未知との遭遇（十牛図）　　川柳140句

Ⅰ．遭遇前のダンシング・ヒーラー　　七〇句

志ん朝のマクラに夕陽新聞社

ガントリー・クレーンを撮る楯の会

ホビットの時間の本のななめがき

廃人の不立文字のすいかわり

五月きて黄帝液のくるう民

オムレツのなまえ考えつく窟いわや

白昼に不眠の街の音譜うる

ひきざんと同時にうたう吉田豪

鴉屋に現ナマをおく長回し

ホームズがみたえぼ鯛とおなじ数

言文が一致するなか数雄くる

ブニュエルの白鳥の図を図で示す

メンデルにうずまき心理戦を負け

とり・みきの館につづくながい橋

心中の可能なかぎり豚を喰う

貧農のひっきりもなく更新世

ひとつの死引田天功録音し

パーマンを透過してゆく男性詞

城の崎に一回性のギャグはなち

しょこたんの想った崩れ袈裟がため

歯固めて航路なかばの奇蹟丸

イトマンが足袋をしめしているあいだ

サイレント映画に兄の油ぎり

倒壊の書院造に或る野坂

猿丸の意味をまったくしらべない

葬送の旅のバカセに転移する

魔の山にアイゼンハワー讃歌やむ

ゴルファーが茄子をおしえる茄子の村

チエホフの言葉のかぎり宇宙の図

石庭に森本レオがただしずむ

喪のあいだなげ売るアンチ・オイディプス

バルンガをおとす男性支配層

アダムからアダムにつづく茸雲

楚の国にα波をだすひとのむれ

なだらかな脳波の日付かわるとき

奇将棋を〈武器よさらば〉の劇として

つけ鼻を半蔵門につけなおす

魯西亜語のラジオゾンデを破裂させ

にがうりの句を書くきのうまといつく

性欲の日本詩をよむエルム街

碑が腐ることなくうつつの世

覆面の巫女あらわれる手紙展

亀石をフェルディナンドがはこぶのみ

記念日に皇室ギャグのくりひろげ

大仏ののどぼとけふれ幾何の学

手で持てばハルマゲドンのめんたいこ

目に青葉ブリキの太鼓こわされて

切通理作のままで指圧する

舟唄と未知と遭遇する唄と

膿漏がただしいひとのダダイズム

万緑に虫歯夫人のとじひらき

くじらの死夏子の酒をかもすたび

処女厨の潜水艇の塗料はげ

三重ノ塔によくある動画集

副都心ポイント制の猿はなつ

かびの書を市場原理におき逃げる

性交の夢にも武市半平太

シェルターに詩吟の会を容れて初夏

猶太系書記の溶けゆくチョコレート

憲法の日にあおいぬが逃げてゆく

黙読者あさにあつまるチェスタトン

憲法にシュークリームをかみちぎる

声優の日にあらたなる山崩れ

ＳＦの川柳をよむ団地妻

ポリティカル・フィクションとして十牛図

ランボーのばったの位置をかえてゆく

江戸前の死の欲動に金魚鉢

孫弟子と珍刀展であうニルス

古池や芋にフラッシュバックして

晴れた日の世界劇場幕燃えて

Ⅱ．遭遇後のミスター・ケンペー　　七〇句

野草買うスキンヘッズのあらやしき

トドロフに昌平坂のおぼえ書き

時間湖へ毬藻ころがりはじめたる

パンクスの技法あらざるなまず釣り

富士五湖のパントマイムが絶えてより

発狂の東野圭吾および雲

埋め草に打倒サッチャーさけぶ人

人類の延長戦に百目鬼家

テクストの尽きたあたりにはだか牛

教頭のくらげの脚をふれまわる

廃校のあとからつづくみみず腫れ

ＥＤＷＩＮの本地垂迹して五月

アシモフの五月がふえる怪文書

回文に執するヘリオガバルス忌

朝陽焼け赤信号のコント打つ

のど飴を宇宙飛行士からわたす

朝まろし超生物の字画みて

水難のかぎり地球のトイレット

トイレット・ペーパーをよむ脳自体

仏壇の切り抜きおわるみうらじゅん

臨終の祖母にペーパードライバー

肉食の月野うさぎが鴨を飼う

歌会のすべてにえぐいゆで卵

老人と牛を珍問する社務所

総書記が死んだワンダーフォーゲル部

ゲルふえて完全架空物語

結社から高遠城にたどり着く

クローンの野原ひろしに尼の寺

尼寺のコンプレックスとしてＬＥＧＯ

オバＱのだれも死なない国威かな

きょうの日は断髪式の扉しめ

五月きて神成さんのはなす章魚

園内の記憶はずれる干しぶどう

劇場のかびあふれでる姉妹都市

囲碁の書をケンペーくんがつみあげる

ライオット・ガールあつまる御筆先

ライオンズクラブの意味でかにばさみ

うなぎ屋が消えゆく因果地平線

うなぎ屋が蒸発をする見仏記

大臣がゼロのうなぎともち換える

からあげと相撲市場と縁語なす

地の底のライトノヴェルを貼って切る

反素数主義者のつどうたけのこ屋

王様は裸のうえにムサビ大

ふいうちにザムザの日記託される

小堺のビニ本をうる変成期

みんなして論理の餅をかきあげる

みんな死に車輪の下のタモリ死に

人麻呂が暗号のこす芋ばたけ

盆栽にうつしとられる十字星

許可局がかたちのうえの地図にない

遷都してチーズバーガー品切れる

ドナドナの換喩にだれがたちどまる

めしを喰う意味表現のないめし屋

箸ビルに分骨という生者の語

さびしくてブルーレットの置きはなし

純粋の言語しかないピザ餅屋

大坂の海上都市と逆のめし

晩春が緒方直人の神にふる

他我のある砂にアメリカ・インディアン

ネタバレて犬吠埼の百鬼園

生きて死ぬ漫才上のブルテリア

アラビアの夜の種族に排気管

いっぽんの集中線をはりつける

えぼ鯛をみつめるロング・グッドバイ

改宗のあと４の字に固められ

雪隠を英雄伝に位置づける

田園をカール・セーガン這いずりぬ

煮ざかなをカウンタックにぬりたくれ

信仰と科学まとめるレレレのレ

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