勇者または勇者のパーティーになれと王様に命令されたが 超絶面倒臭いので断わりました 7話
黒い剣士の力
輝「おい勇者···どんな神経で奴隷を連れ回している」
ガタン!!
ただならぬ雰囲気にセシルが立ち上がり、ざわついていた筈の店が一変して静まり返ってしまった。萌は言葉を作ろうとするが、輝の豹変ぶりに言葉を上手く作れない、彰は何が起きたのか整理が付かぬまま柄に手を添え輝と対峙していた。
彰「ちょ、ちょっと待ってくれよ何だよ急に」
萌「ごめんなさい彰、どうやら私達は虎の尾を踏んじゃったみたい」
首を傾げる彰に萌えは隷属の首輪を2回突っついた。
あぁと理解した瞬間だった、輝の一撃が彰の頭部を掠め壁が抉り取られ外の明かりが室内を照らした。
彰「うぉい!!何だよその力は···え!!若しかしてあんたが黒い魔神!!」
萌『行き成り出逢うとは、それに誤解なんだけど彼の実力を知る為に彰に任せるしか無いわね?若し噂が本当であれば説得すれば分かってくれる筈、私の目的も』
彰は一瞬の隙を付いて外に出ていた、そして誤解を解く事も不可能なのだと輝の表情を見て悟っていた。
彰『さてどう切り抜けるか、相手は一国を滅ぼす化け物だ、嘘か真か確かめるしか無いのだが』
確かに一撃は鋭いし重い、だが戦えない相手ではない。
輝「お前、今俺を軽く見たな?悪いが街の中で野次馬も集まって来ているから力を抑えている」
彰「う、嘘だろ?それが全力なんじゃ」
そこへセシルと萌がやっと外に出て来た。
セシル「御主人様!!街中では犠牲者が出てしまいます!!」
セシルの叫びに動きを止めた輝は、刀身を逆さまにし彰目掛けて下から振り上げた。鋭い波動が彰を捉えると、勢いそのままに彰ごと街外れまで吹き飛ばした。
彰「ぐぁ!!ま、漫画かよ」
萌「彰!!」
凄まじい攻撃に萌は思わず彰の心配をするが、それを察知したセシルが街の外に追い出すだけの攻撃だから心配ない、だがこのままでは彼は死ぬから急いで止めると言い二人の元へ急いだ。
随分街の外に吹き飛ばされたものだ、やっと辿り着いたが状況は最悪、だが萌の範疇内だけに焦りはなかった。
セシル「何故あなたはそんなに落ち着いていられるのですか?」
萌「私が落ち着いてる?そう見えるの?」
セシル「えぇ、私も奴隷だったから···でもあなたの言動には落ち着きがあり過ぎる、このままあの勇者が死んだらあなたも死ぬのよ?」
萌「あぁそうだったわね?でもこの首輪は特殊でね?その効果は解除してあるの」
セシル「解除って······アナタ一体何者なの?」
萌「それよりそろそろ止めに入らないと駄目そうかな?本当に死なれても困るからさ」
萌えは小さく何かを呟くと二人の戦いを遮る様に特大の風魔法を放った。
激しく渦を巻きながら風魔法は輝と彰の間を通過し、二人を弾き飛ばしたまま上空へと消えて行った。セシルが驚き輝が反撃するよりも早く彰が対応する。
彰「テメェ萌!!殺す気かよ!!」
輝『テメェ?それに萌って······コイツら転生者だったのかよ···でも転生とはちょっと違うか?二人共弱すぎる······まさか転移とか召喚の類か?』
萌「あれ位の攻撃じゃ彼は傷一つ付かないわよ?」
彰「違う!!この化け物じゃ無くて俺!!」
呆れて両手を上げて溜め息を付いている萌を見ながらセシルは顔をしかめていた。何故?仲間じゃないのか?今の攻撃は確かに二人を狙った、避けさせるサインはしていなかった。奴隷が主人を攻撃する事なんて···
萌「奴隷が主人を攻撃したのがそんなに驚いたの?」
セシル「え!!な、何で」
萌「だってアナタさっき私も奴隷だったって言ってたじゃない」
セシルが萌の正体を暴こうと話し掛けるも、タイメング悪く輝がボコボコにした彰を萌に投げ付けて来た。
萌「あらら、これ程実力差があっただなんて、ヤッパ噂は本当だったって事か」
ピクリとも動かない彰に回復の魔法を掛けていると、輝が剣の先を萌に向け落ち着いた声で話し始めた。
輝「お前達の様な他世界(いこく)の者が好きに暴れて良い所ではない、さっさと自分達の国(世界)に帰れ」
彰「お、俺達の国ってったって」
萌「そうね?あなたの言う通り私達はこの世界に取ってシコリでしかないわ?でも···ううん分かったわここは一度退散する、でも私達にはあなたのその強大な力が必要なの、だからまた来るわ」
互いにセシルに気を使って話している事に気付いたセシルは輝の腕を取り街へと連れ戻り、萌は彰の肩を取り一度近くの村に寄り治療を済ませてからグラニウムに戻った。
彰「何なんだよあの桁外れな力は、あんなのにどうやって勝てばいいんだってんだ」
萌「あのさぁ、いつからあれと戦う事が目的になってたの?」
え?と驚きの反応をした彰に、溜め息と首を横に振りながら今までの経緯と当時の目的を改めて説明した。
彰「ヤベエ事したかも······」
萌「そうかもね?彼の怒りの原因は今回も前回も奴隷だった、若しかしたらこの国を潰しに来るかもね?」
彰「いや、俺達はどこの誰かは」
萌「自信満々にグラニウムの勇者だって名乗ってたけど?」
彰「うっ!!······じゃぁ」
萌「そうならない様に彼とちゃんと話しをする必要があると思うけど?それとあなたにも話しておかなくてはならない事があるから」
彰が尋ねるもそれは別の場所でと如何にも周りを警戒した素振りで話して来た。ただこの世界の実態を知るべきだからとだけ言い付け加えて。
その頃セシルは輝から輝自身の事を聞かされていた、輝は別世界の人間である事、死んで来たから戻る事は出来ない事、あの二人も輝と同じ世界の人間である事、だがきっとあの二人は生きたままこの世界に来ている筈だから帰る手段があると言う事を。初めは信じなかったセシルだが輝の力を疑う事は出来ず、またチートスキルを見せ付けられては信じるしか出来なかった。
日を改め輝はスキルを上手く組み合わせ能力向上とレベルアップ向上の指輪をセシルに作り、今後のためだからとセシルを連れ狩りに出掛ける様になった。
どこで習得したのか、輝の教え方はとても良く、見る見る内にセシルはレベルを上げて行き、たった2ヶ月足らずでA級冒険者をも軽くあしらえる程に成長した。今では一人でA級冒険者が数人で斃さなければならないジャイアントグリズリーを一人で斃せる様になっている、然し討伐後石を回収している所で輝に叱られてしまった。
輝「何だあの動きは、と言うか何で正面の攻撃に強い事は先に話しておいたのに態々正面で戦うんだ」
セシル「あの程度の敵如きで回り込んで戦っていたらそれ以上の敵とは戦えません、それこそ御主人様の足手纏になってしまいます」
輝「セシル、御主人様は止めてくれと言ってるだろ?」
セシル「ですが私に取ってあなた様は」
輝「俺が奴隷制度を嫌っている事は知っているだろ?御主人様なんて言われたらそんな糞どもと同じ扱いをされている様で気分が悪くなるんだよ」
セシル「で、でも······私に取ってお慕いする大切な」
輝「輝でいいから、これからはそう呼んでくれ」
セシル「そんな事」
輝「その方が親近感があるだろ?それに大切な人には名前で呼ばれたいんだ」
その言葉に顔を真っ赤にさせ下を向いてしまい、小さな声で「はい、輝様」と呟いた。
セシル「ありがとう御座います輝様、セシルはいつでも輝様の為ならば···········」