
元カレ (掌編小説 3 )
今までのあらすじ
【久美はケンカして音信不通になった直樹と、1年ぶりに再会した。興奮と緊張でどうにかなりそうなくらい嬉しかった。だけど、直樹には既に恋人がいた。久美は思いきり落胆する】
直樹への不信感が募った。
でも、人のことは言えない。
(私だって恋人がいるのに、直樹に会いに来たんだから……)
「そっか、付き合ってる人、いるんだね。実は、私もいるんだ。新しい彼が」
「そうなんだ。久美、彼氏できたんだ。良かったね!」
直樹は嬉しそうに微笑んだ。
久美は内心、複雑だった。
(直樹は、本当に祝福してるのだろうか? だとしたら、もう私には未練はない、ってこと?)
「彼とはどこで知り合ったの?」
「えっと、読書サークルで……」
直樹は彼の年齢や職業も尋ねた。
久美は彼、渉のことはあまり言いたくなかった。
とりあえず、簡潔に伝えた。
今度は久美も質問してみる。
「直樹は、彼女とどうやって知り合ったの?」
「会社の後輩だよ。送別会の二次会で仲良くなって、それから付き合うようになったんだ」
「そう、なんだ……」
(私と音信不通にしてる間に、直樹は他の女性と仲良くしてたなんて、酷いわ)
久美は自分のことは棚に上げて、直樹を憎らしく思った。
直樹が何を考えているのか、ますます分からなくなった。
ただ1つ言えることは、直樹は久美とやり直したいわけではない、ということだ。
「久美、どうしたの? 難しい顔をして」
「えっ。だって、音信不通にしてる時、他の女と付き合い始めてたなんて、あんまりだわって思って」
「それは、お互い様だよ。 久美も他の男と付き合い始めたんだしね」
「………」
「まあ、今はお互い恋人がいて幸せなんだから、過去のことにこだわるのは、もう辞めようよ」
直樹は強引に話しを収束させようとしているみたいに思えた。
(今、私は幸せなんだろうか?)
彼、渉との付き合いは何事もなく、穏やかに続いている。
どちらかと言うと、渉が久美に熱を上げている。
久美は、どうしても直樹と渉を比較してしまい、
その度に直樹のほうが魅力的で、未だに好きなことに気づく。要するに、まだ未練があるのだ。
「久美、まだ時間、大丈夫?」
「えっ、何で?」
「久美から借りてる本やCDを返したいから、アパートまで来てくれないかな?」
「別に今日じゃなくても、また今度会う時でもいいんじゃない?」
「今度といっても、次はいつ時間取れるか分からないんだ。普段は彼女と一緒にいるからね。今日は、たまたま彼女は用事があって会えないから、今日がいいんだ」
強引な直樹の誘いに応じるべきか、久美は考えた。
本とCDを貸してたことも、すっかり忘れていた。
(考えてみたら、今夜は渉と会う約束をしてたんだ。
どうしよう)
渉は遅い時間に久美のアパートを訪れる予定だ。
(渉とはいつでも会えるんだから、用事ができたと言って、断ろうかな)
久しぶりに直樹の部屋に入ってみたいと、久美は強く思った。
密室に2人きりになると、直樹の気持ちが揺らいで、久美への想いがぶり返すのではないか?
という期待もあった。
「うん、分かった。アパートまで行くわ」
つづく