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かえるの日のふふふ…


 6月6日。
 今日は、かえるの日だという。かえるかぁ。へぇ〜。

 夕方、夕飯を作ってから、いつものように、散歩へ行く。あちこち、景色を眺めながら、ゆっくりと歩く。田んぼを眺めながら、かえるを思う。

 「ほれほれ、けろけろ、しとらんと!(ほらほら、きょろきょろ、しないで!)」

 そう、祖母に言われた気がして、思わず背筋が、ぴんと伸びた。幼いころ、何度、そう言われたことか。集中してさっさと、何かに取り組まないと、すぐに祖母から檄が飛んでくる。

 集中してます。がんばってます。それっぽく、振る舞うこと、わたし、得意だった。でも、祖母には、バレていたんだろうなぁ。本当は、気もそぞろだったこと。

 そういえば、この「けろけろ」は方言かと思っていたが、そうではなかったようだ。今回調べて、驚く。

けろ‐けろ
[副]
1 「けろり1」に同じ。
「お糸は、けれども存外―としたものだった」〈里見弴・今年竹〉
2 「けろり2」に同じ。
「午後には―と癒って」〈魯庵・社会百面相〉
3 「きょろきょろ」に同じ。
「―とあたりを見廻した時には」〈漱石・吾輩は猫である〉
4 カエルの鳴き声を表す語。

コトバンクより


 おばあちゃん、わたし、今、わりと大変なんだよ。まぁ、なんとかかんとか、やってくけどね。

 「ほうか、ほうか、がんばらんといかんよぉ。」

 はいはい。泣き言なんか、受けつけんよね。だって、おばあちゃんの泣き言、一回しか、聞いたことないわぁ。自転車で転んで、大腿骨を複雑骨折した、あのときだけ。

 ほんでね、今、わたし、けろけろしながら、歩いとるよ、おばあちゃん。ケロケロ、かえるが鳴いてる中を。ねぇ、今なら、一緒に、けろけろしてくれる?もう、なんも急いでやらんといかんこと、ないでしょ。

 だって、けろけろしてた方が、いろんなことに、気づくんだよ。空の色の変化や、風の気配、小さな花や虫、鳥が飛んで、川が流れていくこと…。わたし、おばあちゃんと一緒に、もっとけろけろしたかったわぁ。

 ん?「けえーろ、けえーろ…」って、尾張弁で、「かえーろ、かえーろ…」みたいだが。「かえるが鳴くから、けえーろ。ケロ♪」思わず、口から歌が飛び出した。

 そんなん歌ったら、おばあちゃん、ふふふって、笑うかなぁ。笑うわなぁ、きっと。そんで、続き、歌ってくれるだろうか。

 ねぇ、おばあちゃん。

 ふふふ…
 柔らかに笑う、祖母の顔が浮かぶ。


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