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朧車


 ガラガラ……ガラガラ……。
 夜の町に木車輪の音が響く。
 有名な青年花火職人〝火吾郎ひごろう〟が千鳥足に振り向けば、そこには巨大な顔を据えた牛車が!
 妖怪〈朧車おぼろぐるま〉の出没である!
 度肝抜かれに腰を抜かした火吾郎だったが、すぐさま一目散に逃げ出した!
 あまりの恐ろしさに酔いなど飛んでいる!
 脱兎と駆け行った番所には夜勤の〝不知火しらぬい真伍しんご〟が。
 すぐさま現場へ直行する真伍しんごだったが、そこに妖怪の姿は無く……。
 だがしかし、数日後……またもや火吾郎ひごろうは同じ妖異に遭遇してしまう!
 今度は河川敷であった。
 来るべき花火大会へ向けた仕込み作業で遅くなった夜中である。
 またも真伍しんごが現場へ向かうが、やはり妖怪の姿は無い……が、今度は痕跡を見つけた。
 砂利道に刻まれた断片的な木車輪のあとである。
 これで妖怪出没を確信した真伍しんごは、相棒である巫女みこにん如月きさらぎ〟に諜報活動を依頼する。
 妖怪の目的や詳細もさることながら彼の胸中には〝もうひとつの疑問〟があった──「何故、火吾郎ひごろうばかりが遭遇する? 何か因果関係があるのか?」
 一方、火吾郎ひごろうは花火大会当日を迎えた。
 真伍しんごからは中止するように忠告されたものの、そこは職人魂が譲らなかった。
「江戸のみんなが楽しみにしてんだ! 俺の花火をよォ! 一時でも明るい気持ちになりてぇんだよ! この生活苦が鬱積した日常から! 俺は、みんなを笑顔にしてぇから花火職人になったんだ!」
 夜空を盛大に彩る盛大な花。
 汗だくになりながらも青年職人は揚々と上げ続けた。
 その最中──ガラガラガラガラ──不意に背後から木車輪の音が!
 一転、恐怖に染まる火吾郎ひごろう
 そこへ遭遇阻止に入ったのは、異形忍者の〈狩魔かるま同心どうしん焔月えんげつ〉であった!
火吾郎ひごろうさん、コイツは俺に任せて、あんたは花火を! あんたには指一本触れさせない!」
 斯くして江戸庶民が大花に湧く闇で、人知れず激闘は展開した!
 火吾郎ひごろうは上げ続ける。
 仮に上げ終わって殺されるなら、それも本望だ……と。
 最後の花火が上がった瞬間、地上ではもうひとつの大火が吠えた!
狩魔かるま奥義おうぎ紅蓮ぐれん獅子じし!」
 あやしは燃え朽ちた……。


 事後、焔月えんげつから真相を聞いた火吾郎ひごろうは、とある家へ訪れた。
 そこにはいたのは、外出も侭ならない女の子。
「おじさん、誰?」
 足を患っていた。
 牛車に轢かれた事故だと聞く。

「この妖怪は少女の願望が呼び寄せてしまったんだ。だけど、悪意じゃない……無意識だ。強い願望がひとり歩きしてしまったんだ。自分だって花火が見たいのに……みんなは毎年楽しんでいるのに……自分は音しか聞こえない……と。だから、とりあえずコイツも有名な花火職人であるあんたに固執したんだろう。少女の願望を道標どうひょうとして出現したから、それ自体が行動動機に擦り変わった。だけど、はたして大会を中止に追い込みたかったのか……いや、おそらく…………」

 その想いが花火職人として切なかった。
 だから、精一杯の笑顔を繕って気っ風よく切り出す。
「でっけえのは無理だけどよ、庭でできる手持花火を作ってきたんだ。これだって火吾郎ひごろう様の御手製花火よォ! さぁさ、一緒に楽しもうや?」
 ささやかな花火大会……だが、そこには柔らかい〝笑顔〟が咲いていた。
 その微笑ましさを見届けた真伍しんご如月きさらぎは、余韻に河川敷の線香花火を嗜むのであった。
 月は静かに……そして、白い。

▼キャラクターファイル〈朧車おぼろぐるま〉▼


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