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物語には笑いが必要(2024年12月の観劇記録)

12月は、物語における笑いの重要性を感じる舞台を多く観た気がする。

↑これまでの観劇記録はこちら↑



ハリー・ポッターと呪いの子

開幕時に一度観ているが、2年ぶりに改めて観劇。

物語の流れを理解した上で改めて観劇すると、観客の視線の誘導や、伏線の張り方といったことが綿密に計算されていることが理解できた。

不思議なもので、前回は家族の物語という印象だったが、今回は友情の物語という印象を受けた。

メインキャストは開幕時からほとんど入れ替わっていたのだが、今回のキャストは全体的になんとなく薄味に感じてしまった。
特に前回の観劇時には笑いが起きていたシーンで、今回は笑いが起こっていないみたいなことが複数回あり、惜しいなと思った。


夏の夜の夢

演出があまり好みではなかった。
23年の「ジョン王」ほどではないが、今回の演出も意図を理解しかねる箇所がところどころあった。

一番謎だったのは、選曲。
ラストシーンで唐突に”Stand By Me”が流れた際には、役者の台詞を聴くべきところなのに、思いがけず音楽に気を取られてしまった。
カーテンコールでは、ジョン・レノン”HAPPY XMAS (WAR IS OVER)”が使用されていた。12月の公演だし、曲の副題は物語の結末と合致するので、意図はわからなくはないが、そもそも「夏の夜の夢」はクリスマスの物語ではないので微妙な感じ。
(そういえば、「ジョン王」では何故か「涙そうそう 」が使用されていた)

ラストの場面で、ヒポリタ・ハーミア・ライサンダーの女性三人が、赤ん坊を抱くシーンがあったのだが、なんとなく取って付けた印象を受けてしまった。

また、前半は蜷川さんのオマージュなのか客席を頻繁に使っていたが、後半は単調な暗転が多いのも気になった。


桜の園

2023年のPARCO劇場のプロダクションに続いて、桜の園を観るのは今回が2回目。
前回のショーン・ホームズさんの尖った演出に比べると、今回の演出(ケラリーノ・サンドロヴィッチさん)は随分とオーソドックスな感じ。

ケラさんの演出は、今回もスタイリッシュで、特に場面転換のスマートさが素晴らしい。
今回は、いつもの一人ずつキャストの名前が表示されるオープニング映像的なのものはなかったが、確かに今回の作風を考えると、カットしたのは正解だと思う。

キャストでは、ロパーヒンを演じる荒川良々さんが特に印象的だった。
農奴から這い上がったという自負や、生来の心の清らかさや、ワーリャに想いを告げられない健気さなど、ロパーヒンの様々な感情が見え隠れしてきた。
トロフィーモフ役の井上芳雄さんのあの個性的なビジュアルは、東宝の舞台ではまずやらなそうで面白かった。

まだチェーホフは面白い!と言えるほど、理解できている気はしないが、なんとなく楽しみ方がわかってきた気がする。


next to normal

ここ数ヶ月で一番ぐったりする舞台だったが、観られて良かった。

メンタルヘルスの重要性が唱えられ、カウンセリングが普及しているアメリカだからこそ生まれた作品だなと感じた。
医師や治療に関する点で、この描写でいいのだろうかと気になるシーンもあったが、ダイアナが家を出るというラストは良かった。
家族としてうまく機能していないのであれば、一度離れてみるというのも大切な選択肢だと思う。

脚本で何より良かったのは、双極性障害を患うダイアナをサポートする夫のダンもケアされるべき対象であることを示していること。
ケアをする者は同時にケアされるべき者であることが、2000年代後半に作られたミュージカルで描かれていることにグッときた。

作中で深掘りはされないが、ダイアナがやむを得ずキャリアを捨て、家庭に入ったであろうことなど、垣間見えるバックグラウンドのストーリーもなかなかにしんどい。
また、ダイアナがダンに向かって言う「会社に私が変って知ってる人が3人はいるってこと?」(※台詞はニュアンス)など聴いているだけでも辛くなる言葉もたくさんあった。

シリアスな展開が続くだけに、救いとなるような笑える場面がもう少しあるといいなと思った。
おそらく英語ではジョークなんだろうなという箇所が、日本では流れてしまっている感じがして、この辺りは翻訳劇の難しさを感じる。

また訳詩においては、英語歌詞の印象的なフレーズはそのまま残している部分も多く、英語と日本語が混じった歌詞になっている点は少し気になった。

キャストでは、ナタリー役の小向なるさんとヘンリー役の吉高志音さんのフレッシュさが、作中の中でひときわ印象的だった。


天保十二年のシェイクスピア

2020年の初演より、何だか観やすくなっているように感じた。
演出の大幅な変更はなさそうだったが、細かなブラッシュアップを実施したのかも。
笑いどころなどが分かりやすくなり、メリハリが付いた印象を受けた。
(とはいえ、上演時間が4時間弱とは、なかなか長い…)

キャストでは、きじるしの王次から役替わりした浦井健治さんが佐渡の三世次を好演。個人的には、今回の佐渡の三世次の方が似合っていた気がする。新国立のシェイクスピアシリーズにも出演していただけあり、長台詞も板に付いていた。
また、前回から続投の唯月ふうかさんが存在感を増していて、より印象に残るお芝居だった。


ガンバの大冒険

劇団四季のファミリーミュージカル。
爽やかな冒険譚かと思いきや、メインキャラクターの死など、割とシリアスな展開が続く作品だった。

休憩込みで2時間弱の舞台にしては、登場するキャラクターが多く、展開も早いので、全体的に駆け足な印象を受けた。
例えば、ガンバたちと敵対するノロイは強烈なビジュアルなのに、舞台奥からひっそり登場するので、自己紹介のナンバー等があってもいいのにと思った。

2024/12/26 ソワレ

ハイバイの20周年公演。
「next to normal」
同様、一番近くて一番厄介な家族の話。

作・演出を務める岩井秀人さんのご自身の体験をもとにしているそうだが、ある日の物語を次男と母の視点それぞれから語るという作り方が作品に奥行きを出している。
同じ家族といっても、それぞれ考えは異なるので、視点が変われば喜劇も悲劇になり得る。
次男視点のパートでは笑いが起きていたシーンが、母視点のパートではシリアスなシーンになっていたりする。
だからコミュニケーションは難しいし、齟齬がしょっちゅう起きるのだと思う。

「離婚はしないが、過去の暴力や行いを許さない」という結論に辿り着くのがリアルだなと感じた。
被害を受けた側からすると、その記憶は生涯癒えることがないし、許せるものでもない。でも、だからといって、家族の縁を簡単に切ることはできない。
そんなラストなんじゃないかなと思った。

家族が集う年の瀬に観るにふさわしいお芝居だった。

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