に持ち上がった黄緑色のマフラーが追いかけている。
「幼生体もあんまりいなかったし、今夜のパトロールも何事もなく終わりそう