次に恋をするなら手を繋ぐだけで満たされるような恋がいい。
次に恋をするなら手を繋ぐだけで心が満たされるような恋がいい。
決して派手じゃない、ただ日常に溶け込んだような恋をしたい。
一緒にカフェに行って本を読んで、たまに本を閉じて、ほんの一瞬だけ見つめ合う。その刹那に恋をしたい。
ケーキを分け合って、おいしいね、すら言わないで。
時間に追われて店を出て、何を読んでたの、と聞き合う。そしてそれぞれの興味をちょっとだけ分け合って、それだけで心が満たされて、ちょっと照れながら手を繋いで駅まで歩きたい。
そして本当はもう少し一緒にいたいのに、その一言をグッと飲み込んで、手を離して改札をくぐる。グッと飲み込んだ言葉の代わりに、改札をくぐってから3回くらい振り返って手を振るような、そんな恋をしたい。
それを愛と呼べるような。
それだけで愛を感じられるような。
そして夜はあなたからのおやすみに既読をつけて、次の朝先に起きているあなたにおはようのLINEを送って1日を始めたい。次に送られてくるのがおやすみだとしても、きっと1日が幸せに始まるような。
映画にするにはつまらないくらいの恋がいい。
小説の1章がずっと続いていくような恋がいい。
永遠の契りは交わさずに。
ただ「今」を積み重ねていけるような。
もしもいつか不安な夜が来たとしても、不確かな未来を約束しないでほしい。だけどキスやセックスなんかで誤魔化さないで。ただ確かな「今」を積み上げて、「今」だけを見つめていけるように。
そうやって2人でひとつになるんじゃなくて、1人と1人でちゃんとふたりでいられるような、僕と君の境界がぼやけてしまわないような。
流されないように、染められないように。
流さないように、染めないように。
そうやって混ざり合ってしまわないように、僕は僕の色のままで、君は君の色のままで。
愛に溺れて死ぬような恋じゃなくて、愛で息をするような。
インスタ映えはしなくていい。
誰にも羨まれなくていい。
おしゃれじゃなくていい。
ドキドキもいらない。
ただその空間を愛せるような。
愛の言葉も交わさずに
交わす言葉が愛になるような。
ただ穏やかに。
主人公になれなくても。