碧くんのばばさまは魔法使い。
私には娘がひとりいる。
そして孫がひとりいる。可愛い、男の子。名前は碧。4歳。
もう何でもよくしゃべるしきちんとひらがなとカタカナは読み書きできる。
可愛い。かわいらしい。
孫と話している私は「ばばさま」、と呼ばれている。
ちなみにばばさまのお仕事は「魔法使い」をやっていると孫には話してある。
髪の毛を赤く染めたりしているので孫には「イチゴに魔法かけていて失敗してしまったのだよ」と話してある。孫は真面目に信じているようだから、次々とつじつま合わせのほら話や与太話がすらすら出てくる。まるで不思議の国のアリスを書いたルイス・キャロルに乗りうつられたかのように。
魔法使いのお仕事も結構大変だ、と孫に話す。
男の子なのにお花が大好きな優しい性格はまだまだ4歳になったばかりの幼さゆえだろうか。
私が娘に、入院手術の間のお礼にピンク色の薔薇の花を何本か携え、遊びに行った日のこと。
向日葵の花が一番好きなのだと言い、向日葵の花だと信じて小さな黄色い菊の花を花瓶に飾ってあった。娘が言う。
ママ、向日葵だって信じてるの。だから今はこれは向日葵なので黙っててね、と小さな声で。無言で私も目配せをする。
薔薇の花束を孫は娘より喜んでくれた。
ばばさま、ばばさまのくれたお花のおかげでおうちの中がとってもいいにおいがします。ばらのお花をありがとうございます!
くうぅ、可愛いぞ!可愛い過ぎるぞ!そんな天使の笑顔で喜んでくれるなんて!!
孫はニコニコしている。
彼の名前はブルーの色を意味する名前がつけられている。
碧。青の色。
私は安っぽいドラゴンのネックレスを2つ、持っているので、そのうちのひとつを碧にあげることにした。
赤いのと青いのと2本あったので…。
写真は普段私が首に下げている青い石のドラゴンのネックレス。色違いの赤を碧に握らせた。
あれ?ばばさま、ボク、男の子だよ?どうして赤いのをくれたの?
くうぅ、可愛いじゃないか。
そこからほら吹きばばさまは与太話を始める。
……いいかい。碧。これはね、生まれたばかりのドラゴンを仲間が魔法でかためたものだよ。ばばさまの髪は赤いね?そして君の名前は碧、青い、って意味だよ。ばばさまが碧を忘れないように、そして赤い髪のばばさまを碧が忘れないように色をとりかえっこだ。めったに手に入るものじゃない。ほらよく見てごらん?お口を開けてるね?このドラゴンは。捕まえられて噛みつこうとしたからなんだよ。
碧はまじめにうん、うん、って聞いている。魔法使いの仕事は本当に楽しくなってしまった。ペラペラとホラが私の口から出てくるから不思議だなぁ。
本当に不思議だ。
…ドラゴンは二種類いるんだ。山にいるドラゴンは翼を持ち火を吹くし、空を飛ぶんだ。水の中にいるドラゴンは深い深い川の中で静かに泳いでいるんだ。これは翼がある山のドラゴンの赤ちゃんを捕まえたんだよ。ドラゴンの卵から孵ったばかりの赤ちゃんドラゴンだ。山のドラゴンの卵は果物の形をしてるんだよ。ばばさまも卵は見たことあるしたまには食べるよ?だけどね、生きているドラゴンにはまだ会ったことないんだよ。でも今日もその卵は食べてきたな。
ドラゴンの、たまごぉ~。ボクみたことない。
よし、魔法使いのばばさまだからね。卵を手にいれるのは簡単さ。でもね、必ず卵からドラゴンが孵るとは限らないよ?しかも赤と白がある。赤い色をした実からドラゴンが生まれてくるんだ。月の綺麗な夜にその果物を切ると中に小さな小さな黒いつぶつぶのうちのひとつだけがお月様の光を浴びてドラゴンが生まれることがある。よし。碧は特別な子だからね、魔法使いの孫なんだから。ドラゴンの卵をばばさまが持ってきてあげようね。赤いか白いか。見た目ではわからないけどね。
約束だよ?ばばさま。ボク、ドラゴンの卵欲しい!食べたい!ばばさまみたいに。
ふふ、不思議だ。まだホラが止まらない。娘はキッチンで知らん顔しながら会話を聞いている。碧は大切にネックレスをリビングのドアノブにかけて飾ってくれた。
・・翌日。私はドラゴンフルーツを3個、娘のうちに持って行った。白をひとつ、赤をふたつ。
前の夜にドラゴンフルーツを買うのに閉店間際のスーパーに滑り込みセーフ。いつまで魔法使いだって信じてくれるかな。
ドラゴンフルーツを見た孫、碧は可愛い声で、
ばばさま。ありがとうございます!
ペコリと可愛くお辞儀をする。可愛い!可愛いぞ!どうしてくれよう。可愛い過ぎるぞ!
……いいかい。ドラゴンに会えるのは限られた一部の人間だ。碧、わかるかな?
きょとんとしているのでホラを続けた。
続きは今やっているプリントが終わってから話すからね。書き取りすんだら、ね。
碧はわざとふざけて平仮名をプリントに書いている。
ね、や、ぬ、を勝手にぐるぐる🌀改造して書いている。こちらを見ながらニコニコしながら。例えばこんな具合に。
私を笑わせようと小さいながらにふざけているので、またそれも可愛い!だけどね……。
くぉら!碧。そんなにふざけて書いているならお仕置きだ。パセリの魔法で碧の髪の毛を緑色にしてやる。パセリの魔法にかかったら大変だぞ?そしてその日から君は幼稚園ではパセリ君って呼ばれるんだ。碧くんやめて君の名前はパセリ君だぁ。
あわててまじめに公文に取り組む孫がまたしてもいとおしい。
ばばさま。終わったよ、とニコニコしながらこちらを見つめてワクワクしているので、いいこだね、と頭を撫でてからドラゴンを見る人間の話をする私。もちろんホラだけどね。
……。ドラゴンに会ってみたいかい?
うん。ドラゴン見たい!
そうか。なら、ね。「良いこと、善いこと」を1万回やることだよ。そしたらドラゴンを見る「権利」がその人にはもらえるんだ。でもね、1度でも「悪いこと」をしたらまた一からやり直しだ。あと1回、善いことをしたら、って時に悪いことをしちゃったらまた最初からなんだよ、ね。
だからね。まだばばさまも生きたドラゴンをみたことないんだよ……。
神妙な顔をして碧はうなずく。
わかった。ばばさま。ボクいいことする。
おおおお!!信じているぞ?可愛いじゃないか。くうぅ。
娘の背中があきれているのがわかるがかまうもんか。
碧には余計な「芸」を教えたりもした。
サングラスをゆっくりあげて懐かしい昭和のムード歌謡を歌う。東京ナイトクラブ。
いつぞや病院の中で時間稼ぎに笑わせたやつを。
碧は四歳児だけど自分のサングラスを持っているので何回も一緒に とおきょお♪なぁいとー♪くぅーらぶー♪と歌いながらサングラスを額にあげて流し目をする。
じゃあね、またね。そろそろ帰るよ、と立ち上がると
ばばさま。すぐにもどってきてね?
ヤバい!瞳がうるうるしてる。可愛い!参ったな、もう。
またね。また来るから。
不服そうなつまらなそうな顔をしているので頭をポンポンしてやる。
ママ、明日の朝ご飯はドラゴンの卵を食べるの!
そう宣言している。
玄関まで見送ってくれる。そして、ねえママ、けんり、ってなんだろうねぇ、ってリビングを振り返っている。
碧くん、君のばばさまもいつまでも魔法使いでいたいんだよ。ね。
娘のうちから帰りながら次なるネタが次々浮かぶ。
娘からメッセージがきていた。
ママ、ドラゴンフルーツ、ありがとう、って。
あれ?
そうか。朝食べるのだ、って言ってたな。碧よ、月の綺麗な夜に、を忘れたんだね!笑
そんなに嬉しかったのか。ふふふ。
娘にメッセージを返した。
ごめんね、与太話やホラばかりですが小さな頃は夢をみて欲しいのよ、夢を。夢は大きくなればいつか覚めて忘れていくんだから。儚くて脆いのが夢だからね。
彼女ならわかってくれるにちがいない。
碧くん、いつまでも魔法使いでいたいんだよ。ばばさまはね。君が大きくなるまでは魔法使いでいたいんだよ。
いつの日にか魔法は解けてきっと君も夢の世界だけではないんだ、って日がくるんだから。
今は魔法使いでいさせてちょうだいね。碧くん。
ばばさまはね!君が大好きなんだよ。ずっと大好きなんだよ。
ゆー。
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