松下幸之助と『経営の技法』#22
「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。
1.3/8の金言
絶えず「素直」になることを念頭におく。それをお互いに口に出して唱えあう。
2.3/8の概要
松下幸之助氏は、以下のように話しています。
素直な心になるために、お互いに素直な心になるように唱えあうことが有効。例えば、朝の挨拶、打ち合わせ冒頭、など、折に触れて「素直に見て」等の言葉を使う。
3.内部統制(下の正三角形)の問題
まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
ここでの「素直な心」の目指すものは、ここまで3/5~3/7で話されてきた「素直な心」と、少し違うようです。すなわち、これまでの「素直な心」は、物事の真理や社会正義への適合性などを見抜く「眼力」のようなイメージでした。
しかし、ここでの「素直な心」は、従業員相互のコミュニケーションの円滑化を特に重視しています。従業員同士が「素直に考えたならば」「素直に見て」と声を掛け合うからです。
もちろん、両者は両立するものであり、物事の真理や社会正義への適合性に到達するために、効果的なコミュニケーションが取られる、という場合もあるでしょう。けれどもここでは、特に後者のコミュニケーションの問題を中心に検討しましょう。
この観点から見た場合、まず、従業員同士のコミュニケーションの重要性を確認しましょう。
すなわち、従業員同士のコミュニケーションが取れる状況は、内部統制上、要らぬ分派行動などを回避させ、従業員同士の一体感を作り出すなど、統制しやすくします。これは、駆け引きなどしないで「素直に」話し合い、腹を探り合わずにダイレクトに「素直に」意見交換できるようになることから、わだかまりの少ない人間関係ができあがる、と期待できるのです。
そうすると、リスク管理や経営上必要な情報がスムーズに共有されることになり、組織自体の免疫力や運動力が向上します。「もっとはっきりしてから」等と、報告をためらうことなく、早い段階で情報共有がされ、言葉を選んだ結果、抽象的で分かりにくい表現ではなく、端的で具体的にわかりやすい表現が使われるようになるからです。
4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
投資家から見た場合、投資する対象の会社は、社内で要らぬ派閥抗争が繰り広げられることなく、風通しが良くて一体となっている会社が良いに決まっています。
実際には、現実に投資する際や、投資後の経営者への監督やチェックの際に、このような事情まで詳細に把握することは難しいでしょうが、それでも、社内の風通しのよさは、一つのチェックポイントとして考慮すべきである、と理解することができます。
5.おわりに
法務に関して言えば、例えば契約書審査のときなどに、「心の対話」をツールとして使う場合があります。
これは、たとえば契約書の条文について交渉相手の会社から修正の依頼が入った際、この修正依頼の狙いは何か、この修正依頼の「心」は何か、聞いていますか、という意味で、先方と「心の対話」をお願いします、と使うのです。
松下幸之助氏の言葉には、このようなコミュニケーションに関する問題意識が含まれているように思われます。
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