松下幸之助と『経営の技法』#20
「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。
1.3/6の金言
素直な心になれば、正邪の判断を誤らず、適時適切な判断ができる。
2.3/6の概要
松下幸之助氏は、以下のように話しています。
素直な心は、物事をあるがままに見ようとする心。そこから物事の実相をつかむ力が生まれるから、素直な心は、真理を掴む働きのある心、物事の真実を見極めてそれに適応していく心。
したがって、お互いが素直な心になれば、していいこととならないことの区別が明らかとなり、正邪の判別も誤らない。適時適切な判断の下に力強い歩みができる。つまり、「強く正しく聡明になる。」
3.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
まず、ガバナンス上の問題から検討しましょう。
当初、「素直な心」で物事を見る、と言うように、リスク管理の観点から見た場合には、リスクに気づくかどうかというリスクセンサー機能に関する問題が中心と感じました。
しかし、ここで松下幸之助氏が強調するのは、むしろ判断の内容です。すなわち、リスクコントロール機能の問題であり、経営判断の問題です。
ここで特に注目したいのは、「正邪」という価値評価を伴う判断を問題にしている点です。さらに、正しい判断が「強さ」「聡明さ」と一体として評価されているのです。
このことは、経営者に求められること、すなわち株主か経営を託す際に経営者に与えるミッションが、単に「儲ける」のではなく、「適切に」「儲ける」ことを意味します。
すなわち、会社が社会に受け入れられるからこそ、一過性ではなく永続的に利益を上げることができますので、会社は社会のルールに従うことや、そのことを積極的にアピールすること、など、コンプライアンスやCSRに関する積極的な取り組みが必要です。
つまり、松下幸之助氏は、企業の社会的責任まで果たすことが「力強い」経営にとって必要であり、それが経営者にとって必要な資質であることを前提に、そのために「素直な心」が必要であるとしているのです。
4.内部統制(下の正三角形)の問題
次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
この、社会正義に合致する経営判断は、経営者一人が行うものではなく、会社が組織として行うことが必要です。
その際、社会的に容認されない「悪い」判断をする、すなわち「正しい」経営判断を行い、「正しい」リスクコントロールをするためには、その前提として「悪い」可能性に気付くリスクセンサー機能も必要です。
そして、そのためには会社の行動規範として、社会正義に合致する経営が会社の基本となることが示され、徹底されなければなりません。そのためのツールは、マニュアルや行動規範などのほか、それを徹底するための日ごろからの教育や情報発信です。
さらに、人事考課の際の目標設定や人事評価も、そのためのツールになり得ます。特にコンプライアンスについては、社会規範合致に関する項目を、人事考課のうちの5%部分追加するだけで、従業員の日ごろの言動が変わってくる、と言われるほどです。
5.おわりに
ここでは、特に「正邪」に関する問題、すなわち社会への適合性の問題を中心に検討しました。
けれども、「力強い歩み」には、ビジネスとして成功する可能性が高い、という意味も含まれるはずですから、「素直な心」が見抜くべき「真理」「物事の真実」「適時適切な判断」には、ビジネスとしての成功可能性が含まれるはずです。
例えば、成功体験が判断を誤らせる危険は、よく指摘されることですが、「素直な心」があれば、そのような色眼鏡を外して、客観的な判断が可能になる、という利点も指摘されるのです。
どう思いますか?