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勇者または勇者のパーティーになれと王様に命令されたが 超絶面倒臭いので断わりました 9話

       魔族の集落で
今朝は蒼天だったのにいつの間にか雲が多くなって来た、セシルが言うには魔族の集落が近い証拠だと言う。何でも気候を変化させる程の山脈と渓谷があるかららしい。
 人が殆ど近付かない為に野生の動物や魔物の住処となっている様だ、そして魔族の集落はその山の麓にある。
 ここに来るまでに5日を要したが、セシルは鍛えたお陰か能力向上の指輪を与えたお陰か、苦も無くここまでやって来た。そして厳しい魔物との戦いでまた強くなった······少し気負っている気もするが。

輝「セシル、焦る気持ちは分かるが話しでは彼女達に今直ぐ何か起こる事は無いと思う、だから少し落ち着け。辿り着く前に殺られるぞ?ここら辺の魔物はレベルが高い」
セシル「分かってはいるのですが···若し討伐隊とかが派遣されていたらと思うと」
 朝街を出てからセシルは一度も笑っていない事に気付いた輝がそっとセシルの頭を撫でた。
 自分には大した事は出来ないが、これで少しでも落ち着いてくれればと軽くクシャクシャと撫でてみる、すると落ち着いたのか表情が少し柔らいだ。

輝「セシルが心配している事は恐らくだが現実になるだろう、話しによれば民間を襲ったりしているんだろ?間違いなく国は動く筈だ」
セシル「そんな······だったら急がないと!!」
 そんな慌てたセシルの頭を今度は少し強めにクシャクシャ撫でながら輝は笑顔を見せた。
輝「本当は今後の為にセシルのレベルアップをさせたかった、だから俺は一人で戦わせていたんだが、これからは俺も戦う。それで村までは最速で行けるだろ?」
セシル「輝様」
輝「まぁちょっと嫌な感じがしたからさ、今回だけだぞ?本当は面倒事が嫌いなんだ」
 口癖だろう、輝にはいくつ今回だけがあるのかな?と思いながらクスッと笑い輝の腕にしがみ付いて「ありがとう御座います」と呟いた。
 そこからは村に着くのは早かった、流石輝と言うべきか···全ての魔物を瞬殺、中には威嚇をする前に斃されるものまで居たぐらいだから。 
 予定より2日早く着いた、二人は今村の外で待機している。魔族とは転移や召喚で呼び出され、ラベリアルの花の蜜を飲まされた、だがギフトを得られず処分された生き残りである。だがギフトを貰えなかったとは言え蜜の効果は効いている、体の変化に加え力も上がっているのだ。
 元人間だけあって秩序を守ってか、争いの無い世界での生活を継続しているのか、ひっそりと暮らしていたらしい。だがこの数ヶ月前から数人の気性が荒くなり行商の馬車を襲ったり、村を襲撃する事が始まった。そこで輝の話しを聞きつけた一人の魔族がセシルに接触して来たと言う訳だ。

 長が魔族について全て話しをしてくれた、だがセシルは輝が元同郷だと言う事は話さなかった。この世界では転移と召喚は割と行われている、だが今まで転生者が居た事は一度も無いからだった。
 新たな情報としてここに集まった魔人達、彼等の殆どは身体の変化に合わせ人間であった時の記憶を無くしている、だが稀に元の世界での記憶を残した者が居るらしい、その者達が村の中心となり平和を築いていたのだが、数ヶ月前にふらりと村に来た魔人が若い男衆を集め行動を起こしたと言う。
 村に来た時は記憶は無いと言っていたのだが、恐らくそれは嘘だったのだろう。『復讐』それが彼の望み、誰もが疑いなくそう思った。
 今思えばだがその男は自分の名前だけは覚えていたと言う。輝は長の長田敏郎にそう告げると長田は輝に報酬は与えられないが助けて欲しいと頭を下げて来た。
輝「悪いが俺もこの世界で生きる者、無償で命を賭ける程甘い男では無い」
長田「当然の応えで御座います、分かりました魔族の問題は魔族で解決します、心苦しいですが秩序を乱した彼等には制裁を与えます。でなければここで大人しく暮らしている他の者達に被害がでてしまいますので」
輝「急いだ方がいい、恐らくグラニウムはもう動き出している筈だ」
 セシルは両の手を強く握り己と葛藤している、そんな中セシルと接触した女が強い視線で輝を睨み付けて来た。
佳代「私は谷村佳代です!!何故アナタはそれ程の力を持っているのに弱者を助けてはくれないのですか!!」
 辺りにざわめきが起こった、当然セシルも驚いている。だが輝だけは確りと佳代を見詰め返していた。宥める長田、慌てふためくセシル、落ち着きを無くした村人、そしてゆっくりと輝が話し始めた。
輝「すまないね?俺は面倒事が嫌いなんだ、それに俺に直接害が無いのなら俺は大人しく暮らしていたいんだよ」
セシル「佳代ちゃん!!大丈夫だから、私が協力するから、私は力が無かった、でも輝様に鍛えて貰って今はA級冒険者よりも強くなったんだ、だから佳代ちゃんは私が、ううんこの村は私が守ってみせる!!」
佳代「セシルちゃん」
 長田や村の皆はセシル一人で何が出来ると言う顔で話しを聞いていたが、輝がこの村の全員でセシルと戦っても恐らくセシルが勝つと断言すると、一斉に静まりかえった。
セシル「と言う訳で輝様、申し訳ありませんがこの問題が解決するまで暫くお暇を下さい」
 輝は真っ直ぐなセシルの目を見て頭を掻きお決まりの台詞を吐いた。
輝「ったく···今回だけだぞ?はぁ···面倒事は嫌いなんだけどなぁ」
 だが今回に関してはセシルが食い付いた、幾ら輝が強くても相手は大国、それも恐らくグラニウムとベスタニルの2国を相手にする、即ちそれはこの世界の半分の戦力と戦う事になるのだから輝でもと、そこで輝が話しを遮った。
輝「たった半分か?そんなんで俺をどうにか出来るとは到底思えないがな?」
 その言葉に再び辺りはざわめくが、下を向き己の発言に後悔しているセシルを見て誰もが息を飲んだ。そして恥じて涙を流すセシルの頭を軽く撫で優しい声をかけた。

輝「大切な人も守れないで大人しく暮らす?そんなクズにはなりたくないんだよ、お前が守るものならば俺が守らないとな?」


 一方勇者御一行は4万の軍隊を連れ後2日と言う所まで来ていた。当然指揮を取るのは勇者の彰、その参謀として萌だ、だがギフトを貰っているこの二人でもこの区域の魔物には苦戦させられていた。
彰「何なんだよここいらの敵は!!滅茶苦茶強いじゃないか」
萌「それに数も多い、このままだと直に魔力が尽きちゃう」
 この区域の魔物が強い理由、それはここら一体がラベリアルの花の自生地だったからだ。ラベリアルの花の蜜は何も人間だけが能力向上の対象ではない、そもそも元は人間が魔物の異常な強さを調べている内にラベリアルの花の蜜の事を知ったのだから。
 そして到着まで半日を残し安全な場所を確保して身体を休める事にした。
彰「魔物でこの強さなら魔人ってのはどんだけ強いんだよ···俺ここの所苦戦してばっかだなぁ」
萌「まぁ黒い剣士にはボコボコにやられてたけどね?」
彰「思い出させるなよ、あんな化け物誰も勝てやしないって」
萌「そうでしょうね?一体どんなギフトを貰ったのかしら」
 目が飛び出るほど見開き、開いた口が塞がらない儘の彰を見てクスッと笑う萌、そして確実では無いが確信があると言い根拠を話し始めた。
萌「色んな所があったわよ?私達の話しの中で元の世界での言葉や話し方、こっちでは存在しない言葉もね?でもあの人は普通にそれを聞いていた」
彰「そんなの、俺達みたいのと関わった事があるかもしれないじゃないか」
萌「かもしれない、でも隣に居たセシルちゃんは違った」
彰「セシルちゃんかぁ···メッチャ可愛かったなぁ」
萌「多分彼の前でそんな事言ったら消し炭にされるわよ?」
呆れて「だ、だよな?で?セシルちゃんが何だって?」
萌「彼女は私達の会話をそこそこ理解していた、でも挙動がね?彼がこっちに来た事をバレないか気にしている様子だった」
 「本当かよ」と疑う彰に萌は鼻の下を伸ばしているスケベには気付かないわよ?と一蹴されてしまった。

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