松下幸之助と『経営の技法』#13
「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。
1.2/28の金言
生きがいは、いろいろあっていい。人それぞれに、いろいろあっていい。
2.2/28の概要
松下幸之助氏は、以下のように話しています。
生きがいをもたず、ただ何となく毎日を過ごすということでは、決して幸せな人生とはいえない。生きがいは人それぞれにいろいろあると思う。
3.内部統制(下の正三角形)の問題
社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
いろいろな生きがいを許容するということは、いわゆるブラック企業とは違い、会社の仕事だけに邁進し、生活の全てを会社に捧げることを強要せず、むしろ、多様性を推進することを意味します。
多様性を認め、生活にゆとりを与えるためには、働き方だけでなく、会社が何によって利益を上げるのか、というビジネスモデルや社風、文化までも見直さなければ実現しません。
けれども、多様性やゆとりが生まれ、それが従業員の帰属意識や意欲を高めることに繋がれば、従業員全員がリスクセンサー機能やリスクコントロール機能を発揮することにもつながります。多様なリスクに気づくようになりますし、余裕がなくて見落とす危険も小さくなるからです。このように、多様性やゆとりは、会社のリスク対応力を高めることにもつながります。
そのためには、経営者自身が率先して、生きがいを見つけ、充実した生活を送っていることを、従業員に見せることが必要です。トップが率先して多様性とゆとりを示さなければ、一時期、上司が残業しているから自分も残業せざるを得ない、と言われていたように、従業員だけが多様性やゆとりを持つことは難しいからです。
さらに、リスク管理上も、経営上も、ブラック企業ではない、従業員の生活が充実している、という印象は、会社の悪評を防ぎ、会社自体の差別化や競争力強化にもつながります。
4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
次に、ガバナンス上のコントロールとして、株主による「適切な」コントロールも期待されるべきです。
すなわち、投資家としては投資した会社がブラック企業と言われることは、株価を下げることにもなり、感心できないでしょうし、配当の観点から見ても、現在の社会ではマイナスに機能するでしょうから、株主を代理すべき社外取締役などは、松下幸之助氏の主張する、多様性や生きがいを重んじる経営に向けて、経営者にプレッシャーを掛けるべきことになります。
例えば、ブラック企業と言われるような経営方針を代えない経営者の場合には、経営者を交代させるようなことも考えられますし、ブラック企業であることによって労災(メンタルや過労死など)が生じた場合の社会的責任の追及を、株主代表訴訟などの形で行うことになるでしょう。
5.おわりに
経営者の資質に関する松下幸之助氏の言葉は、他の金言を見てもわかるとおり、いずれも非常に厳しいものです。
他方、ここでの発言は、非常に寛容で大らかなものです。
このことから、氏は典型的な「自分に厳しく他人に優しい」タイプのように思います。しかも、氏から見たら「弱い」従業員たちを束ねて、事業を成功させます。ここにも、氏の人間としての大きさが感じられます。
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