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松下幸之助と『経営の技法』#67

4/22の金言
 いかなる指導者の下でも修養はできる。自己の心のもちよう次第である。

4/22の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 若手社員に対する講話です。
 配属先に対し、あそこは仕事がきつい、あの仕事は合わない、あの主任の下では働きがいがない、と不足をもらす人がいる。これは、ただ自己を中心として物事を考える弊で、どこで何の仕事をするも松下の仕事であり、かつまた自己の修養であることを考えない気ままのあらわれである。
 適材適所は理想だが、真に自己の適所を見出すことはなかなか困難である。それまでにはいろいろな経験を積まねばならぬ。いかなる指導者の下でも修養はできる。性格、意見の異なった指導者の下にあってこそ、かえってよりよく修養が得られることを深く考えなければならない。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 リスク管理上、特にリスクセンサー機能を高めるためには、現場従業員全員の主体的で能動的な意欲を高めなければなりません。会社を人体に例えた場合、体の隅々に神経が張り巡らされている(但し、熱さや痛さなど、簡単な情報しか関知しない)ことからも容易に理解されることです。
 そして、このことはリスク管理だけでなく経営上のビジネスチャンスを探す観点からも有効です。会社の現場だからこそ気づくヒントが沢山あるはずです。
 さらに、仕事に合わない従業員を簡単に解雇できない事情があります。法律上は、解雇権濫用の法理というルールによって従業員との契約を簡単に解除できないことになっているのですが、現在の経営環境上、極端な人手不足が進行しており、今いる人材を活用する必要があるのです。
 他方、従業員の側としても、働き方に関する様々な選択肢が増えていく中で、特定の分野の専門性で満足して、その領域の仕事だけを求めて転職を繰り返すパターンも見受けられます。
 松下幸之助氏の言葉は、そのようなタイプの人には響かない言葉かもしれませんが、ベンチャーも含め様々な企業に接してきた経験から見る限り、転職が比較的多い人でも、実際に転職で成功する人に多いのは、社会人としての経歴を積む比較的初期の段階でかなり詰めた仕事を経験し、そのノウハウを会得したパターンです。それも、当初自分が望んでいた分野と限りませんし、あるいは、得意分野の周辺分野も経験しておいたことが視野を広げてよかった、という場合もあります。つまり、若い従業員が色々な業務を経験できることは、仮にその会社に終身努めない場合であっても、キャリアにとって有効な場合が多くあり得るので、「若いときの苦労は買ってでもしろ」をより具体的に示す言葉として、それなりの意味があると考えられるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者には人材を活用するために、松下幸之助氏のように自ら若手社員に声をかけ、距離を縮め、意欲や問題意識を高める活動をして欲しいものです。
 また、違った見方で言うと、仕事の配転や人事上、従業員全員が満足できない施策も恐れずに実施し、その円滑な運営のために自らフォローする(直接若手従業員に語りかけるなど)ことも、期待したいところです。
 このように、若手従業員に講話を行った松下幸之助を経営者の1つのお手本として見てみると、そこから経営者に求められるポイントがいくつか見えてくるのです。

3.おわりに
 他方、この会社にずっといたい、と考える従業員にとっては、会社の指示に盲目的に従うのでなく、自分のキャリアにどのように役立つのだろうか、と考えるきっかけにもなります。会社の言うことを聞くとか聞かないとかいう話ではなく、様々な仕事について、自分のためにもなる、という意識で能動的に取り組むことが、言われたことだけを受動的にやるよりもずっと好ましい、という意味で、自分のキャリアのことを意識する意味があるのです。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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