G-MoMo~銀暦少女モモ~:マリーと惑星ウィズエル Fractal.8
「ニョロちゃん! ウチ、言うたよね! イジメたらアカン! みんなと仲良うせなアカン!」
「……幼稚な」
ウチの突撃を、子供の駄々とばかりに軽くいなすニョロちゃん。
ひらりと体捌きに避わすと、擦れ違い様に背中に手刀の一撃!
「ぎゃん!」
不様につんのめり飛ばされながらも、ヘリウムブースターで空中を踏み留まった!
「天条リンならいざ知らず、オマエ程度では相手にもならん。所詮は巨大化した子供だ」
「ふぐぅ……」
その通りや。
その通りやけど……何か悔しい。
「アタシのモモに何すんだーーーーッ!」
憤慨任せにGリンちゃんの特攻!
渾身に繰り出されるストレートパンチ!
これも同様に避わされ……と思ったら、刹那に蹴り飛ばしの追撃を織り込んだ!
さすがGリンちゃん!
運動神経も鋭いけど、根本的に抜け目が無い!
「クッ?」
危なっかしくも顎先を掠めながら、Gニョロちゃんはバック転仰け反りに間合いを開いた!
すぐさま斜め後方から〈ドフィオン〉の牽制射撃!
せやけど、これも後方跳躍を重ねて回避や!
「やはり私が最も警戒すべき相手は、オマエのようだな……天条リン!」
「言っとくけどね! この子に何かしたら、ただじゃおかな──」
「リンちゃん大好きやーーっ ♪ ぎゅうぅぅ♡ 」
「──いからねったらったらったらったーーーーッ!」
ハグや ♪
背後から仲良しハグやねん ♪
思いっきりギュウゥゥで幸せや ♪
ほら! Gリンちゃんも嬉しゅうなって『ウサギのダンス』歌っとるよ?
「痛いッつォォォーの!」
「ぎゃん?」
振りほどくなり、脳天ハリセンスパーーン!
何でッ?
「ぅぅ……痛いよ? リンちゃん?」
「潤々して『痛いよ?』じゃないッつーの! この脳ミソ潮騒娘! いきなり懐かしいパターン繰り出すな! 読者だって忘れてたわ!」
「ちゃ……違うねん! コレは違うねん! コレは……えっと……あ、せや! コレは〝さぷらいざっぷ〟やねんよ?」
「……無理矢理、流行らそうとすんな」
ウチとリンちゃんが姦しさを交わす最中──「フン!」──Gニョロちゃんが右掌からの光撃!
「危なッ!」「ひゃう!」
慌ててヘリウムブースターで散ったわ。
「ちょっとアンタ! いきなり何すんのよ! 危ないじゃない!」
「私を相手にしておきながら余所事とは、つくづく腹立たしいものだな? 天条リン!」
「したくてしたんじゃないッつーの!」
「せやったら、何で?」
「……そこに座れ、脳ミソパープー娘」
「は~い ♪ 」
「嬉々と座るな!」
怒られたよ?
何で?
座れ言うたの、リンちゃんやんな?
「クックックッ……まぁ、いい。どうやら〈ネクラナミコン〉は揃ったようだからな」
「はぁ? 何処に……って、まさか! この惑星へ誘き寄せたのは、アンタかッ?」
「何の事だ?」
「とぼけんな! マリーにキャッチメール送って〈ネクラナミコン〉を持って来させたでしょ!」
「それは、私ではない……が、その者には感謝せねばなるまい。こうして、この場に〈ネクラナミコン〉は揃ったのだからな! 労せずに!」
「ハァ……」と、Gリンちゃんは軽く呆れた溜め息。「御生憎様、揃っちゃいないッつーの!」
「いいや?」
Gニョロちゃんは、頭上に警戒旋回しているドフィオンを眺めた。
「アレに二個。そして──」
そして、今度は眼下の巨大貝を見据える。
「──あそこに三個」
「だ~か~ら! 揃ってないッつーの! まだ五個! 〈ネクラナミコン〉は、全部で六個でしょーが! 算数も出来ないのかアンタ?」
「だから、揃ったと言う。残るひとつは……私自身なのだからな!」
「なッ?」「ふぇぇ?」
さすがに面喰らった!
何や?
ニョロちゃん〈ネクラナミコン〉やったん?
「そうか! 宇宙クラゲに少女形態──思うがままに〝擬態〟出来たのは、コイツ自身が〈ネクラナミコン〉だったから!」
「せやったら、あれやんね? ニョロちゃんは〈大樹神さま〉や〈濁酒徳利〉と姉妹って事やんね?」
「……それは言ってやるな」
何で?
「ともかく! アンタの目的が何かは知んないけど〈ネクラナミコン〉は絶対渡さないかんね!」
「クックックッ……その必要は無い。よくよく考えてみれば〈ネクラナミコン〉は、エネルギーを集積して力場領域を形成する起点に過ぎん。ならば別段、個人が全てを所有する必要は無いという事だ」
「どういう意味よ!」
「解らないか? 天条リン? 肝心なのは、相互干渉範囲に存在するという条件だけだ! 例え、各欠片の所有者が誰であろうとな!」
そして、Gニョロちゃんは渾身に気迫を叫んだ!
「ハアアアァァァァァーーーーーーッ!」
彼女自身を核として発生するエネルギー放出!
夥しいエネルギー奔流は、一帯を蒼い雷電と染め上げる!
そして〈ネクラナミコン〉は集結した!
ドフィオンから──基地から────意思があるかのように抜け出して、Gニョロちゃんの下へと!
まるで主人に従えるかのように!
「ようやく実現する──我が悲願が! 総ての次元宇宙に〈クックトゥルー〉を降臨させるという悲願が!」
噛み締めるかのように呟くと、Gニョロちゃんはキッと上空を仰いだ!
そして、そのまま上昇離脱!
スゴいスピードやった。
あれ、到底〈Gフォルム〉で出せる推進力やあらへん。
帯びたエネルギーによる特異性かもしれへんね?
「クックトゥルー? 何よ?」
置き去りにされたGリンちゃんは、言葉に含まれていた初耳用語に怪訝を浮かべる。
せやから、ウチは親切に教えてあげたねん ♪
「テキサスのニワトリやねんよ?」
「クルーーッ! 後で説明を御願ーーい!」
大声でドフィオンに呼び掛けた!
ウチ、信用されてへん!
ふぐぅ!
「ったく、何が目的かは知らないけど……とりあえず追うわよ! モモ! クル!」
「う……うん!」
『了解した』
ウチとGリンちゃんは、すぐさま〈Gフォルム〉を解除すると、傍らに再形成された〈イザーナ〉〈ミヴィーク〉へと乗り込む!
この間、僅か数秒や。
追跡するなら〈宇宙航行艇〉の方が早いねん。
そして、三機の魚影は垂直に飛び立ち、大気圏を後にした。
惑星ウィズエルの近宙域──。
そこにGニョロちゃんはいた。
蒼いエネルギー奔流を帯びた〈ネクラナミコン〉が、彼女の周りに円陣と従っとる。
「イア……イア……イア…………」
瞑想するかのように、意味不明な単語を呟き続けるGニョロちゃん。
瞼を綴じて鎮まり囁く所作は、まるで〈呪文詠唱の儀式〉でもしとるようやった。
「させるかっての!」
高速に強襲する〈ミヴィーク〉からヘリウム砲が発射される!
せやけど、拡散に弾かれた!
「ハァ?」
予想外の展開に間抜けた声を洩らすリンちゃん。
バリアや!
まるでGニョロちゃんの邪魔はさせないとばかりに〈ネクラナミコン〉がエネルギーバリアを張った!
「結界ってワケか! そんなら……Gフォルム・メタモルアップ! Gリン!」
リンちゃんのメタモルアップ!
せやねん。
攻撃力特化に重きを置くなら〈Gフォルム〉やねん。
「んにゃろ!」
ヘリウムブースターの高速突進でストレートパンチを繰り出す!
またバリアや!
Gリンちゃんの拳が、エネルギー障壁の圧に押し止められる!
「ク……ゥッ?」
それでも貫こうと踏ん張るGリンちゃん!
意地や!
リンちゃんの負けん気や!
「Gフォルム・メタモルアップ! Gモモ!」
すぐさまウチも!
「タァァァーーーーッ!」
Gリンちゃんの横からパンチを叩き込む!
パワー戦ではウチの方が、Gリンちゃんより向いてんねんよ?
『援護する』
クルちゃんの〈ドフィオン〉も、ヒット&ウェイの砲撃に加勢!
せやけど……総て遮られる!
針の穴ひとつ貫通出来へん!
「イア……イア……イア…………イア……イア……イア…………」
ニョロちゃんの詠唱は続いとる。
そして!
「イア! イア! オォォォーーーーッ!」
極まったかの如く雄叫んだ!
……っていうか、Gニョロちゃん?
そのまま〝イチローさんの牧場〟でも行くん?
そんな思うた直後、眼前の宙域が歪みに口を開いた!
「ブラックホールッ?」
『Gリン、それは違う。アレは〈次元門〉──即ち〝多次元宇宙と貫通したワームホール〟になる』
「言われてみれば〈ブラックホール〉と内側が違うねぇ? 何や〝暗い色の絵具〟を掻き混ぜたみたいなマーブル極彩や。黒やら紫やら……アクセントに黄色や赤も見えるで?」
「何処と繋げたのよ? アイツ!」
『ひとつしかない。それは通常手段では決して貫通不可能な次元宇宙──即ち〈ノンf\ノンb次元〉』
ウチらが驚愕に呑まれとる間に、その空間から何かが現れる!
超絶巨大な黒い影が!
空間穴の縁に重々しく手を掛け、暗い深淵から這い起きようとするかの如くゆっくりと抜け出て来る!
デカイ!
惑星サイズの巨体!
威圧的な──畏怖的な──戦慄的な────脅威やった!
「な……何やの?」
「なっ? 何よ! コレ!」
慄然と固まるウチとGリンちゃん!
『……クックトゥルー』
珍しくも苦渋を噛み締めるかのように零すクルちゃん。
「アハハハハハッ! アハハハハハハッ!」
Gニョロちゃんの驚喜が戦慄の銀河に木霊する!
遂に〈邪神〉が、その姿を現した!
「ところで、お爺ちゃん? こんなメール来たんだけど……知らない?」
「ふむ? ワシではないが?」
「はーい! それ、ワシで~す★」
「ポチッとな」
「ギャアアアアァァァーーーーッ?」