雨上がりのEXR【#第57回whrワンドロ・ワンライ】

whrワンドロ・ワンライver3.0さんの企画より、
人物お題:久森晃人
共通お題:水溜り
をお借りしました。

#whrワンドロワンライver3 by@whr1hour_ver3

「まったくもう、矢後さんってばまた指揮官さんからの呼び出しすっぽかして! 僕が真面目にALIVEへ行っていた間、コンビニでのんびりカレーまんを買い食いしてるなんていいご身分ですね」
「今日は行こうと思ってたっつの。ただ雨が降ってきてうざったかったからコンビニ寄って、そのままめんどくさくなってフケた」
「結局すっぽかしてるじゃないですか!」

 うぃーん、と自動ドアが開いてコンビニから出てくるあいだ、そんな会話を交わす二人。久森は指揮官からの呼び出しが終わった帰り、矢後は呼び出しをサボってコンビニで好物に舌鼓を打っていた帰りである。

 地面はじっとりと濡れてコンクリートが濃く色づいていたものの、先程まで降っていた雨はすっかり晴れて雲間から微かに太陽が覗いていた。久森と矢後はそんな道を並び立って歩き始める。

「うーるーせー。ったく、なんで今日に限ってここにくんだよ。お前あんまコンビニでメシ買わねーじゃん」
「そりゃまあ、コンビニのご飯って高いので……でも今回の用はご飯じゃないです」

 そう言って、久森は歩きながら器用にコンビニの袋からとあるカードを取り出した。裏のシールをぺりっと剥がし、スマホのカメラ機能でスキャンする。

「よしっ、チャージ完了!」

 思わず大きな独り言を出してしまったことすら気にせず、久森はスマホの画面を操作し続ける。矢後はそれに全く目もくれず、あくびをしながらふらふらと彼の横を歩いていった。
 今夜は俺も久森も合宿所に行かなければならない。どーせ夜会うんなら昼に呼び出さなくてもいーんじゃねーの? 相変わらずよくわかんねー指揮官……とぼんやり思いながら歩いていた矢後だったが、そんな彼に突然、真横からばしゃん、という大きな音と「ああっ!!」というもっと大きな音が襲い掛かる。

「んだよ」
「ちょっと黙っててください矢後さん! 今ガチャで虹確定演出が入ったんですよ!! これはっ!! 来る!! こーい!!」

 突如として立ち止まった久森は白熱した目で小さなスマホ画面を見つめている。さっきの音はなんなんだよ、と矢後が久森のほうに顔を向けると、久森の足元がびしゃびしゃに濡れているのが目に入った。どうやら水溜まりに勢い足を突っ込んでしまったようだ。
 それに気づいているのかいないのか、彼はスマホ画面に釘付けになったままだ。

 そして。一際大きな「やったー!!」という歓声が往来に響き渡った。

「狙ってたEXRだっ!! 課金した甲斐があった……! さっき指揮官さんにお会いしたおかげですかね!?」
「なに、指揮官がそのゲームにかんけーあんの?」
「いや、ゲーム自体には関係ないんですけど……アレです! 無欲な指揮官さんのご利益です!」
「なにそれ。意味わかんねー」

(いっつも普通がなんだとかうにゃうにゃ言ってる割に、やっぱコイツって変だよな)

 左足を水浸しにしたまま無邪気に喜ぶ隣人を見て、矢後は改めてそう思うのであった。

〈了〉