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錫森栞
2021年7月29日 06:26
自転車を漕いだ。湖沿いの深夜の路地を夜歩く蟻達を追い越して、後ろには私の腹を抱くように掴まる亜麻色の髪が一人。無機質に冷めきった路地の切れ目を渡ると月光の当たり方もやや変わって夜光虫の喧騒が嗚呼唯、よく見える。砂防林の間からその様子を眺めて、夜風が私の前髪を引っ張る。亜麻色の髪はまだ目を覚まさない。この反対の岸には大層立派な大学病院がある訳だが、この静寂の中でその夜景が湖面に反射し、夜
2021年7月25日 20:10
流れていく雲に手を伸ばそうが届かない靉靆を眺めるばかりの窓際の一輪の野花は花弁を落とす水をやる。花弁を落とす。薬をやる。花弁を落とす小さな灯火が最後に燃え盛るような八月某日そこには散った花々の上に蜉蝣がいた
2021年7月26日 17:14
虚構でしか生を描けない虚構の中に愛情が宿る虚構の中と早朝の喧騒に虚無透かし足つけた生暖かい泥の上に寝て湖面の月光が邪魔な目を包めば想い出の狭間孤独の平穏愛と快楽夜と人間の灯り私は湖岬に一人私の手を眺めても体温のまま雨粒眺めても虚構の中でしか生を体感できない