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G-MoMo~銀暦少女モモ~:ウチと惑星テネンス Fractal.8

 もうじきタイムリミットや。
 ぼちぼち〈ツェレーク〉へ帰還せなアカン。
 着陸待機しとる〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉のかたわらで、ウチはアリコちゃん達との別れを惜しんだ。
「もう行ってしまわれるのですか……出会って、あっ言う間でしたね」
「うん ♪  あんな? アリコちゃん? ウチ、楽しかった ♪ 」
 ホワホワとした笑顔を見せるウチに、アリコちゃんはクスッと微笑びしょうを返す。
「そうですか」
「結婚式には呼んだってな?」
「ま、百合っても人生なるようになるから」
「〈アルアント〉? 〈ジワスプ〉? どっち?」
「別れ間際に爆弾落とさないで頂けますッッッ?」
 せやけど、ハッちゃんクネッとるよ?
 嬉しそうに身悶みもだえしとるよ?
「けど、実際問題どうすんの?」
「そ……それは」
 リンちゃんの指摘に口籠くちごもるアリコちゃん。
「もう、いっそ結婚しちゃえ ♪ 」
「結婚式には呼んだってな?」
「どっちが〝母親〟で、どっちが〝父親〟?」
「ですから! 別れ間際にッ!」
 ハッちゃん、ウネウネし過ぎて原型留めてへん。
 何や〝チンアナゴ〟みたいになっとる。
 アリコちゃんは「ハァ」と嘆息たんそく一間ひとまを置くと、軽い黙想を刻んだ。
「宇宙には、まだあのような者が多くいるのですか?」
「ん? 誰の事よ?」
「いえ、あの〈ドクロイガー〉のような〝猛者もさ〟が……」
猛者もさかどうかは知らないけど、バカは多いわね」
 リンちゃん、ウチやないよね?
「アルゴネア・リィズ・コーデス、多次元構造宇宙〈フラクタルブレーン〉は無限に展開している。従って、上限も下限も無い。少なくとも、私は〝宇宙規模でスゴいとんでもない友達バカ〟を一人ひとり知っている」
 クルちゃん、ウチやないよね?
「そう……ですか」軽い一顧いっこ。「……武者修行には、いいかもしれませんね」
「アァ~ルゥゥゥ~~! 行っぢゃヤダぁぁぁ~~~~!」
 耳にした途端とたん、アリコちゃんの脚へとすがり付くハッちゃん。
 鼻水流した号泣や。
 女王様、それでええのん?
 離婚言い渡されたダメ亭主みたいやんね?
「……このバカとも、距離を置けますし」
 冷蔑れいべつを向けられて、ハッちゃんピキィ固まった!
 氷結したみたいなった!
「うわあああぁぁぁ~~~~ん!」
 大泣きながら彼方へ走り去ったよッ?
 土煙上げて爆走やよッ?
 飛べるの失念しとるよッ?
「で、実際どうなの?」
「何がです? リンさん?」
「エルダニャ、嫌いなの?」
「そ……それは……」困惑に眼差まなざしを伏せた。「嫌いなワケ……無いじゃないですか」
「結婚式には呼んだってな?」
「段階無視して飛躍し過ぎですッ! モモカさんッ!」
 そうなん?
 え?
 でも、そういう事ちゃうの?
「子供の頃から、大の仲良しですし……でも、そういう対象・・・・・・としては見ていませんでしたから」
 そりゃそうやんな?
 そう見てたら、アリコちゃんの方に問題あるやんな?
「アルゴネア・リィズ・コーデス、心配無用。その方向性で自然体のまま邁進まいしんしている友達バカ一人ひとり知っている」
 ……クルちゃん、それ誰?
 さっきから出てくるけど、それ誰?
「ま、型を破るも善し! 破らぬも善し! 結局は……さ?」リンちゃんはアリコちゃんの胸をコンと小突いた。「アンタのココ・・次第だから」
「……リンさん」
「周りの目なんかに遠慮すんじゃないわよ? そんな無責任な意見なんかクソ喰らえなんだから! いつでも〈自分・・〉だかんね? 後悔だけはすんな?」
 明るく笑顔を添えるリンちゃん。
「……はい」と優しいうれいが微笑ほほえみ返す。
 ウチ、自分のココ・・を触ってみた。
 ……小さい。
 ふぐぅ!
「いつか、私も行ってみたいですね……宇宙へ……私よりも強い相手に会うために……」
「アリコちゃん、赤いハチマキる?」
「はい?」


 みるみる青い惑星は離れていく。
 数分前までは、あそこにおった。
 数分前までは、あそこで〝新しい友達〟とおった。
 何や不思議や。
『結局、アリコは来なかった……か』
 ニュートリノ通信で感慨をこぼすリンちゃん。
「せやね」と、ウチは若干しんみりや。
『ま、選択としちゃ順当っしょ? アリコは〈次期ジアント女王〉……いつ帰れるか判らない旅路なんかに出てられないわよ』
「せやね」
『……何よ? モモ? しんみりしちゃって?』
「あんな? リンちゃん? ウチ、ちょっと寂しい……」
『はぁ?』
「せっかく〝友達〟なれたのに、もうこれで会えへんもん」
『ったく……このパータリン』
「ふぐぅ……せやかてぇ~!」
『また会いに来りゃいいッつーの。幸い〈ツェレーク〉には〈フラクタルブレーン航行〉の性能が備わってるんだから』
「ええの?」
『いいわよ』
「せやけど、マリーは?」
『ったく……アタシを誰だと思ってんの? 銀暦ぎんれき有数の大企業〈星河ほしかわコンツェルン〉の娘〝天条リン〟よ? 不可能なんて無いんだから! そん時は、アタシが説得してあげるッつーの!』
 ウチ「にへへ」とわろうた。
「あんな? ウチ、リンちゃん大好きや ♪ 」
『……し……知ってるッつーの』
 聞き取れへんかった。
 リンちゃん、急にゴニョゴニョなんやもん。
「あ、せや!」
『何よ? 急にテンション一転させて?』
「リンちゃん、もう一回アレ・・言うて?」
『何よ? アレって?』
「ドクロイガーはんからかばった時、言うてたやん──『アタシのモモに何すんだーーッ!』って?」
『ええ~? そんな事、言ったかなぁ?』
「言うたよ?」
『言ってないけどなぁ~?』
「言うた!」
『覚えないなぁ~?』
「ふぐぅ! リンちゃん、意地悪や!」
『アハハハハハ★』
 大きい鯨が見えた。
 帰還したら、この〈フラクタルブレーン〉とは、おさらばや。
 せやけど、またね?
 アリコちゃん ♪  ハッちゃん ♪


 明かりを消した暗室の方が集中力が維持できる。
 さきモモカ達の探索結果を受け、マリー・ハウゼンは自室へとこもった。
 彼女達が持ち帰った貴重な情報を、すぐさまデータベースに追記する作業へと没頭する。
 モニターがともすブルーライトを遮光眼鏡が軽減し、いそしむキーパンチ音だけがひたすらにカタカタと鳴り続いた。
 とりあえずの区切り目まで一気に更新し終わると、ようやく小休止とばかりに背凭せもたれへと自分を解放する。
「ふぅ……」
 零れる一息ひといきに虚空を仰ぎ、才女は目頭を押さえた。
 眼精疲労……というよりは、この作業中に気付いた事実・・・・・・が虚脱感を促進したのであろう。
 その要因を、彼女は誰に言うとでもなく洩らすのであった。
「今回……私の出番少なかった」
 あ、気にしてたんだ?
 うん、何かゴメン。
 作者的に。


「パンパカパーン★ サプライズ登場~ ♪ 」
「「「………………」」」
 さすがに面食らったわ。
 揚々と飛び出したトコ悪いけど、こっちは思考停止で固まったわ。
 ウチも、リンちゃんも、クルちゃんも……。
 帰還直後の整備中、ハッちゃんが姿を現した。
 何故か〈ドフィオン〉の貨物倉庫から……。
 あのちっこい空間スペースから……。
「む? さすがに虚を突かれたようだな? いや、無理もなかろう。よもや、この〝ハーチェス・エルダナ・フォン・アルワプ・ビーショショ・・・・ウォームⅣ世〟が現れるとは、つゆほども思うておらんかったであろうからな……フフフ」
 そうやよ?
 優越感にふくわらいを浮かべとるとこ悪いけど、その通りやよ?
 いろんな意味・・・・・・で……。
「さて……アルゥ~♡  追って来ちゃったぁ~ ♪ 」
 おらへんよ?
「アルが武者修行するなら、私も付いて行く~ ♪  ね? アル? ドコォ~?」
 おらへんよ?
「アホかぁぁぁーーッ!」
 リンちゃんの後頭部ハリセンがスパーーン!
 格納庫ドッグ内に景気良く破裂音が反響した。
「どーすんのよ! エルダニャ! すでに〈フラクタルブレーン〉を離脱航行中よ!」
「痛たた……フッ……愚かなり、天条リン! われとアルは一蓮托生いちれんたくしょう! 切っても切れぬ運命の赤い糸なのだ!」
 切れたよ?
「さ ♪  アルはドコかなぁ?」
「……いないわよ」
「……む?」
「だから、いないッつーの」
 しばし、噛み砕く。
「いない?」
「うん」
 黙考。
「え? アル、いない?」
「うん」
 沈黙。
「あんな? やっぱ武者修行やめたんやって。このまま、テネンスで鍛えるらしいわ」
「…………」
 ややあって、血相変えはったわ。
「帰るぞ!」
「帰れるかぁぁぁーーーーッ!」
 今度は顔面ハリセンがスパーーン響いた!


 惑星テネンスから帰還して三日みっかった。
 宇宙クラゲの形跡は、まだ無い。
 クルちゃんの〈ネクラナミコン〉反応も、まだ無い。
 せやから、平和や。
 平和にJKライフや。
 ブレザー姿の雑踏に馴染んで、ウチも登校の流動に乗る。
 ほんでもって、芋洗いをキョロキョロキョロキョロ……。
「あ、おった!」
 ウチ、トテテテテと目標のトコまで駆けてったわ。
「おはよう ♪  リンちゃん ♪ 」
「おー、おはようモモ」
 まだ覇気無い。
 毎朝の事や。
 リンちゃん、低血圧やねん。
 ホームルームにはエンジン掛かんねんな。
「ごきげんよう、モモカにリンよ」
 挨拶を手土産に並び歩く美人べっぴんさん。
 涼しい眼差まなざしに、通った鼻筋。
 日射しを散らす長い金髪が、ふわりと微風に泳いだ。
 物腰やにじる気品が、優麗な印象を漂わしとる。
「あ! ハッちゃん、おはようさん ♪ 」
「あー、エルダニャおはよう……」
「うむ、苦しゅうないぞ?」
「「…………」」
「…………」
「「………………………………」」
 慌てて登校の波から外れたよッ?
 並び歩いてるハッちゃんを首フックで連れ去って!
 眠気もブッ飛んだわ!
「えぇい、苦しいわ! 何をするか! リンよ!」
「何をするか……ぢゃないわよ! 何で、しゃあしゃあと並んでるんだッつーの!」
 リンちゃん、路地裏で胸ぐらつかんでガクガクや!
 傍目はためにカツアゲしとるみたいや!
「決まっておろう? 〝とーこー〟というヤツじゃ」
「ヤツじゃ……じゃないッつーの! アンタ、いつ転入した! ってか、羽根とか甲殻どうした! ってか、初めて見たわよアンタの素顔!」
「……質問の多いヤツであるな」
「ったり前だーーーーッ!」
「天条リン、心配無用。転入手続きは、マリー・ハウゼンが処理しておいた」
「「うひゃあぉうッ?」」
 いきなり背後から浴びせられた声に、ウチとリンちゃんはビクゥ驚き跳ねる!
 クルちゃんやった!
 どこかの忍者かと思うたら、クルちゃんやった!
 陰行術おんぎょうじゅつの達人やッ!
「ク……ククク……クル? アンタ、いつからいたッ?」
「カツアゲ行為が始まった辺りから」
「失礼ねッ!」
「違った?」と、クルコクン。
 ちゃうよ?
 ウチにもそう見えたけど、ちゃうよ?
 そもそもリンちゃん、お小遣いに困らへんよ?
「ちなみに、ハーチェス・フォン・エルダナ・アルワスプ・ビースウォームⅣ世の羽根や容姿は、パモカの擬態アプリによる変身」
「は? 擬態アプリ? そんなんパモカにあった?」
「公式には存在しない。私が独自作成した物になる」
「何に使う気だった! そんな需要皆無なアプリ!」
「需要」と、ハッちゃん指した。
「……うん、そうね。役に立ったわね」
 リンちゃん、意気消沈で引き下がりはったわ。
 せやけど、コレはしゃあないよ?
 現物、るもんねぇ?
「ともあれ、これからは共に学校生活を送る事になる。さきモモカ、天条リン、ヨロシク頼む」
コレ・・とか! コイツとか!」
「うむ、光栄に思え?」
「……何で上から目線だ、アンタ」
「とは言え、われとて〝てーぴーおー〟というヤツはわきまえておる。学校では〝ふつうのじょしこーせー〟として接するがよい」
「……だから、何で上から目線だ」
 それよりも全部〝ひらがな発声〟の方が、ウチ気になんねん。
 ハッちゃん、ホンマに理解しとるん?
「とりあえず、話はまとまった。よって、これより全員で登校する」
まとまってないッつーの! ……って、うん? 全員で登校・・・・・?」
 クルちゃんの発言を耳にしたリンちゃんが、ようやく違和感に気付きはった。
 ウチ、さっきから気になっとてん。
 クルちゃん、当校ウチの制服やねん。
 ブレザー姿やねん。
「……クル?」
「何?」
 クルコクン。
「まさか、アンタも?」
「そう」
 クルコク。
「ざけんなァァァーーーーッ!」
 リンちゃん吠えた!
 路地裏で〝星河ほしかわコンツェルンの御嬢様〟が、渾身に吠えた!
「返せ! アタシの解放空間を! せっかくの庶民的日常がパーじゃない!」
「解放空間?」
 不思議そうにクルコクン。
「そうよ! アタシは家柄上、窮屈な家庭生活を送ってるのよ! 何不自由無い天下無双の生活をいられてるの!」
 リンちゃん、自慢しとんの? 悲嘆しとんの?
 どっち?
「この学校生活はね! そんなアタシが不便でメンドクサイ庶民的日常を満喫できる唯一のオアシスなのよ!」
 リンちゃん、賞賛しとんの? 小馬鹿にしとんの?
 どっち?
「天条リン、そういう事なら心配無用。ハーチェス・フォン・エルダナ・アルワスプ・ビースウォームⅣ世が転校した以上、これまで以上に〝メンドクサイ日常〟が課せられるのは必至」
「うむ、任せるが善い!」
「メンドクサさの質が違うわァァァーーーーッ!」
 またまたエラい展開なったわ。
 せやけど……せやけどな?
「クルちゃん、ハッちゃん、これからよろしゅうな?」
「って、モモーーーーッ?」
 ウチ、何や嬉しなってわろうとったんや ♪

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