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正しくゆがみ、真っ直ぐに進む

「あなた、女で良かったわねぇ。男だったらストーカー一歩手前よ」 こんな形で「女で良かった」と言われることがあるなんて。今も忘れない。数年前、手相を見てくれたおばあちゃん占い師に言われた言葉だ。今の性別を続けることで犯罪者一歩手前から逃れられるのならとか、それでも一歩手前なんだとか、たかだか性別ひとつで人の本質は変わらないんじゃないかとか、私の脳みそはぐるぐる回り、あらゆる可能性を手繰り寄せようとしていた。 ストーカー一歩手前という言葉の意味は、とにかく好きなものにまっすぐ向

    • それがあまりに美しいから

      「別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます。」という川端康成の言葉はあまりにも有名で、実践したことはないものの、どんなご時世でも変わらずに花を咲かすいわゆる季節の花を見る度にこの言葉を思い出す。人には人の花の名がある。それは音楽かもしれないし、景色かもしれないし、食べ物かもしれない。私のそれは、各駅停車の先頭車両だ。 学生の頃、私は先頭車両に乗って通学をしていた。階段や改札からは遠かったけれど、その分同じ学校に通う人も少なかった。好きな人と付き合い始

      • 初夏のブルー

        爽やかさと懐かしさと恐ろしさが全部混ざり合って溶けた美しさ。今年も夏が始まる。

        • 例えば明日が来るとして

          知っている人が亡くなった。彼女は知り合いの友達で、直接は知らないけれど、SNSでよく見かけるから、名前も職業も彼女が周りからいかに愛されているのかも勝手に知っていた。彼女の死は大々的にSNSに載っていた。彼女がどれだけ愛らしかったか、いい人だったか。残しておきたい瞬間がたくさんの人の心とカメラロールにあって、いいね稼ぎではなく彼女が生きた証拠のひとつとして形になっていた。 時を同じくして、身内の同僚も亡くなった。一人暮らしをしていたその彼は、連絡なしに出勤しないことを不審に

          海の底

          帰り道、風が強く吹いたとき、空を鯨が泳いだ気がした。10年に1度の寒波のおかげで、あたりが深海のように暗く冷えていたからか、木の枝や葉っぱが舞ったことで風が波のように見えたからか、低く唸る風が鯨の声のようだったからか。 鯨が私の横を通り過ぎた。ただそう思った。 鯨が空を泳いだら、どんなに素敵なことだろう。 私は海の底を歩いて進む。鯨が泳ぐ星空の海。 頭の中に描いた景色を、ずっとずっと忘れたくないなと思う。

          海の底

          水色の女の子

          キラキラの折り紙がほしい。小学生以来だろうか、そう思って100円ショップの扉を開けた。小学生の時はどこか特別で、魔法のようだと思っていた金色の絵の具やスパンコール、キラキラしたビーズと並んで、その折り紙も売っていた。オーロラおりがみ、というらしい。5色のオーロラおりがみが、4枚ずつ入って100円+消費税。うーん、安い。家に帰って、それぞれの色を眺めているうちに、私の心は小学生の頃に戻っていた。 小学生のとき、仲の良い女の子がいた。仲良し4人組は、仲良しペア同士をくっつけたよ

          水色の女の子

          ロックンロールは世界を変える!

          2022年9月22日木曜日。初めての銀杏BOYZ。そして、きっと最後の中野サンプラザ。 笑っちゃうくらい楽しいライブ、涙が込み上げるライブ、気が散ってなんだか集中できないライブ、生きてて良かったと思えるライブ。色んなライブに行ってきて、ここまで感動したライブは人生で2回目。1回目は、4年前。クリープハイプのすべて。そして2回目。銀杏BOYZ特別公演、君と僕だけが知らない宇宙へ。音楽ってすごい。音楽って愛されてる。私も音楽を愛している。泣いて、笑って、とても温度の高いライブだっ

          ロックンロールは世界を変える!

          夏の終わりと季節のうつり

          本を読もうと思って電車に乗った。でも、読むより書きたくなったので書くことにする。 人生に一度しかない23才の夏休みが終わろうとしている。すべてのことは人生に一度しかないのだけれど、とある人たちの歌う『23才の夏休み』に夢を見て待ち侘びていた身としては、感慨深いものがあったり、なかったり。海に行って、夏曲を歌って、花火を見て、かき氷を食べて、居酒屋をはしごして。夏のすべてを詰め込んだような時間を過ごした。 私が季節で終わりを感じるのは夏だけだ。 春は、春なんだか冬なんだか夏

          夏の終わりと季節のうつり

          alone again (naturally)

          夏の始まりに、悲しいことがあった。 付き合いの長い特別な友達に、誰にも言ったことのない大事な気持ちを伝えたら、至極真っ当だという顔をして否定された。ほんの二言、三言なのに人生丸ごと否定できるような言葉だった。一番近いと、一番好きだと思っていた人に、そんな風に思われていたことが悲しくてたまらなかった。分かってくれると思っていた自分がみじめだった。心の深いところが声も出せずに泣いていた。 ごめんねと言われたから、いいよと言った。私もごめんね、と言った。言うしかなかった。友人はばつ

          alone again (naturally)

          プレイリストより

          曲の美しさと相まって、いつ聴いてもたまらなくなる言葉。喉の奥、鎖骨の間の辺りがギュッとなる。誰に見ててほしいんだろう。何の深いところまで入りたいのだろう。何に許されたくて、どこに居場所を求めてるんだろう。ひとつも分からないけれど、涙が出そうなほど安心する。誰に、何に、どこに、とは思うのに、どうしてとは思わない。安心したいから。居場所がほしいから。温かさに触れたいから。それよりももっと深いところで、言葉にできないまま私にだけ分かる形でいるものが、そうしてほしいと言ってるから。寂

          プレイリストより

          今夜は月が

          時計の針が5時をさした頃、メイク直しもそこそこに職場を出る支度を始める。今日のために1週間の仕事を前倒しに進めてきたけれど、なんといっても残業がお友達の御社なので定時で上がることはできなさそうだ。でも、今日だけは。定時を20分ほど過ぎたところで、門をくぐる。うん、上出来。 好きなバンドに会いに行く。いつしか、それは私の生きる希望のひとつになっている。バンドとの出会いは、もう5年も前になる。趣味の合う友人から「あなたなら絶対に好きだから聴いてほしい」と、半ば押し付けるように受

          今夜は月が

          さっきの話

          恋愛映画を見るたびに思い出す人がいる。それは元彼…ではなく、元何だかイイ感じの人だ。よく連絡を取り合っていた頃、映画を見ては感想を送りあっていたからか、場内の照明が戻ると彼のことを考える体質になっている。数年が経ってもパブロフの犬のごとく、厄介な癖は治らない。 松居監督の『ちょっと思い出しただけ』を見た。 今回はエンドロールを迎えずして、彼のことを考えた。照生くんと葉ちゃんは付き合っていたけれど、私たちは付き合っていない。でも、思い出せば恥ずかしくなることばかりで早送りした

          さっきの話

          始発

          なくてもいいけど、あったら嬉しいものが好き。ほとんどの人がそうだと思う。芸術とか、おやつとか、ネイルとか、noteとか。なくても生きていける。でも、それがないと命は繋げても心は繋げない。 生きていくのに必要なものはいつも揃っていて、それでも心満たされなくて、余りを求めて余りに生かされている。つくづくありがたい人生だなぁと思う。 初めてはいつだって難しくて、最初に『つくる』を開いてからもう何日も経ってしまった。書いては消して、書いては消して、そうしているうちに言葉の賞味期限