勇者又は勇者のパーティーになれと王様に命令されたが 超絶面倒臭いので断りました 6話
黒い剣士
彰は萌のサポートを受けながら着々とレベルを上げて行った、彰にも何かしらの恩恵を受けているのだろう、半月足らずで既にBランクの冒険者にも匹敵する力を付けている。
萌『この人もギフトを貰っている、私は魔力に特化したけれど彰はきっと力に特化している筈、でなければこのレベルの上がり方は説明が付かない』
彰「おい聞いているのか?」
萌「え?あ、ごめんなさいちょっと考え事をしていて」
彰「若しかして黒い魔神の事か?」
萌「そぉね?私達の目的は国に害をなすものの殲滅、矢張り一度調査をした方が良いと思うのよ」
彰「国を1つ潰す程の力があったとて、グラニウムに直接被害が無ければほっとくって事か」
萌は飽く迄も偵察だからと言うが、他に目的があるのだと気付き元邪神国に行く事を了承した。
道程は思いの外遠く国に入るのに7日を要した。
ギルドで聞いた噂では邪神国は崩壊したと聞いていたが、途中の村やこの街は全て平和そのものだった。
彰「本当に滅ぼされたのか?街の雰囲気からしてそうは思えないが」
萌「とにかく街の人達に色々と聞いてみましょ?」
だが二人が思っていたのとは全くの逆で、街人達からは魔神所か感謝され親しわれてさえいた。
ある人は剣士様のお陰で今までより住みやすい国になったとか、また別の人からは悪質な兵隊が居なくなって助かった、この国から奴隷制度が無くなったとか、とにかく感謝されど悪態を付く者は一人も現れなかったのだ。
彰「どうなってんだよ、この国では魔神所か神様扱いされてんぞ?」
萌「えぇ···国を潰された人達の反応じゃ無い事はたしかね?でもどうして魔神はそんな事をしたのかしら」
すると一人の商人らしき男が二人に話し掛けて来た、どうやら元奴隷商を営んでいたと言う、男が言うには黒い剣士が王国貴族を殲滅させると、一人の力を持っていた男爵様に国を収めさせ奴隷制度を撤廃させたらしい。
萌が男にその剣士が国を収めているのではないのか?と聞くが、剣士は政治や国には興味が無いとだけ告げてどこかへ行ってしまった様だ。
彰「ちょっと待てよ!!国を収める気も無いのに一つ国を潰したって言うのか?どんだけ気紛れな奴なんだよ」
萌「そうね?目的が分かれば対処の仕方があったのだけれど、何か逆鱗に触れる事でもあったのかしら」
彰「いや、それこそ危ねぇ奴だって、そんな気紛れだけで暴れられたんじゃ全ての国が無くなっちまうぞ?」
萌「そんな事は無いわよ、この国の村人や街の人達は?皆感謝しているじゃない」
とにかく二人はもう少しどんな人物か当たってみる事にした、幸い好感を持たれている相手だからいくらでも情報は得られるだろう······と。
日が暮れて来て宿を取る事にした、思っていたより良心的な宿代に安心したが、二部屋必要なのに一部屋でベッド2つには正直困った。 萌は冗談でベッド一つでも構わない、と言うが僕の友人から聞いた話しでは、女は一度寝てしまうとマウントを取りに来ると言う、まだ旅の始まりだと言うのに行き成りマウントを取られるのは流石にあれだ、まぁ中々の美人だからおいおいそうなればって。
萌「ちょっと聞いてるの?明日の打ち合わせなんだけど」
彰「あ、え?あぁそうだな?」
萌「今······変な事考えてなかった?」
彰「え?いや、そ、そんな事」
萌「夜中に襲って来ないでよね?」
彰「ば!!そ、そんな事しないよ!!」
こうして二人の一日がまた終わった。
翌朝二人は軽く食事を済ませてから街での聞き込みを始めた、今日は黒い剣士の人物像を中心に当たって見る事にしたのだが。
彰「別に洗脳されてるって訳じゃ無さそうだけどよ」
萌「えぇ、こうも高評価ばかりだと逆に怪しくも感じるわね?」
彰「なぁ、一旦飯にして次は商業区周辺にしてみないか?」
萌「そうね?今のままで判断するには情報が偏り過ぎているものね?」
彰はこの街に来て直ぐに気に掛けていた食事亭に足を運ばせる、この世界に来て初めて見た行列がその店にはあったからだ。行列イコール美味い!!彰はそう変換していた。
店に入ると思ったより中は広かった、一階はテーブル席多数にカウンター、中央ホールが見下ろせる形の二階と言う作りになっている。
二人は二階へ上がり彰は店のおすすめ、萌はスープを中心に軽めの食事にする事にした。待っている間周りの話しに聞き耳を立ててみるるが、話題は黒の剣士様の話しばかりだ。
やがて食事時なのだろう、店が混み始めた。午後に向けて会議をしていると店員が声を掛けて来た。どうやら相席を許可して欲しいらしい、二人は快く承諾すると暫くして二人の男女が同席した。
萌『男の方は戦士タイプと言うよりは剣士って感じね?線の細さから魔道士って事もあるかしら』
彰『うお!!女の人メッチャ綺麗じゃないか、萌も中々だけどこの人はまた特別に』
彰の視線に気付いたセシルが優しく微笑みを向けた。
輝「見掛けない顔だな?」
彰「あ、すみませんつい綺麗だったので見惚れちゃいました」
萌『馬鹿···聞かれた事だけ答えればいいのに』
輝「旅の者か?」
萌『間違っても勇者だなんて』
彰「そうですね?一応グラニウム国の勇者として旅してるんです」
萌『大馬鹿!!』
ドカッ!!
萌の渾身のケリが彰の脛に打ち込まれると、悶絶してテーブルに伏した。
輝「成る程···指して国が潰された原因調査って辺りか」
もう誤魔化すのは不可能と判断した萌は自身が魔道士である事と、二人が異世界人である事を伏せ目的を話し始めた。
輝「その剣士なら大丈夫だ、お前達の国に手を出す事は無いだろう」
萌「何故アナタがそんな事を分かるのですか?それにこの街の人達は洗脳されている、街の人達に取っては救世主的存在かもしれないけど、人一人で国を潰す程の力を持った者なのよ?そいつの気が変わってしまったら?」
輝と萌の話しに黙って聞いていたセシルが間に割って入って来た。
セシル「剣士様とて人間です、若しかしたらアナタ達の国にも牙を向けるかもしれません、でも何も無ければ、火種が無ければ燃える事はありませんから」
真剣な眼差しで語るセシルに小さくため息を零すと、この国に起きた火種を聞き出そうとした萌の隷属の首輪を隠していたスカーフがハラリと解け落ちた。
セシル「隷属の首輪!!」
萌「え?あ、これは」
慌てたのは萌よりもセシルの方だった、輝に視線を向けるが時既に遅く輝からは殺気が放たれていた。
輝「おい勇者······どんな神経で奴隷を連れ回している」