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水色の女の子

キラキラの折り紙がほしい。小学生以来だろうか、そう思って100円ショップの扉を開けた。小学生の時はどこか特別で、魔法のようだと思っていた金色の絵の具やスパンコール、キラキラしたビーズと並んで、その折り紙も売っていた。オーロラおりがみ、というらしい。5色のオーロラおりがみが、4枚ずつ入って100円+消費税。うーん、安い。家に帰って、それぞれの色を眺めているうちに、私の心は小学生の頃に戻っていた。

小学生のとき、仲の良い女の子がいた。仲良し4人組は、仲良しペア同士をくっつけたようなもので、私のペアは彼女だった。今思うと仲が良かったのかも分からないが、家が近くて、親同士が知り合いだったから、休み時間も放課後も夏休みも、ずっと彼女と一緒にいた。ずっといたのだから、それなりに仲が良くて、それなりに好きだったのだろう。たくさん喧嘩をしたけれど、その度元に戻って気付けば一緒に遊んでいた。

当時の私たちの周りには、アイドルや魔法使いが溢れていて、彼ないし彼女たちにはそれぞれの色があった。赤は情熱的、青は冷静沈着、というイメージが彼らの個性を際立たせる。もちろん、私たちもそれに憧れて、仲良しグループのメンバーに色をつけることになった。

多くの子が口には出さないものの、ピンクは特別な色だった。可愛くて、女の子らしくて、お姫様みたいで、ちょっぴりおっちょこちょいで、真ん中にいる子の色。母親の趣味で、落ち着いた色のものを着ていた私は(カーキのキルティングコートや、デニムのセットアップ、ベージュのチノパンなど。今でこそナイスセンス!と思うけれど、当時の私の目には地味なものとして写っていた)自分の色がピンクになるとは思っていなかった。でも、仲良しグループで決めた色は名前を書いたり、色違いのキーホルダーを持つときにしか使われない。私だってピンクを纏っていい。そうも思っていた。

「〇〇は、ピンクって感じじゃないから水色ね」
私は彼女にそう言われた。あとの2人はそれぞれピンク以外の色に決まっていたため、ピンクを掴んだのは彼女だった。彼女は日頃からナルミヤで全身を包んで、持ち物は大抵白かピンクか紫だった。彼女に特別ピンクが似合っていたわけではない。でも、小学生の世界では、そういう子がピンクを取れる。わたしがピンクね、と言える。〇〇の服ってボーイッシュだし、と付け加えられてはもう何も言えない。子ども向け雑誌で昨日覚えたような、ボーイッシュという単語。でもお洒落な意味なんかじゃない。女の子らしくない子がボーイッシュ。ボーイッシュな子は水色。水色は、ピンクの余り物。その日から、私は水色の女の子になった。

オーロラおりがみには、パステルピンクと、淡い黄色、オレンジ、ネイビー、そして水色の5色が入っていた。それぞれの色に魅力があったが、私が最も惹かれたのは水色だった。あのときは余り物みたいで、ピンクになれない子が身につける、可愛くない色だと思っていた水色。それを優しくて、冷たくて、広くて、可愛くて、好きだと感じた。今思えばシンデレラだってアリスだって、街にいたときのベルだって水色を身に纏っているし、ピンクだけが女の子じゃない。ピンクが似合う女の子は可愛くて強くて綺麗だけど、水色が似合う女の子だって可愛くて強くて綺麗だ。水色に囚われていたことすら忘れていたが、今の私が純粋に水色に惹かれたことで、小学生の私のモヤモヤはやっと晴れた。



余談になるが、母が一度だけピンク色の長袖を買ってきてくれたことがある。母が好きなブランドのバレンタイン限定商品だったのか、胸元にはchocolateと茶色い刺繍が入っていて、その周りに控えめながらも当時の私には十分すぎるほどのスパンコールと小さなビーズがあしらわれていた。2日に1回は着てたんじゃないかと思うほど、私はその服を気に入っていた。

今の私は、自分に似合うものが分かっていて、それらはピンクではない。でも、ピンクの長袖や、キラキラの折り紙くらい特別で、どこにでも行ける魔法を私にかけてくれている。100円+消費税。水色の女の子を救ってくれて、どうもありがとう。

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