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絵を描くことで記憶に残る
記憶するときに絵を描くことで記憶の定着率が変わるという趣旨の論文があったのでメモ(1)。
記憶に関する研究を見てみると、記憶,あるいは想起時の行動・環境によって記憶課題の成績が変わることが分かっています。具体的な研究の結果を例に挙げると以下のようなものがあります。
・記憶時に右手,想起時の左手を握ると記憶力が上がる(2)
・学習の間隔を開けるとよく記憶に定着する(3,4)
・想像すると記憶が増強する(5)
・記憶の検索を繰り返すと,想起しやすくなる(6)
このように記憶の定着率を上げる際に有用な研究の結果が多く報告されており,ちょっとした工夫が情報をより頭の中に長く留め,思い出すことを可能にします。
今回取り上げる論文は覚えるときに繰り返して記憶すべき対象を書くのではなく,絵を描くことでより記憶に定着することを教えてくれます。
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2016年にウォータールー大学のジェフェリー・ワメスらが記憶する際に絵を描くことでよく記憶が残るのかを調べるために実験を行いました。
対象となったのは大学生30名でした。
実験参加者はランダムに2つのグループに分けられ,PC上に提示される30個の単語を記憶してもらいました。その2つのグループには記憶の方法に以下のような違いがありました。
<グループ1>
絵を描く
<グループ2>
繰り返し書く
記憶する時間はあらかじめ40秒間と決められており,絵を描く場合は時間が許す限り詳細な情報を描き,書く場合は時間制限まで繰り返して書くよう教示されました。
その後,覚えている単語をできるだけ書き出してもらい,グループ間で団子の数を比較しました。
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実験の結果,ただ繰り返して単語を書いた場合よりも単語の絵を描いた場合の方がより多くの単語を思い出すことができました。その差は約2倍でした。
なぜ絵を描くことで記憶の定着率が高くなるのでしょうか。
それは実験4のイメージをする,実験5の写真の提示の条件で記憶正成績がただ書く場合よりも良くなったことから視覚的なイメージが想起する際の手がかりになった可能性が考えられます(5)。
しかしこの論文では単語の意味を理解して,グループ化するという深い処理は記憶の定着率を高めない可能性が示唆されています。
実験3では,絵を描く,繰り返して書く以外に単語の意味を考えてリストにするグループを入れ,単語の意味の処理をすることで深い処理が記憶の定着に寄与している可能性について調べています。結果,単語のリストを作成した場合であってもただ繰り返して書く場合と違いはなく,絵を描く場合と比較して記憶の定着が悪いことが分かっています。
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(1)Wammes, J. D., Meade, M. E., & Fernandes, M. A. (2016). The drawing effect: Evidence for reliable and robust memory benefits in free recall. Quarterly journal of experimental psychology (2006), 69(9), 1752–1776.
(2)Propper, R. E., McGraw, S. E., Brunye, T. T., & Weiss, M. (2013). Getting a grip on memory: Unilateral hand clenching alters episodic recall. PloS one, 8(4), e62474.
(3)Rohrer, D., Taylor, K., Pashler, H., Wixted, J. T., & Cepeda, N. J. (2005). The effect of overlearning on long‐term retention. Applied Cognitive Psychology, 19(3), 361-374.
(4)OSpitzer, H. F. (1939). Studies in retention. Journal of Educational Psychology, 30(9), 641–656.
(5)Bower, G. (1972). Mental imaginary and associative learning. New York, John Wiley, 51-88.
(6)Carpenter, K., et al. (2008). The effects of tests on learning and forgetting. Memory & Cognition, 36, 438-448.
■使える脳の鍛え方 成功する学習の科学/ピーター・ブラウン (著), ヘンリー・ローディガー (著), マーク・マクダニエル (著), 依田 卓巳 (翻訳)
■学び方の学び方/バーバラ・オークレー (著), オラフ・シーヴェ (著), 宮本喜一 (翻訳)
■LIMITLESS 超加速学習: 人生を変える「学び方」の授業/ジム・クウィック (著), 三輪 美矢子 (翻訳)
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