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松下幸之助と『経営の技法』#144

7/8 説得力

~強い信念なり熱意が根底にあって、はじめて説得力は生まれてくる。~

 政治家や経営者にとって、最も大事なものの1つは説得力だとよくいわれる。いくらよい考えをもっていても、それを他の人に理解、納得させるには、それ相応の説得力が必要だというわけである。確かにその通りだと思う。
 ただ、説得力というものは、自然に生まれてくるものでもなければ、口先だけの技術でもない。やはり、これが正しいのだ、こうしなくてはいけないのだ、という強い信念なり熱意が根底にあってはじめて生まれてくるものであろう。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編・刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 説得力が最も要求されるのは、内部統制であり、リスク管理であり、経営です。説得力こそ、指導力のコアであり、リーダーとしての素養だからです。
 さらに、ここで松下幸之助氏は、説得力の意味・内容について、自然に生まれるものでも技術でもなく、信念や熱意から生まれる、と説いています。
 ついていく従業員の側から見た場合、口先だけの心のこもっていない話しかしないリーダーについていこうと思えないでしょうし、もしかしたら人格者かもしれないが、現状を受け入れるだけで、何もメッセージのない人も、方向性を示してくれそうにないので、ついていこうと思えないでしょう。
 他方、信念や熱意がある人には、ついていこうと思えるでしょう。
 このようなリーダー論は、古今東西、様々な形で議論されてきたところです。
 ところで、会社を組織として見た場合には、このようなリーダー個人の力量だけに頼っていてはいけません。もちろん、リーダーの力量が高いほど、組織も強くなり、力を発揮するでしょうが、リーダーに万が一のことがあった場合に、それだけで瓦解してしまうような頼りない組織でも駄目です。組織として役割分担や指揮命令系統が確立しているだけでなく、次のリーダーもすぐに決まるように、リーダーシップのある役員が複数存在し、リーダー不在でも組織がブレないような、一貫した方針やポリシー、社風などを全従業員が共有していること、等も必要になります。つまり、サステナビリティ―のある組織であることが必要であり、リーダーは、自分に万が一のことがあった場合に備えて、このような組織を作り上げておくことも必要です。
 ここで特に重要なのが、矛盾するように見えるかもしれませんが、①主体的で自立的な意識を備えた従業員であることと、②会社としての方向性や社風、会社の存在意義やアイデンティティーなど、従業員と会社の方向性を合わせるものの2つです。
 この2つが矛盾すると説明するのは簡単です。従業員が自立していくと、それぞれの考えが出てきてバラバラになってしまい、会社としての統一性や一体性が壊れていく、という説明です。もちろん、そういう面があります。
 けれども、組織の一体感を強調するあまり、命令や指示、ペナルティ、権力などで統制し、従業員の主体性を奪ってしまうと、リーダーが不在になってしまった途端に、組織活動が止まってしまいます。また、その中から時期リーダーが育つはずもありません。
 つまり、②会社の方向性や社風、存在意義、アイデンティティーなどは、主体的で自主的な従業員皆がそれぞれ納得して共有し、作り上げ、磨き上げていくべきものであり、他人から押しつけられるだけでは限界があります。逆に、このように主体的に関わる従業員たちが納得して指示するものだからこそ、本当に全員が共有できる方向性を示すことになり、リーダーが不在になったとしても(しばらくの間は)皆が納得して支え、ついていくことになります。
 このように、真に強い組織は、従業員たちの主体的で自主的な関りの中で作り上げる必要があるのです。
 そして、松下幸之助氏の言葉に戻りますが、信念や熱意こそリーダーに必要と説くのは、単に人を命令に従わせるだけでなく、むしろ逆に、主体的で自主的な従業員たちを育て、方向性を共有するためにこそ必要です。個性があり、多様性があることから、どうしても主体的で自主的な従業員が集まると求心力が落ちかねませんが、リーダーは、その信念と熱意を発信し、自ら核となり、座標軸となって、皆のベクトルや方向性を合わせていく、その道しるべや北極星のような役割を果たすべきなのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、熱意や信念を語れることが、1つの素養であることが理解できます。会社を託すリーダーを選ぶ際の、重要なポイントでしょう。
 すなわち、強権的に会社をまとめ上げるリーダーではなく、会社組織の活性化や、従業員の主体性を重視し、会社組織の柔軟性や成長力を作り上げるタイプのリーダーを選ぶのであれば、そのような方法で会社をまとめ上げるために重要なのは、リーダー自身の信念や熱意なのです。
 もちろん、会社にも個性があり、成長や衰退、変化などの仮定の中で様々なステージがありますから、それぞれのステージや個性に応じたリーダーが必要です。リーダーを選ぶ際の基準は決して一つではないのです。

3.おわりに
 他人に理解してもらう上で、有効なツールは、「イメージの共有」だと確信しています。
 これは、漫画やアニメでよくあるように、複数の当事者の頭からポワポワと浮かび上がる雲のような吹き出しが、共有され、その中に共通の絵が絵が描かれている状態です。
 確かに、イメージは曖昧なところが残りますが、(少なくとも同じ仲間同士であれば)何も理解されないまま言葉だけが間に挟まってしまっている状況よりも、少なくとも大筋では同じイメージを共有できていますので、はるかにマシです。
 そのためには、「つまり」と話を抽象化するのではなく、「たとえば」と話を具体化し、上手にたとえ話を織り交ぜながら、イメージの共有が進んでいることを確認しつつ、話しを進めることが重要です。このように考えた場合、松下幸之助氏が強調する信念や熱意は、イメージ自体の輪郭を明確に、力強くし、光度を上げるとともに、聞き手を惹きつけ、イメージを共有したいという意欲を高めます。
 違う言い方をすると、信念や熱意を伝えるということを、逆に目的に据えてみた場合、そのツールは、「つまり」で代表される抽象的な言葉よりも、「たとえば」で代表される具体的なイメージやたとえ話の方が、より適切なツールです。具体的なイメージやたとえ話の方が、信念や熱意を上手く共有してもらいやすいのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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