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二十九歳からの不安定生活入門

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二十九歳の春。 気の毒なほど優しい團さんと、あけすけで大雑把な篠宮に見守られながら、不安定な暮らしと仕事を始めた。そんなフィクション
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#仕事について話そう

3月1日 入居の日

3月1日 入居の日

 朝七時ちょっと前、インター出口の信号待ちで、ちょうど正面に虹を発見した。まずいよなあと思いつつ、社用車の車内用ドライブレコーダーの向きを確認しつつ、スマートフォンを取り出してささっと虹を撮影した。昨日のサボりの時に見たような、窓ガラスにたくさんついた水滴と、その向こうに虹、その下にははっきりめの副虹。車のフロントガラスに散った水滴のおかげで、虹と副虹はみずみずしくておいしい何かに見えた。
 私の

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2月29日 サボる

2月29日 サボる

 今日はもう疲れた、毎日十五時くらいに、そう言っている気がする。特に今週は疲れるのだ、なぜなら今週は、現場近くにホテルが取れなかったせいで、高速で一時間の場所から現場に通っているからである。
 一月半ばに團さんが事故を起こした現場は、当然ながらしばらく工事は中止だ。ずっと現場近くの特設事務所でナントカの書類やら、発注者との会議やらをしている。朝は七時から、夜は残業をして毎日二十一時か二十二時まで仕

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2月19日 袋をもらう

2月19日 袋をもらう

雪が降ったり止んだり、現場が動くの動かないのの話をしている中、團さんは今日も暗い気持ちを抑えて、目尻を笑わせていた。
華があるとか、万人が認める秀麗な顔立ちではないが、表情皺に人柄の良さが滲み出た、優しい顔立ちをしている團さん。根っこの部分は、田舎の質実剛健な人そのもの。それが第一印象、年始に会社の集まりで團さんに会った時のことだ。
しかし、このごろの團さんの疲労の色は深い。現場仕事でかいた汗を拭

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