水中では不協和音がもつれている
その指は水中深く重たく冷たい
その鍵盤は深海に沈んでいる
息が
できない
指がもつれて
冷たい
鉛の歪んだ指先に
汗が噴き出す
たたく
また 鍵盤はこちらを見ている
鍵盤をたたく私の指先
どこからか
小さくハノンの練習の音
背中
冷たい視線
周りは暗くなり指先はもつれる
深い深い水の中にそのピアノはある
たたけども
鳴らないピアノをひとり溺れて苦しむ少女が弾く姿をじっと眺めている私がいる
息が できない
鉛の歪んだ指先の少女はいつかの私の写し絵
息が できない
水の中深く沈んだピアノの鍵盤
鍵盤は重たく
ばさりと落ちる
頭上のメトロノームが速くなる
助けて お父さん!
息が できない
水中に沈んだピアノの鍵盤に
滲む涙と汗
か っ と目をあける天井の安心
窓際の仏蘭西人形がそっぽを向いている
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