〔お話〕あおときいろ
きいちゃんは、おままごとをしている。
きいちゃんの小さな手から、まんまるのお団子が生まれる。カラフルなチラシを丸く切ったお皿に、松の葉のおはし。お団子の最後の仕上げには、さらさらの白砂。
頬杖をついて、ぼんやりと、それを見ている。温かくて、眠くなってきた。
「おとうちゃん、ご飯ですよ。」
「うん。」
きいちゃんの向かい側の席につく。「いただきます」と、もごもご言って、お団子をつかみ、食べる真似をする。きいちゃんは、まあるい笑顔で見つめてくる。
「おいしい?」
「うん…」
そう言いながら、ちょっと、このまま付き合うのが、嫌になってきた。偽物のご飯を食べる…本物がいいな。きいちゃんは、おかあちゃん役を楽しんでいるけれど…
「ごちそうさま、仕事に行ってくるっ!」
そう勢いよく言って、逃げ出す。
「あお…おとうちゃん、またどっか行く〜!」
きいちゃんが、口をとがらせているけれど、見ないふり。
「おとうちゃんはお仕事です!お土産持って帰るよ。」
結局、呼び戻されて、鞄を持たされた。お土産は、持ち帰らんといかんな…
気を取り直して、走る。気持ちがいい。たんぽぽの道を通って、広場に行こう。
広場の真ん中には椎の木がある。手を回しても届かないほど太い。こぶに足をかけ、登る。枝の間にできたうろをのぞく。中には、黒色でところどころ白い、ちょっとだけ赤いところもある虫が、たくさんいる。昨日、見つけた。今日も、ちゃんといた。
飛ばない。逃げない。よく見て、図書館で調べよう。よくわからない虫には、手で触らないこと、これ大事。
前に、椿の生垣にいた、カラフルな毛虫を捕まえたら、手が腫れて、ズキズキと痛んだ。怒られたくなくて、誰にも言わなかったけれど、あんな目にはもうあいたくない。
椎の木から、飛び降りて、また走る。田おこしが終わった、田んぼのあぜには、オオイヌノフグリ、ほとけのざが咲いている。
いちご畑を通り過ぎ、小屋の脇まで。
ここは、自分の秘密の場所。緑の細長い葉っぱに、手を突っ込む。これはリュウノヒゲ。葉をかき分けて、探す。まだ、あったあった。青い実。
かき分け、かき分け、青い実を取っては、鞄に入れた。お土産は、これでいいだろう。ふんふふふーんと鼻歌を歌いながら、スキップで戻る。あっ、と思いつき、たんぽぽの花もつむ。
戻ると、きいちゃんは、ケーキを作っていた。プリン型のケーキが、ずらりと並んでいる。
「たっだいま〜。はい、お土産!」
青い実を取り出して、ケーキにのせた。たんぽぽも一緒に。きいちゃんは満足そうに、にっこりと、笑う。かわいいな。
残りの青い実を割り、青い部分を取り除いた。そうすると、中から半透明な種が現れる。それをいくつも、作った。きいちゃんが、のぞき込んでくる。
「はい。宝石!」
きいちゃんの手に、白くなった実をのせる。
「わぁ!あおちゃん、ありがとう!」
宝石をひとつ、地面に向かって投げつける。
ぽーん!
弾んで、宝石はどっかへ消えた。