穏やかなとき
夕方。
息子がギターを弾いて、娘が歌っている。
夢の中へ
夢の中へ
行ってみたいと思いませんかぁ…
キッチンで、夕飯の支度をしながら、なんとなく、耳を傾ける。歌が終わったようだ。息子、最近はキーボードばかり弾いていたけれど、ギターも覚えてるんだな。娘、「夢の中へ」知ってたんだ。ふぅーん。
あまり、きこえないが、ボソボソと話す息子の声の合間に、「ふふふ」と笑う娘の声が入る。
穏やかなときだ。これが、日常ではなくなったから、そう思うのかな。姉弟、ふたりでしかできないはなしもあるだろう。邪魔はしないようにしよう。
娘は、明日の夜行バスで帰る。喧嘩してる間もないくらいだ。娘の不在に、息子もわたしも夫も、慣れてきた。娘も、そうだろう。
毎日、LINE電話があった日々が懐かしい。今は、1週間に一度くらいになって、事後報告が増えた。もう大丈夫、なんだろうな。うん。
「母ぁ〜、台湾のお菓子、また食べ忘れた。今度、必ず食べようね!」
「うん。わかった。」
30個以上入っていそうなクッキー、今からじゃあ、食べきれないものね。お菓子の賞味期限を見る。ということは、11月までには、また帰ってくるわけね。はい、はい。
夕飯は、娘リクエストで、筍ご飯と大根とお揚げのお味噌汁、とりもものニンニク醤油焼きにした。トマトサラダは息子のために。筍ご飯の素は、隣に住むわたしの母が作ってくれる。筍は、旬のときに、茹でてから切って、砂糖をまぶし、冷凍しておいたもの。
今、わたしができるのは、美味しいご飯を食べさせることくらい。さて、仕上げをしますか。