【意訳】リュック・タイマンス:倫理的複雑さを扱う巨匠、その新しい試み
クリップソース: Luc Tuymans, Master of Moral Complexities, Tries Something New - The New York Times
※英語の勉強のためにざっくりと翻訳された文章であり、誤訳や誤解が含まれている可能性が高い旨をご留意ください。
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Luc Tuymans, Master of Moral Complexities, Tries Something New
March 21, 2019
ヴェニスのグランド・キャナルを見渡せるパラッツォ・グラッシの回廊では今月から、数千枚のイタリア産大理石タイルでできた美しい床を見ることができる。
階段を上がったときだけモザイク画の全容が見え、まばらな松の木が描かれていると分かる。そして壁の説明書きを読んで、その常緑樹がナチスの強制収容所の外周に目隠しとして植えられたものだと知る。
このモザイク画はベルギー出身アーティスト、リュック・タイマンスの大型回顧展における中心作品だ。この作品はタイマンス氏が1986年に制作した“Schwarzheide”(シュヴァルツハイデ)を元にしている。このタイトルは、多くの収容者を死ぬまで労働させたドイツの強制労働所が由来である。
タイマンス氏は1980年代、既存のイメージに基づいた具象画のスタイルを開拓し、絵画を復権させたことで賞賛された。彼が使うのは落ち着いたグレーの色彩ばかりで、その図像はブレて色落ちしており、記憶の中の薄れた映像のようだ。
モザイクは彼が普段使う画材から逸脱しているかも知れないが、ここにも彼を象徴する技が見て取れる。タイマンス氏は我々が単純だと感じうるイメージを提示するが、それが何なのかを(タイトル、壁のテキスト、今回の場合は別の視点によって)知ると意味が変わり、多くの場合不安を感じさせるのだ。
彼の作品の多くは歴史を反映しており、特に第二次世界大戦とベルギーの植民地主義が参照されている。だが近年の事件、例えば9/11に起きたNYのワールドトレードセンターに対するテロ攻撃とイラク戦争も参照している。
彼の最も有名な作品の一つは2005年のライス前国務長官のポートレイトだろう。もうひとつが1986年の“Gas Chamber” (ガス室)で、ダッハウ強制収容所の空っぽの部屋が白っぽく描かれている作品だ。
昨年の1月、彼のアントワープにあるスタジオは作品をヴェニスに送るための集荷直前だった。タイマンス氏はタバコを何本も吸いながら、80点以上の絵画とモザイク画で構成される今回のパラッツォ・グラッシの展示が、過去30年間、150回の個展の中で最大規模かどうか考えていた。展示される作品の2/3ほどは、2016年から2018年にかけて制作された近作であると彼は語る。“最もとっつきやすい作品は見せないことにした。今回はより控えめな表現に関する展示だ。”(より明白に政治的な作品群は、オランダのティルブルフにあるデポン美術館で行われる、約50点の絵画で構成される回顧展に含まれる予定だ。)
M HKA(アントワープ現代美術館)のディレクターであるバート・デ・バール曰く、タイマンス氏は自分でイメージを生み出さないが、既存のイメージを別の目的に再利用している。彼の引用元は、雑誌、映画のスチル写真、ポラロイド写真、ネット上の画像、自分のiPhoneの写真などである。
“彼が初めに手を付ける芸術的行為は、イメージの選択です。イメージは文脈の一部であり、どんな選択にも偏りがあると自覚した上でおこなっている。中立的選択は存在しないのです。”
今回のヴェニスでの展示は“La Pelle”(皮)というタイトルで、イタリア人小説家クルツィオ・マラパルテが1949年に書いた小説を引用している。
第二次大戦の最後、連合軍によって開放された直後のナポリを舞台としたこの小説は、ナポリの住民たちが征服されると同時に開放された様子を描いている。彼らは戦争の共犯者であり、被害者でもあったのだ。
“タイマンス作品の多くは、人間が善良であると同時に悪魔的である、というパラドックスに関連しています。”
本展示のキュレーター、キャロライン・ブルジョアはメールのやり取りの中でそう語った。彼女はその一例として、殺人犯であり人肉食者である日本人:佐川一政のポートレイトや、KKKのリーダー:ジョセフ・ミルティーアの笑顔が、実際の写真よりも淡い色彩で、まるで無害な人物として描かれていると指摘する。
タイマンス作品における倫理の複雑さが生み出す魅力は、彼の出自に由来していのるかも知れない。彼の両親はオランダ人の母とベルギー人の父で、2人は第二次世界大戦を支持するかどうかで対立していた。母方の家族が反乱軍で働いていた一方で、父方のフラマン人(ベルギー系)家族はナチスの協力者だったのだ。後に叔父がヒトラー親衛隊に指名されていた事実を、タイマンス氏は古い写真から知った。
“このことは知っていたようで知らなかった。” それでもこの話題は時折、家族の議論の中に出ていたそうだ。“間違ったこと・良いこと、という言い回しで話され、倫理のフェンスで囲われていたんだ。”
“Le Mépris”というタイトルの絵画 が今回の展示で唯一、マラパルテの本を直接的に参照しているとタイマンス氏は説明した。この作品はミシェル・ピコリとブリジット・バルドーが写っている、ジャン=リュック・ゴダールの同名映画(英語では“Contempt”、日本語題は“軽蔑”)のスチル写真を元にしている。この映画ではイタリアのカプリにあるマラパルテのクリフハウスが、結婚解消の物語のセットとして使われた。
小説原作の映画のイメージを絵画的に再現したこの作品について、タイマンス氏はこう言及する。“良い絵画は多層的で、多様な意味を持っている。そうじゃないとしたら、それはプロパガンダかイラストを制作しているんだ。”
パラッツォ・グラッシに展示される氏の絵画を再制作したモザイク画も、多くのレイヤーを持っている。彼曰く、この絵画はシュヴァルツハイデの強制労働所の奴隷労働者が描いた木炭ドローイングを元にしている。タイマンス氏の解説によれば、守衛に見つかるのを恐れてイメージは縦長に割かれ、生存者たちがそのピースをまた一つに集めたのだという。
“彼は現代の我々の問題を指摘するために、過去や現在の出来事を描写せずに参照し、歴史的問題を想起させるのです。”デ・ポント美術館のディレクターで、次回展示のキュレーションもおこなうヘンドリック・ドリーセンはこう語る。“彼の絵画は一瞬を氷結させていますが、この手法によって選択された場面以上の多くのことを想起させるのです。”
タイマンス氏は共同キュレーターのブルジョア女史と共に、そのような共鳴する一瞬を捉えた絵画を数多く選出した。“並置したときに、一種の緊張感を生み出す”作品を選んだと彼は語る。本展では、約40年間に渡って制作された作品たちが展示されている。
この展示で、作家活動全体に通底する意図を鑑賞者に感じてもらえれば、とタイマンス氏は述べている。“それは、物事を完成させながらもオープンエンドにしておく(意味を確定させない)というアイデアだ。”
La Pelle
March 24 through Jan. 6, 2020 at the Palazzo Grassi in Venice, Italy; palazzograssi.it.
A version of this article appears in print on March 26, 2019, Section C, Page 2 of the New York edition with the headline: An Artist Grapples With Moral Complexities. Order Reprints | Today’s Paper | Subscribe
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