G-MoMo~銀暦少女モモ~:クルちゃんと惑星ジェルダ Fractal.2
ポヨンポヨンや ♪
ブロブはん、ウチを頭だけ出して包み込むと、そのまま跳ねて逃げ出した。
連続ジャンプで森の中を駆け抜けとんねん。
せやから、ポヨンポヨンや ♪
ポヨン──ピョン──ポヨン──ピョン──視界が上がったり下がったりで過ぎ去って行く。
ほんでもって、結構快調や。
えへへ★ 何や、コレ楽しいねぇ?
遊園地みたいや ♪
「モモーーーーッ!」「ウホーーーーッ!」
あ、リンちゃんや。
リンちゃんとロッボちゃんが、全力疾走で追い掛けて来とる。
せやけど繁る草や蔦が障害になって、思うように進めへんみたいや。
掻き分け、足取られ、それでも必死になって駆けて来る。
一方で、ウチはポヨン──ピョン──ポヨン──ピョン──楽しい ♪
あ、そっか!
跳ねとるから早いんやねぇ?
足取られへんもん。
ポヨン──ピョン──ポヨン──ピョン──あはは★
「止まれ! このイチゴ蒟蒻! モモ返せ!」
リンちゃん、やっと並走に追い付いた。
葉屑まみれにボロボロや。
ブロブはんは御構い無しに、ポヨン──ピョン──ポヨン──ピョン──リンちゃんと一緒やから、ウチもっと楽しなった★
「ってか、モモ! アンタも抵抗するなり何なりしなさいよ! 何をのほほんニコニコしてんだッつーの!」
「あんな、リンちゃん? コレ、楽しいよ?」
「無垢顔コクンと『楽しいよ?』じゃないッつーの! さっさと脱出しないとエラい事になるわよ!」
「延長料金?」
「違うわッ! 溶かされるって言ってんのよ!」
「何で?」
「この状況で無垢顔コクンやめろ! 誰のために爆走してると思ってんのよ! 腹立つ! この〈ブロブ〉ってのは、獲物を溶解捕食すんの!」
「せやのッ? それ、大変やん!」
「そう言ってる!」
「ウチ、裸にされてまう! 森の中を裸で跳ねてるトコ、みんなに見られたない! ふぐぅ!」
「そっち違うわーーーーッ!」
「あんな? ポヨコちゃん?」
「……誰だ〝ポヨコちゃん〟って」
「えへへ★ この子や ♪ ポヨンピョンポヨンピョン跳ねるから〝ポヨコちゃん〟やねん ♪ 」
「せめてウサギに付けろ! 〈宇宙怪物〉にファンシーネーム付けるヤツなんか見た事ないわよ!」
「あんな、ポヨコちゃん? 溶かさんといて?」
「原始生物に通じるか!」
「……あんな? リンちゃん?」
「ハァ……ハァ……何だッつーの!」
「わかった──って」
「ここでまさかのフィーリングーーーーッ!」
ポヨコちゃん、跳ねる勢い増した。
「ああ? 待てッつーの! このイチゴゼリー!」
また引き離されるリンちゃん。
ほんでもって、やがて拓けた原っぱに着いた。
周囲を樹々に囲われた形で、天然の柵みたいに領域を覆われとる。
敷き広がる草は足首までに短くなっとって、森の中とは違うて見るからに過ごし易い感じや。
そこに、たくさん〝ポヨコちゃんの色違い〟が居る。
「ゼェ……ハァ……」「ゥホ……ゥホ……」
あ、リンちゃんとロッポちゃんや。
ようやく追い付いた。
「オイ、コラ! イチゴゼリー! ココ何処だ! ってか、モモ返せ!」
「ウホ!」
「あんな? どうやらポヨコちゃんの村やて」
「アンタも馴染んでんじゃないッつーの! さっさと抵抗しろ!」
「何で?」
ウチが小首コクンと訊ねた途端、何やリンちゃんから「プチッ!」いう音が聞こえた……気がした。
「フ……フフ……フフフ……」
沈めた顔に薄ら笑いを浮かべて、ユラ~リと近づいて来たよ?
「そーかそーか……この期に及んで『何で?』と来たか……」
不穏なオーラに、ドン引き後ずさるロッポちゃん。
リンちゃん、魔力とか発動したん?
「いいから、とっとと出ろォォォーーーーッ!」
「イタタタタッ! リンちゃん、イタイ! ウチ、イタイのイヤやぁ!」
こめかみグリグリされた!
ゲンコツでグリグリされたよッ?
渾身の力でグリグリされたよッ?
埋もれとるから抵抗できへん!
なすがままの拷問や!
ウチ、ポヨコちゃんから出た……半ベソで。
ふぐぅ!
「んで? 此処がコイツの村って?」周囲を見渡して、リンちゃんが分析。「ってか〝村〟って呼ぶより〝集落〟か」
「せやの?」
「でしょーよ? 家屋とかの建築物も無いし……。ま、原始的生物じゃ、そんな〝知恵〟は無いけどさ」
リンちゃんが見下した傍らで、ウチとロッポちゃんは番茶貰うとった。
「ありがとうねぇ? ポヨコちゃん?」「ウホホ……」
「まさかの〝おもてなし精神〟あったーーッ?」
ポヨコちゃん、器用や。
体の一部を触手に変えて、それを腕みたいにして急須をコポコポ……ほんでもって、スッと湯呑みを差し出した。
「いや、さも『はい、どうぞ』みたいに差し出されても困るんですけど……」
リンちゃん、困惑や。
「飲んだったら、ええやん?」「ウホォ……」
「まったり馴染むな、常識皆無×2」
毒突きながらも、ズズッと片手啜りで状況観察を滑らせる。
広い原っぱには、青や緑や黄色のポヨコちゃんが思い思いにピョンピョン動き回っとった。
ウチには何をしとるか分からへんけど、きっとコレがポヨコちゃん達の生活光景なんやろね?
「……警戒心はゼロか。アタシらに敵意を向けるでもなくガン無視って?」
「友達やからやないの?」「ウホホォ?」
「楽観に溺れてんな、天然パースケ×2」
暫し黙考を巡らせた後、リンちゃんはポヨコちゃんへと振り向く。
「オイ、イチゴゼリー? アンタ、何でアタシ達を此処へ連れて来た?」
プルプルプル! プルルン! プルン!
「……そーだった、コイツ喋れないんだった」
ガクリと膝ついて落胆や。
リンちゃん、うっかりさんや ♪
「モモ! フィーリング発動!」
「無理や★」
「アタシに嫌がらせしてんのかーーッ! その異能力はーーーーッ!」
リンちゃんが憤慨した直後、場の雰囲気が急変する!
絶叫に驚いたワケやなさそうや。
みんなプルプルが小刻みになって、その場に固まっとる。
ふと見れば、ポヨコちゃんもや!
「ポヨコちゃん? どないしたん?」
返事無い。
まるで緊張しているみたいや。
何となく……何となくやけど、みんなの意識は正面の繁みへと傾けられとる気がした。
せやからウチとリンちゃんも、そこを注視する。
そこだけは鬱蒼感が色濃い。
一際厳つい樹々が逞しい生命力を誇示し、互いの威嚇と協力に織り成す暗がりのベールや。
樹林のトンネルは深い闇に視線を吸い込み、それは数メートルどころか延々と底無しに瞳を持って行くかと思える暗さやった。
ガサガサと繁みが乱される。
何かが現れようとしとった。
近付いて来る気配に緊迫感が強調され、リンちゃんはヘリウムガンへと手を掛ける。
そして、姿を現した!
……メイドさんやった。
文字通りそのままの〝メイドさん〟やよ?
見た目には、ウチらと同じぐらいの年頃やろか?
緑色の髪をしとって、大きなピンク色のリボンでうなじから一房に纏めとる。特徴的なんは揉み上げで、そこだけはストレートロングヘアみたいに長く伸ばしとった。
円らな瞳がクリッとしてて、柔らかそうなほっぺたの真ん中に小鼻チョコンや。
印象は可愛らしい童顔なんに、何故か〝大人びた落ち着き〟を感じさせる。
「どういう事よ? クルの説明だと、この惑星に高度知性体はいない……つまり〝人間〟なんていないはずよ」
「あ、せやねぇ? そないな事、言うてたねぇ?」
「……何者よ? アイツ?」
「訊いてみるね?」
「うん、お願い……って、モモーーッ? 違ーーう!」
ウチ、テクテク近づいて挨拶したった ♪
「こんにちは★」
「……どなたです?」
「あんな? ウチ〝陽ノ咲モモカ〟言うねんよ?」
「……はぁ」
「誰?」
「はい?」
「せやから、誰?」
「何がですの?」
「教えて?」
「何をですの?」
「名前や」
「私の……ですの?」
「せや ♪ メイ子ちゃんの名前や ♪ 」
「……いえ、いま〝メイ子ちゃん〟と御呼びになりましたわよね?」
「せや★ メイドさんやから〝メイ子ちゃん〟やねん★」
「……センスが」
「ほんでな?」
「…………」
「ウチ、何て呼んだらええのん?」
「無限ループッ?」
と、はたと何かに気付いたかのように、メイ子ちゃんはウチの顔をマジマジ凝視し始めはった。
「え? ウソ? そんな? まさか!」
何が?
「ヒメカァァァ~~ん♡ 」
「うひゃあああ~~~~ッ?」
抱き着かれた!
いきなり抱き着かれたよッ?
恍惚に頬擦りスリスリや!
「うふふ♡ ヒメカ~♡ 会いたかったですわ♡ 」
「ふぐぅ! ウチ〝モモカ〟や! 〝ヒメカ〟違う!」
「うふふ♡ ヒ・メ・カ♡ うふふふふ♡ 」
聞いてくれへん!
幸福トリップで聞いてくれへん!
「ふぐぅぅぅ!」
引き離そう思うて抵抗するも、ガッチリハグが離れへん!
どれだけ力あるのん?
このメイドはん!
「嗚呼、私のヒメカ♡ もう放しませんわ ♪ 」
この人、怖い!
ウチ、この人怖いよッ?
「ふぐ……ふぐぅ……ふぇぇぇ……リンちゃ~~ん! うわ~~ん!」
「アタシのモモから離れろーーーーッ!」
土煙の猛爆走でリンちゃんが迫って来た!
その勢い任せに、力尽くでウチを抱き寄せる!
奪還や!
えへへ ♪ リンちゃんに奪還された ♪
「あぁん! 何ですの? アナタは?」
「うっさい! アタシのモモを怖がらせてんじゃないわよ!」
「……アナタの?」
「そうよ!」
「ア・ナ・タ・の?」
「ぅ!」
リンちゃん?
何で言い淀むん?
「ううううっさいわね! この子は〝みんなのモモ〟なのよ! みんなのって事は、アタシのって事なんだからね!」
何か身に覚えない格上げされた!
ほんでもって、どっかで聞いた『ガキ大将理論』出た!
「あら? でしたら、私のもの……という事でもありますわね?」
「うッ?」
温顔ニッコリで言いくるめられた。
うん、そうなるやんな?
リンちゃん、もう少し考えて言うて?
「ううううっさい! アンタのものはアタシのもの、アタシのものはアタシのものよ!」
徹底した!
徹底して『ガキ大将理論』継承した!
そんなしてたら、また近場の繁みがガサゴソした。
どうやら、新たな参入者の登場や。
「騒がしいと思ったら、やはり来ていた」
クルちゃんやった。