正しい努力の仕方
「僕だって(私だって)努力してますっ!」
なんてフレーズを口に出したことも、耳にしたこともあると思う。
誰だって、何らかの形で努力をしている。
僕は「努力が報われる」という言葉は、言葉が少し足りないんじゃないかと考える。
結果を出したいならば、適切なエネルギーで、適切な方向性で、自分に合ったやり方でする努力が報われると考える。
20代中盤を迎えた僕は、そろそろポッチャリ枠に入るくらいには太り出し、外見での勝負を諦めていた。
今考えると「あきらめないで!」といいたいが、その頃はリバウンドを繰り返し、正しい痩せ方がわからなかったし、「専門家にお金を払ってダイエットをする」という発想が、そもそもなかったのでしょうがない。
外見で勝負はできないから、これからはトーク力に磨きをかけることにし、僕はふと、あることを思い立ち実践していく。
出会った女性に「また会いたいと思わせたい!」と強く思ったのだ。
女友達が昔から多かったので、色々な女友達と、会ったりしながら練習をすることにした。
来るべき日のために。
女の子の悩み相談、飲み会、ランチ、ディナー、カラオケなど多種多様なシチュエーションでお話する。
そうしていくうちに、だんだんとお話しをするときの、女性特有のポイントをつかんでいく。
そんなある日、女の子からラインの通知が届く。
「ねぇねぇ女子会しよーよ!」
ツッコミどころが多い連絡だった。間違えて送ったのではないかと疑う。
「女子会? 俺は男だけど!?」と、返事はしたものの「いいから来て欲しい。」というではないか。
「俺は男だから、女子会フューチャーリング網村(以下女子会)ということで良ければ参加する。」と答える。
このポイントは譲れない一線だった。
「あくまでも男性としてのゲスト参加なのだ。」という想いがなくては、僕は僕が男たるプライドを捨ててしまうような気がしていたのだ。
僕が僕であるために、声を大にして発信する。
「僕は男で、好きになるのは女で、今まで付き合ってきた相手も女である。」以上!
女子会のメンバーは、もちろん僕以外5人が同世代の女子だった。
女子会が始まると、なぜ僕が呼ばれたのか理解した。
みんな大人数で話をするのが苦手なメンバーだったのだ。
女性達は、何を話題にすればいいかわからなかったようで、僕は男女の価値観の違いや男からみた女性の理解できないポイント等の話題を提供し、女性達の恋愛話を聞きながら、男代表として意見を出し、盛り上げる。
僕は参加者の誰よりも、「わかるー!」、「だよねー!」という共感ワードを連発していた。
誰よりも共感し、話題を提供し、発言の少ない人の発言回数にも気にかけ、さりげなく会話のパスを出す気配りを忘れない。
僕は何かを捨てて、完璧な女子会の司会者ぶりを発揮していた。
ファースト女子会の後、参加者の女の子から「めっちゃ楽しかった!また会いたい!ぜひまた女子会しようねっ!」というラインの通知が届く。
それを見たときに、僕は我に返る。
努力の方向性を盛大に間違えてしまっているじゃねーか!「女性からまた会いたいと思わせる」ってそうゆう意味じゃねーよ。俺、何してるんだよ!
自分で自分に盛大にツッコミをいれた。
「ムダなことにエネルギーを注いでしまった」という想いが浮かび、そもそも感じなくてよかったはずの、こんなはずではなかったという虚しさが込み上げ、僕は空を見上げる。
それから季節の変わり目で何度か女子会のお誘いがあり、何だかんだで僕も参加しながら、月日が流れた。
その頃、僕は、今勤めている職場の採用試験(最終試験)を受験していた。
最終試験では集団討論がある。
「あるテーマを元に、受験者みんなで意見を出しながら、一つの結論を導き出す」という内容なのだが、大体そうゆう試験では司会者、書記、タイムキーパーなどの役割があるのだ。
そこで僕は、司会者に立候補する。
僕は司会者として、他の受験者の意見を聞きながら、誰よりも共感し、話題を提供し、参加者の発言回数を頭の中でカウントし、発言の少ない人にはさりげなく会話のパスを出す気配りを忘れない。
話を盛り上げながら、制限時間内で、一つの結論を参加者みんなで導き出す。
僕はその採用試験で合格した。
しばらく後で、集団討論をしたときの受験者と再会し、「司会が凄かった。君は受かると思ってた。」等のありがたい言葉をたくさんいただく。
僕が過去に嘆いた、何の意味もないと思っていた女子会の司会は、まさかの人生を左右する採用試験という来るべき日のために、役に立っていた。
来るべき日のためにって、そうゆう意味じゃねーよ!
こんなはずではなかったが、
司会者として僕を鍛えてくれた、女子会のメンバーに不覚にもありがとうとお礼を言いたくなる瞬間だった。
なぜそんなに司会が上手なのかと受験生から聞かれたが、
「司会者として大切なことは女子会から学びました!」
なんてことは口が避けても言えないし言いたくない。