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【意訳】アートワールドを離れる余裕がある者とは

Clip source: Who Can Afford to Quit the Artworld? - ArtReview

※英語の勉強のためにざっくりと翻訳された文章であり、誤訳や誤解が含まれている可能性が高い旨をご留意ください。
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Who Can Afford to Quit the Artworld?

Louise BensonOpinion21 July 2023artreview.com

Ramon Casas, Jeune Décadente, 1899

自ら進んでアートのキャリアを離れる、という贅沢を選択する者は少ない。多くのアーティストは経済的な理由で辞めざるを得ないのであり、そこに選択の余地はない。

辞めるのには勇気がいる。単に無理だ、もう充分だと言うだけでも、辞めたいという衝動は、我々が子供の頃から教えられてきたもの:ネバーギブアップの精神に反しているからだ。

20代で初監督した Mommy/マミー が2014年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、2016年にはたかが世界の終わり がグランプリを受賞したカナダ人監督のグザヴィエ・ドラン。彼は今月、34歳にして引退を表明した。

“アートは役に立たない。自らを映画に捧げることは時間の無駄だ”と彼はスペインの新聞社 El Pais に語った。その主張は後に撤回されたが、彼の発言は即座に世界中のニュースで取り上げられた。この事実が、辞めるという決断の周囲に渦巻く集団的恐怖と、それが与える衝撃の余波を示している。
そのニュースの見出しはこう言いたげである──アート界で築いた華々しいキャリアを自ら降りるなんて、正気なのか?

アートからの引退を大々的に宣言したのはドランが最初ではない。ハンガリー人監督のタル・ベーラは、終末的な2011年の作品:ニーチェの馬(Turin Horse)の公開後、映画制作の第一線から身を引くと宣言した。そして新世代の映画制作者のため、サラエヴォでの映画学校設立に着手している。
辞めるという行為を政治的主張へ利用した者もいる。アメリカの画家・コンセプチュアルアーティストのリー・ロザーノは、NYのアートワールドからの離脱を、1970年のDropout Pieceという作品によって公式に宣言した。(これが彼女の作品で最も有名である。)
彼女は社会的拒絶という政治行為を実行してみせたのだ。このように、公的な離脱ができる者達にとっての引退は、大きなシステムに変化の必要性を問う抗議になりうる。

しかし、マーティン・ハーバードが著書:Tell Them I Said No (2016)において実施した調査によれば、アートワールドから身を引いたり、そのメカニズムに反対姿勢を取ったアーティストの多くは何も宣言せずに活動を辞めている。
ロザーノの場合のように、離脱という行為が自己排除に偽装した自己マーケティングとして逆に大きな関心を集めることがあるが、引退を計画的に選択できる者の多くは、自分の活動領域で既に高く評価され、制作はもう充分だ、と満足した者だけである。

Hollis Frampton, Lee Lozano, 1963 © Estate of Hollis Frampton
Lee Lozano, Private Book 8, 1970 © The Estate of Lee Lozano

ファンファーレと共に辞めるか、静かに辞めるか。いずれにしても、みんなに離脱する余裕がある訳ではない。
辞めることはジェンダー、階級、人種によって線引きされた特権であることが多い。ほとんどの人は、それが実現不可能なファンタジーだと知りつつも、数年間仕事から離れたいと夢見ることで就業時間を持ち堪えている。

クリエイティブ産業でアーティスト、ライター、映画制作者、あるいはその他の創造的実践者として働く場合、その動機はお金だけではない。だがそれゆえに辞めるのは非常に難しい。
アーティストの多くは薄給、あるいは無給で長時間労働している。経験を積み、変わり続ける文化的風景の中で発言力を得るためだ。最も望ましいルートは、芸術的実践だけで充分な収入を得ることだが、この産業の充分な文化資本と柔軟な労働時間は、一定の新規参入者を集め続ける。

a-n The Artists Information Company が2023年5月に請け負ったイギリスのアーティストの収入調査報告書:Structurally F-cked  によると、アーティストの想定時給の中央値はたった2.6ポンド(約485円)だった。7月にAcmeより公開された報告書も同様に厳しい内容で、ロンドンのアーティストたちは資金難と手軽な家賃のスタジオの死滅によって、専門職からの離脱を余儀なくされている。彼らはシンプルに続けている余裕がないのであり、積極的な拒絶として引退したのではない。ましてや自分で引退を選んですらいない。

Acme の調査によれば、アートを通した収入だけで生活できているのは僅か12%だけである。多くのアーティストは芸術活動を行う一方で食うための仕事をこなさなくてはならない──ときには何十年、あるいは引退するまで。
アーティストの仕事にフルタイムで専念していない場合、この業界を辞めることがどんな意味を持つだろう?何十年間も先が見えないまま働き続け、居場所を見つけたり、一捻りを加えたことで最終的に成功を掴んだアーティストの物語は頻繁に飛び交っている。

例えばエマ・アモスやフィリダ・バーロウは、そのキャリアを通してフルタイムの教職に就いていた。一方でホワルデナ・ピンデルはMoMAのキュレーターとして働いたあと、作品制作と並行して教師として働く様になった。ブラントン美術館の最近の展示:Day Jobs では、日中の仕事が視覚芸術に与える影響という見逃されがちな要素を、75名のアーティストを通じて調査している。その中には、ICUの看護師として働いていたネイト・ルイス、子守の仕事をしていたヴィヴィアン・マイヤー、母親の美容室で働いていたマーク・ブラッドフォードなどが含まれている。彼らにとっての作家活動とは、実際には2つの仕事をこなすことであった。

Mommy (still), dir. Xavier Dolan, 2014. Courtesy Les Films Séville

多くのアーティストが生き残りに苦戦している中、アーティストへの公的援助だけでなく、アートの価値評価のあり方についても疑問が残る。今週、イギリスの首相リシ・スナクは、卒業2年以内に高収入の高度な専門職への就職を促すことができない、通称“ぼったくり学位”の抑止案を公表した。
広範囲の批評的思考を促す一方で直接的な職業訓練性を持たない人文学とアートの学位が、政府からの資金削減に苦しむことは避けられないだろう。そうなれば、若手アーティストがこの産業に参入する道は閉ざされてしまう。
そこでは、フルタイムでアーティストのキャリアを歩もうとする者達への支援が少ないという事実が見逃されている。アート・文化産業が、イギリスの経済に年間108億ポンド(約2兆円)もの貢献をしている証拠があるのに、である。
Arts Council Englandは現在、毎年4.45億ポンドを奨学金や補助金として国内の団体やプロジェクトに助成している。それは納税者あたり8ポンド(約1,485円)以下の金額だ。
それとは対照的に、より税率の高いノルウェーなどの国で暮らすアーティストは政府へ年給の受給申請が可能で、外圧を受けることなく実験に時間を費やす自由が手に入る。
充分な資金援助の欠如は、日中の仕事による経済的保証なしで活動できるアーティストの人口を劇的に減らす。

今週、Evening Standard から公開されたある記事で、YLAs:ヤング・ロンドン・アーティスツなるものが宣言された。1990年代の集団、YBS:ヤング・ブリティッシュ・アーティスツの二番煎じである。
そのリストには広告会社幹部の娘や、裕福なアートコレクター、チャールズ・サーチの娘が含まれている。7.58億ポンド(約1,046億円)を相続した者でありながら、サーチは野心を持って業界に参入してくる者達に“ただ制作あるのみ”、“失敗を恐れるな”と輝かしいアドバイスを送っている。

この発言に明確に現れているのは、富という個人的なセーフティネットを持つ者にとって、失敗の持つ意味とそれがもたらす結果の重大さが大きく異なるという事実だ。多くの者は単純に、リスクを取るだけの余裕が無いのである。

Vivian Maier, Self-Portrait, 1956 © The Estate of Vivian Maier

アートワールドは不平等かつ極端なシステムの上に構築されている。作品が数億円もの金銭的評価を受ける者はほんの僅かで、ほとんどのアーティストはただ生き残ることに必死だ。構造的アドバンテージを持つ者ならば、大きな成功のチャンスを掴むまで耐えられるかも知れない。だがその待ち時間は、多くの者にとって耐え続けるには余りにも長い。

辞めるといる概念は魅力的かつ恐ろしい。この亡霊は業界のどこにでも現れ、アーティストを追い出そうとする。
今こそ、アートの価値評価のあり方を変えるべきだ。この仕事の価値が金銭面だけで評価されなくなるまで。多様な出自を持つアーティストに堅実なサポートが提供される様になるまで。辞めるという行為が、続けるか止めるかの選択ができる幸運な者達の贅沢になるまで。

Louise BensonOpinion21 July 2023artreview.com


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