G-MoMo~銀暦少女モモ~:クルちゃんと惑星ジェルダ Fractal.6
交戦は続いている。
いや、乱戦と言うべきか。
Gリン──
ドクロイガー──
そして、正体未確認の敵────。
いつも通りだ。
問題点があるとすれば、依然正体不明の敵は森林に潜んでいるという事。
そこから放たれる光線攻撃を、滞空するGリンが回避する。
そして、ドクロイガーがちょっかいを出し……ハリセンの制裁で返される。
あ、また泣いた。
ともかく専用宇宙航行艇〈ドフィオン〉に搭乗した私は、ようやく前線へと合流した。
「クル? 何処行ってたんだッつーの!」
「天条リン、陽ノ咲モモカは?」
「……う」
ばつ悪そうに言葉を呑んだ。
ふむ、やはり予想通り。
この状況の原因は、陽ノ咲モモカだ。
私は眼下へと視線を落とす。
敵の姿は深緑の雲に潜んでいて、凝らしても視認出来ない。
という事は、少なくとも小型対象という事だ。
背後からドクロイガーが襲撃してきたので、尻尾部の電磁鞭〈テールビュート〉で叩き払う。
……また顔面押さえて泣いていた。
「天条リン、ひとつ確認したい。誰と交戦している?」
「ニョロロトテップだッつーの! アイツ、モモを拉致しやがった!」
どうやら〈惑星レトロナ〉で遭遇したというアレのようだ。
私自身は事後報告のみで遭遇していない。
問題は、何故〈ニョロロトテップ〉が、此処にいたか……その目的だ。
過去のデータによると、相手の目的意識は〝高度発展した科学文明に対する活動規模縮小を目的意図とした警告、及び、武力制裁〟であったはず。
しかし、この〈惑星ジェルダ〉の文明レベルは原始的であり、対象条件としては外れている。
ふむ?
私が再び眼下を注視していると、攻撃地点から人間サイズの影が飛び出してきた。
銀色の長髪を靡かせる美少女──なるほど、アレが〈ニョロロトテップ〉か。
確かに〝通常の人間〟ならば、Gリンを相手取って対峙する際に滞空浮遊などしない。
「3f\1b次元の少女よ──いや〝天条リン〟と呼ぶべきか。何故、オマエはつくづく邪魔をする?」
「ハァ? 知るかッつーの! アンタなんか! 自惚れてんじゃないわよ! さっさとモモ返せ!」
「返してやってもいい。ただし、交換条件だ」
「何だッつーの!」
「オマエ達が収集している〈ネクラナミコン〉を渡せ」
「……はぁぁッ?」
どうやら彼女の目的も〈ネクラナミコン〉らしい。
何が目的かは判らないが、少なくとも〈私〉〈ドクロイガー〉〈ニョロロトテップ〉の三つ巴相関は確定した。
「何でアンタが〈ネクラナミコン〉を知ってるんだッつーの!」
「アレは、そもそも私が保持すべき物だからだ」
なるほど……そういう事か。
だとしたら尚更、彼女に渡してはならない。
しかし、おそらく渡さなければ、陽ノ咲モモカには危険が迫るだろう。
さて、どうしよう?
「……渡したら、モモを返すのね?」
「約束しよう」
暫し緊迫した反目が交わされる。
「わーったわよ! そもそもアタシは、あんなんどーでもいいし?」
横柄な態度にGリンは承諾した。
私としては困った選択結果になったが、仕方がないだろう。
陽ノ咲モモカの安否とは、天秤に賭けられない。
何よりも、天条リンにとって〝陽ノ咲モモカ〟が如何に大切な存在かは重々承知している。
そう、天条リンにとって……。
では、現状の私の、この感情は何だろう?
みすみす〈ネクラナミコン〉を手放す虚しさと同時に、それと同等の価値を確保したかのような安堵感は?
……判らない。
……不確定。
続く交渉に備えて、私がいそいそと〈ネクラナミコンの欠片〉を用意していると──「アイツが持ってる」──迷いも呵責も躊躇も無く、Gリンはドクロイガーを指差した。
『えええぇぇぇ~~ッ?』
寝耳に水な展開に困惑を極めるドクロイガー。
「持ってるわよ? ひとつ」
『ちょっと待てィ! シャチ娘!』
「黙れドク郎! いっさい反論却下だ!」
『外道か!』
双方に一票。
「では、渡してもらおうか……オマエが所有する〈ネクラナミコン〉を」
『グヌヌヌヌ……ッ!』
迫るニョロロトテップを前にして、歯噛みながらに尻込むドクロイガー。
「どっちもがんばれー? 負けんなー?」
Gリン、その覇気の無い声援は他人事気分と捉えてもいい?
『えぇい! 頭に乗るなよ! 小娘共が! ワシとて伊達に〝髑髏〟をやっていたワケではない! イヤイヤながらのプライドがあるわ!』
意味不明。
『いまこそ見せてやろう! ネットオークションで高額落札した秘密兵器を!』
ドクロイガー、それは〝秘密〟とは呼べない。
オークション参加者全員が認知している。
『フライング・ダッチマーーーーン!』
拳を天空に振り上げ、エネルギー波を解き放った。
……五分経過。
……一〇分経過。
……十五分経過。
あ、何か飛来した。
どうやら日本の小型木船をモチーフとした〈宇宙航行艇〉のようだ。
ただし〝骨〟のディティールでパーツ構成されている。
とはいえ、実際には宇宙合金製だろう。
そうでなければ〈宇宙航行艇〉としては機能しない。
しかしながら、この経過時間では実戦活用には向かないと思える。
それにしても独特の自己主張をした宇宙航行艇だ。
甲板上には複数の〈骸骨型アンドロイド〉が整列し、何故か全員でオールを漕いでいた。
この雰囲気は、何処かで見た事がある。
旧暦データベースで……だ。
はて? 何だっただろう?
考察材料の一環になるかは解らないが、骸骨達は低く震える声音で『柄杓をくれぇ~……柄杓をくれぇ~……』と呻いている。
ふむ?
「〈舟幽霊〉じゃん!」
ああ、そうだ。
Gリン、指摘をありがとう。
確か〈妖怪〉とかいう不吉な空想娯楽だ。
自ら〝恐怖〟の対象を生み出して楽しむのだから、人間というものは理解に苦しむ。
『失敬な事を言うな! アレは〈フライング・ダッチマン〉だ!』
ドクロイガー、それは〈幽霊船〉──広義的に〈妖怪〉に分類される。
『柄杓をくれぇ~……柄杓をくれぇ~……』
「柄杓くれって言ってんじゃん!」
『言ってても〈ダッチマン〉だ!』
『柄杓をくれぇ~……柄杓をくれぇ~……』
「妖怪じゃん! 認めなさいよ!」
『……〈フライング・ダッチマン〉だもん』
この下り、要るだろうか?
ドクロイガーの上空で待機旋回を描く舟幽霊。
どうやら指令待ち……という事は人工知能搭載の自律型だ。搭乗者はいない。おそらく、あの〈骸骨〉達がリモート別行動を担っているのだろう。
『いくぞ! フォルーームアップ!』
空中分解した〈舟幽霊〉が、追加アーマーと化して合体した。
準じてドクロイガーの外見が、ややゴチャゴチャとしたディティールへと昇華される。
『髑髏合体! ドクロイガー!』
……ドクロが増えた。
腕部や脚部に小型のドクロパーツが増えた。
私の記憶が正しければ、彼は〈髑髏〉モチーフを辟易と嫌悪していたはずだが?
ふむ?
「ドクロ増えてんじゃん!」
Gリンが無遠慮に指摘した。
だが、この点は私も気になったので代弁に礼を言いたい。
ありがとう。
『ううううるさい! ワシだってイヤなんだからね!』
何故、ツンデレ口調なのだろう?
『だって、仕方ないじゃない! 髑髏だもの!』
意味不明。
相田み ● を風に言われても、まったく要点を得ない。
『ともかく! この形態となったワシを易々と倒せるなどと思うなよ! ニョロロトテテップとやら!』
噛んだ。
ハーチェス・エルダナ・フォン・アルワスプ・ビースウォームⅣ世ばりに噛んだ。
だが、これは致し方ない。
確かに彼女の名前は、呂律を殺す言いにくさだ。
基本『ら行』や『ふぁ行』の羅列は言いにくい。
もっともハーチェス・エルダナ・フォン・アルワスプ・ビースウォームⅣ世の場合は、少々病的ではある。
『喰らぇぇぇい! ハイパードクロバーストォォォーーッ!』
強化形態になっても、やる事は変わらなかった。
『グスグス……ぅぅ……』
数分後──。
私達の眼前には、ボロ負けして泣き濡れるドクロイガーがいた。
全高八〇メートルの巨体が、人間サイズの生身に負けた。
またも『独活の大木』を地で言っている。
「ったく! 相変わらず使えないわね! このドク郎!」
Gリン、またも代弁ありがとう。
『だって、仕方ないじゃない! 髑髏だもの!』
こんな場面で〝相田み ● を風〟が活きた。
「さて、ではオマエが所有する〈ネクラナミコン〉を渡してもらおうか?」
優勢の浮遊にニョロロトテップが迫る。
『……はい』
指先からのマジックアームで、悄々と手渡した。
まるで従順な犬が、お手をするかのように。
「渡すんかい!」
絶妙のタイミングでGリンがツッコミ。
この能力のポテンシャルに於いては、彼女こそが私の知己でナンバーワンかもしれない。
「コレで、ようやくひとつ……」
掌中の〈ネクラナミコン〉を見つめて、ほくそ笑むニョロロトテテップ。
その僅かな隙を突き、Gリンが奇襲を仕掛けた!
ヘリウムブースター全開で特攻しつつ叫ぶ!
「セパレーション!」
プロテクターと化していた〈ミヴィーク〉が分離!
巨大化が解除された!
等身大に戻った天条リンは、しなやかな脚線美でニョロロトテテップの手を蹴り上げる!
宙に舞う石板!
すかさずヘリウムブースターの出力を上げ、上昇キャッチを試みる!
が、右脚に触手が巻き付いた!
ニョロロトテップの右腕が変質したものだ!
「何ですって? クラゲの触手?」
「言ったはずだ……この少女形態も、あのクラゲ形態も〈擬態〉だと。つまり臨機応変に変質できる」
「うわっと!」
鞭拘束のように下界へと投げ捨てる!
「ヤバッ! ミヴィーク!」
即座に〈宇宙航行艇〉が追う!
「Gフォルム・メタモルアップ! Gリン……あう!」
巨大な女体が樹々を滑り倒し、緑の雲海に土色の露道を刻んだ!
とはいえ、この判断は正解だと言える。
巨大化する事で尺度修正が為され、せいぜい派手に転んだ程度のダメージへと緩和されたのだから。
人間サイズで墜落していたら致命傷──下手をすれば死んでいたかもしれない。
「みすみすくれてやると思うか? 天条リンよ?」
悠然と見下したニョロロトテテップは、頭上から降ってくる〈ネクラナミコン〉へと手を伸ばす。
「そうはさせない。好機なのは、こちらも同じ」
私は牽制の威嚇射撃を繰り出した。
「チィ!」
滞空維持の後方跳躍で、大きく間合いを開くニョロロトテップ。
そもそも当てる気は無い。
尺度対比から言って、仮に〈宇宙航行艇〉の砲門であっても人間サイズには大口径だ。掠っただけでも消し炭に死ぬ。
が、当てる気は無い。
ひとつだけ断言しておくが、当てる腕はある。
おそらく天条リンや陽ノ咲モモカでは不可能だろうが、生憎と私は射撃精度に自信がある。
が、当てる気は無い。
「天条リン」
「モチのロン!」
以心伝心とばかりにGリンが急上昇。
再び〈ネクラナミコン〉目掛けて。
『それ、ワシのォォォーー!』
ドクロイガーも奪取の動きを見せた。
「させるか!」
諦めの悪いニョロロトテップ。
ひとつの石板を巡って、三者が争奪戦へと飛び込む。
再び混戦の装丁を催した。
罪なアイテムである。
その時──「イ~ヤ~や~~!」──眼下の樹海から大絶叫が聞こえてきた。
耳慣れた〝銀暦イァスナク弁〟で。
私の作品・キャラクター・世界観を気に入って下さった読者様で、もしも創作活動支援をして頂ける方がいらしたらサポートをして下さると大変助かります。 サポートは有り難く創作活動資金として役立たせて頂こうと考えております。 恐縮ですが宜しければ御願い致します。