はじめて野外劇を観る (2024年3月の観劇記録)
3月は4本の芝居を観た。
なかでも、人生初めての野外劇は印象的だった。
どうしても観る作品の傾向が固定化されてしまうので、2-3ヶ月に1回くらいは全く知らない演劇を観ようと思った。
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骨と軽蔑
ケラさんの新作がシアタークリエで上演。
その情報だけで面白そうだと思い、迷わず観劇。
物語は、内戦が起きているとある国で、戦争の兵器や武器を製造して生計を立てている一家の話。
浮世離れした一家の姿が、何だかチェーホフの「桜の園」と少し重なった。
(特に峯村 リエさん演じる一家の母には、ラネーフスカヤと似通った雰囲気を感じた)
また今回は会話劇ということで、言葉で状況を説明することに重きを置いているのかなと感じた。
「舞台上(観客の目の前)では事件が起こらない」という点もチェーホフ作品と似ている気する。
↑ショーン・ホームズさんの演出の「桜の園」の感想はこちら↑
これまでのケラさんの作品との違いとして、犬山 イヌコさん演じる家政婦が観客に話しかけるなど、第四の壁を意識されている印象を抱いた。
「東宝で初めて作品をかけるケラさんなりの考慮なのかな」と思いつつも、普段から東宝作品も観る私としては、「ここまで丁寧にしなくても、東宝の客層もついていけるんじゃないかな?」なんて無駄に気を揉んだりした。
だが、最後は観客を突き放すような幕切れだったので、途中までの丁寧なガイドがこのラストのためのフリだったのだとしたら、痺れるなと思った。
スタッフ
私がケラさんの作品が好きな理由の一つは、センスあふれる舞台空間を作られることだ。
今回の作品では、屋内と屋外をセット転換することなく同一空間に生み出していて、舞台美術だけでも「観に来てよかった」と思える仕上がりだった。(美術:秋山 光洋さん)
また一幕のラストでは、死神が突如現れるのだが、そのギミックが見事で、「ハリーポッターと呪いの子」を観たときのことを思い出した。
(実際はハリーポッターの舞台ほど凝った仕掛けではないかもしれないが、彷彿とさせるような雰囲気があった)
また今回も、映像が絶妙な匙加減で主張しすぎることなく使用されていて、素晴らしかった。(映像:大鹿 奈穂さん、上田 大樹さん)
特に印象的だったのは、物語のラストで戦闘機が一家の屋敷の上空を飛んでいく映像。
キャスト
7名の女優が共演ということも、この作品のトピックだった。
なかでも、物語のメインとなる姉妹役を演じていた宮沢 りえさんと鈴木 杏さんが印象的だった。
宮沢 りえさんは、とことん口跡がいい!
決して押し付けがましい演技ではないけれど、しっかりと存在感があって、舞台での佇まいが素敵だった。
鈴木 杏さんは「エンジェルス・イン・アメリカ」の役柄と同様、今回も幸が薄そうな役柄で、そういう役どころがとても似合っている。(ご本人の性格は知らないけれど…)
姉のかつての恋人への並々ならぬ執着心にはゾッとするものがあった。
カム フロム アウェイ
この作品は2019年にニューヨークで観劇しており、「日本では上演しなさそうかな…」なんて思っていたので、ホリプロが上演すると知ったときは驚いた。
ネット上で日本版のキャスティングに対する賛否両論は見かけていたけれど、実際に観劇して、このキャスティングも一つの正解だと感じた。
主演を務められるようなキャストばかりを集めたことで、足並みが揃っており、群像劇として成り立っていた。
(ブロードウェイのようなキャスティングで上演するとなると、現状では劇団四季が上演する以外は厳しい気がする。)
BWと日本で同作品を見比べる機会は、これまでも何度かあったが、この「カム フロム アウェイ」に関してはBW版と日本版でまるで印象が変わらなかった。
あくまでも推測だが、この作品は脚本だけでなく、役者の動きまでかなり緻密に計算されているので、どこのプロダクションでも同じように仕上がるのではないだろうか。
逆にいうと、作品に「遊び」の部分があまりないので、上演する地域や演じる役者が変わっても特色が出しにくいのかもしれない。(もしかするとディズニーミュージカル以上に)
上記の理由から、日本版ならではの気付きはあまりなかったけれど、「日本語は歌詞が聞き取りにくい言語なのでは?」とは改めて思った。
キャストの口跡も良いし、歌詞も充分に練られたものなんだろうなと感じる反面、それでも聞き取れない歌詞が複数箇所あり、「日本語は歌に乗せにくい言語なのかな」なんて少し思った。
これはミュージカルを観る度に感じることなので、今後も思うことがあれば書き記していきたい。
キャストは、実力者揃いだったが、なかでも柚希礼音さんの市井の人っぷりがよかった。(宝塚退団後、初めて拝見した気がする)
↑Apple TVでBW版の舞台公演が視聴可能↑
更地
これまで観たことない演劇にもチャレンジしたいなと思っていたところ、ルサンチカというカンパニーが太田省吾さんの「更地」を野外劇で上演するというネット記事をたまたま見かけたので観劇。
ルサンチカというカンパニーも、太田省吾さんの戯曲も、野外劇も全てが初めてだったので、非常に新鮮な体験だった。
(唯一、出演者の一人である永井茉梨奈さんは「糸井版 摂州合邦辻(木下歌舞伎)」で拝見したことがある。)
↑「糸井版 摂州合邦辻」の感想はこちら↑
会場は、戸山公園内にある陸軍戸山学校野外演奏場跡。
舞台が始まる5分くらい前に、会場を管理している方から簡単な挨拶があった。
その方いわく、唐十郎さんがお芝居を上演したこともある歴史ある場所のようだった。
公園の一角の広場といった感じの場所だったので、散歩をしている方など通行人の方が物珍しそうに見てくる場面も多くあり、日常と非日常が混ざり合う不思議な空間だった。
芝居という言葉の語源は、「昔は芝生に座って鑑賞していたから」という話を聞いたことがあるけれど、それに近しい環境で観劇するのは何だか感慨深いものがあった。
正直なところ、舞台を見ているときは、「なぜこのお芝居をここでやっているのだろう」と思った。
後からルサンチカのホームページを読んだところ、「映画『ゴジラ』の中で、ゴジラが踏み荒らした東京の「更地」から着想を得たと言われています。」との記載があった。
今回の会場が、陸軍の野外演奏場の跡地であることは、何となく更地のイメージと重なる気がするし、そういった点を意図した上演だったのではないだろうか。
メディア/イアソン
ギリシャ悲劇「メディア」を、前日譚であるメディアとイアソンの出会いから描いた作品。
夫イアソンとの出会いから有名な子殺しのシーンまでを、2時間で上演するため、前半パートはダイジェストに近い印象を受けた。
メディアの物語は知っていたけれど、ちゃんと劇場で観るのは初めて。
結末は異なるものの、旦那に裏切られ、決断を強いられるという点では、「ミス・サイゴン」を連想した。
↑「ミス・サイゴン」の感想はこちら↑
今回のプロダクションは、演出の森新太郎さんがシンプルな舞台空間を生み出しており、たいへん印象的だった。
ギリシャ悲劇はコロスが登場するなど、役者が多く出演する印象だが、このプロダクションでは5人しか役者は出演しない。この人数の少なさと、シンプル舞台空間は方向性がすごくマッチしていた。
また、ダニー・フォードさんの音楽は、後半のメディアの不安定な心理状態に寄り添っていて、観ている側の緊迫感が煽られるものだった。
キャストはそれぞれの持ち味を生かした演技だったと思うが、ギリシャ悲劇はどうしても蜷川演出のスケールの大きな芝居のイメージがあるので、少しこじんまりしている印象を受けた。