松下幸之助と『経営の技法』#125
6/19 立ち話の会議
~テンポの速い現代では、会議でも座らず立ち話で即決するほどの心がまえがほしい。~
社長が実際の仕事についてはあまり知らず、「どうだ君、やれると思うのだがどうだ」というようなことを言っていますと、甲論乙駁、議論百出となって、三日ぐらいかかりかねませんい。それはいささか極端ですが、日本での会議というものには、概してそのような傾向が強いのではないでしょうか。それでは何かにつけてテンポの速い今日の世の中では、結論が出たときにはもう状況が変わっていることになりかねません。ですから、会議だからといって、会議室に集まり椅子に座ってするのではなく、立ち話で会議をして即決する。しかもそれでも事態は刻々に変わりつつあるから、その立ち話の会議を状況の変化に応じて何回かくり返す。それくらいの心がまえが必要だと思います。
もちろん、事が決まっていても、会議に付して衆議をまとめねばならない場合もありますし、実際に衆知を集めるために一ぺんみんなに意見を聞いてみようということもあります。そのように会議にも時によって千差万別、いろいろありますから、一概にはいえませんが、私は会議というものについては一面そういう認識をもつくとも大切なことだと思うのです。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)
1.内部統制(下の正三角形)の問題
まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
経営のスピード、特に意思決定のスピードが大事、ということが、既に松下幸之助氏の時代から言われ続けていたことに、驚かされます。現在も言われ続けているのは、さらに世の中のスピードが上がった、という社会の側の変化だけでなく、特に大きな会社では、未だに意思決定に時間がかかっている、という状況も背景にありそうです。
さらに、会議にもいろいろなやり方があり、状況に応じて使い分けるべきことを指摘しています。
そのうち、どのような場合に「衆議をまとめ、衆知を集める」のかまでは明らかにされていませんが、その一つのヒントとして、リスク管理の観点からこれを考えましょう。
すなわち、経営判断が結果的に間違いであっても、経営者はチャレンジすることが仕事であり、全てについて責任を負うわけにはいきません。結果的に失敗しても、(少なくとも法的には)責任が減免されるためには、経営判断の原則が適用され、デュープロセスを尽くしたことが重要なのです。すなわち、経営判断に関わるリスクを適切に把握し(リスクセンサー機能)、適切な対策を講じたうえで(リスクコントロール機能)、経営判断を行うのです。
その際、リスクの程度に応じて、検討の深度も異なってきます。
すなわち、経営に与える影響が重大だったり、リスクの見極めが難しかったりすれば、それだけ多様な意見や分析が必要になりますので、そのような場合には、「衆議をまとめ、衆知を集める」ような会議が必要となるのです。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
投資家である株主と経営者の関係で見た場合、大して必要も無いのに会議ばかり開催し、皆の意見を確認する経営者は、責任持った判断ができない経営者と評価できます。スピードが求められ、リスクもそれほど重大でないのに、自分の責任で決断できないからです。あるいは、反対意見がある中で、会社をまとめ上げ、同じ方向に向けて動かす、というリーダーシップが欠如している、という評価も可能です。
もちろん、組織設計上、会議が必要と設計しているのに、そのルールを無視することになれば、社内ルールが守られなくなっていき、内部統制力が落ちていきますから、ルールを無視することを推奨するものではありません。
むしろ、そのような事態も見据えた組織設計を行い、ルールを定めることが重要なのです。
すなわち、会社組織は経営者が株主の負託を受けて利益を生み出すためのツールですから、会社の組織設計やルールを作ることも経営者の責任です。保守的に何が何でもリスクを避けるような制度設計になっていれば、その制度設計自体が、株主の負託に反することになります。
つまり、スピードとリスク管理が両立するような、柔軟さと安定感を両立させるような制度設計をし、実際にそれに沿って会社経営できることが、経営者には求められているのです。
3.おわりに
柔軟性を確保するのは、特に安定志向の強い組織の場合、非常に難しいことです。例えば、上記のとおり簡易迅速な会議と慎重な会議の二種類を定めたとしましょう。すると、この議案はどちらの方式で検討するのか、を会議で決めるようなことにもなりかねません。会議のための会議、という笑えない状況が生じるのです。
状況に応じて迅速な意思決定も可能な会社となるためには、ルールや組織設計も重要ですが、それを是とする従業員の意識づけや社風作りも重要です。
どう思いますか?
※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。
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