【論文 読書記録】母親の就労が幼児の生活習慣に及ぼす影響
論文の記録を「読書記録」と言って良いものか、というツッコミ所がありますが、広く届くようにとの気持ちも込めて「読書記録」という分類で投稿します。笑
本来なら抄読とかがあってるのかな?
書く前に一つ。
子育てしながらの働き方は多様性が加速している昨今。
お母さんたちはみなものすごくものすごく悩んで、悩んで、悩んだ結果それぞれの選択をしていると思います。
選択の背景には、仕事が好きか、子どものそばにいたいか、といった気持ちの面だけではなく、経済面であったり、職場事情であったり、あるいは住んでいる自治体の保活状況であったり…。
そのどれもが本当に各家庭、各職場、各自治体にとってはとても大きな問題で、SNSにもリアルにも色んな声があふれています。
ただ、研究結果はただ一つの「結果」「報告」であり、それが絶対ではない。
世の中の明らかになっていないことのうち、一部を明らかにするようなものだと思うので、これがすべてではない。でも、そういった積み重ねが人類の営みの中での知恵、叡智となっているのだと思います。
今回読んでみた文献は、「母親の就労が子どもの睡眠と食生活に不健康な影響を与える」という多重役割仮説に基づく仮説検証を行う、といった立ち位置からの研究ではあるのですが(そして自分自身もいずれ仕事に戻る上で気になっていた部分ではあったのですが)
私自身としてはそういう前提の元に(つまり、何かを肯定したり否定したい、誰かを傷つけたりしたいわけではないこと)、読んでみた所感とか色々記録しておこうと思います。
文献の紹介
今回読んだのはオープンジャーナル。
執筆されたのは静岡大学の方と市役所の方ですね。
2019年の報告なので、比較的最近のものでとても参考になりそう。
普段私立機関で働いているので、どうしても研究フィールドとなると自分の所属する機関や関係者の所属機関に限られてしまうので、こういったテーマの研究を公的機関の方とできるのはとてもフィールドが大きくて良いなぁと思ったり。
本来、もっともっと公的機関と大学のような研究機関が連携した研究がたくさん為されると良いのにな、と思っています。
学会誌・分野情報
日本家政学会誌というもので、結構幅広いテーマ、主に家政にまつわる内容の研究や報告が載っています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej/70/8/70_512/_pdf/-char/ja
分野違いなもので、私自身こういう学会誌があるのを初めて知りました。
世界は広いなぁ。
文献の概要
序文が英語だったんで訳するとこんな感じ。
背景
幼児期は人間の発達の基礎形成段階であり、その時期にふさわしい生活習慣を整えることの重要性が謳われている。
一方で2017年には末子が0歳児の母親の42.4%、6歳児の母親の71%が就労している。共働き世帯も専業主婦世帯を上回っている。
母親の就労増加の背景には国の政策の女性活躍促進政策が一因として考えられる。
しかし、母親の就労が子どもの生活や健康にどう影響するのか、子どものウェルビーイングを踏まえた親の就労の在り方や社会支援についてはほとんど検討されていない。
2003年に母親の就労有無と子どもの問題傾向との関連を検討はなされているが、生活習慣については研究が少ない。
こういった背景を元に行われた研究のようです。
結果
色々すっ飛ばして結果。
母親が就労している子どもは睡眠時間が10時間未満
母親が無職の場合、就寝時間は10時間以上
母親の午後6時以降の帰宅時間の遅さは子どもの就寝時刻の遅れや夜間の睡眠時間の短さに繋がる
母親の帰宅時間の遅さは子どもの栄養や献立バランスなどの食習慣には影響を及ぼさず、家族との供食習慣にのみ影響を及ぼした
感想、所感
バリバリ働いてきて、子どもができてふと「この子の健康を守るためには私はこれからどうしたらいいんだ?」とこれまでの働き方や生活を振り返るお母さんは、私だけではないはず。
その中でよく耳にしたり目にするのは、「子供を保育園に預ける事は子どもの発達には問題ないと研究結果でも出ています」という言葉。
そこに続くのは、「だから小さいうちから預けてかわいそうとか言わないでほしい。私もさみしい。」
もしくは「私だって社会と関わる時間が欲しい」などなど、色んな気持ちや声があると思います。
よく聞く3歳児神話に対する反駁ともいえるこの研究?らしきものについても先行研究として挙げられていたのが興味深かったです。
そしてその研究は2003年のもの。20年も前の研究です。
今はどうなのか、もっと新しい研究が持続的に出てくる中で判断したいな、と思ったり。
個人的には、これを読んで、これまで金銭的にもフルタイム復帰一択でしょ!と思っていましたが、通勤片道1時間超なのもあり時短かなぁという気持ちが出てきたと共に、経済的な面でフルタイムにせざるを得ない場合、様々な声はありますが政府が昨年打ち出した「時短でも賃金保障する」という方向性はぜひとも進めて頂きたいなと思いました。
あと、背景と目的のところに出てきた「ライフコース疫学」というもの。
初めて知りましたが、「子どもの頃の家庭環境によって成人後の健康格差が生じる」とされている考え方なんですね。
これも私にとっては新たな知見で読んでみて良かったです。
国に求めたいこと
政策の結果の現状を知るための研究促進
政府は政策を進める上で、単純に数としての結果や統計だけではなくて、その結果がもたらす課題や質などについても十分に検討してほしいですし、でもきっと政策を決める時点で検討できる内容は限られていると思うので、アフターフォロー的にこういった研究や調査をしっかり行ってほしいなと思います。
研究や調査は各省庁なども行ってくれているとは思いますが、それだけではなく。
それこそ、大学などの研究費を削減せずにしっかりと充実させて、様々な視点を持った国民の素直な疑問や着眼点から生まれる研究がより生まれやすいようにしてほしいなと思います。
その結果、何か問題や課題が出てきたら、そこは素直にまっすぐに受け止めて、柔軟に方向転換や対処手段についても打ち出していってほしい。
「こどもまんなか」の社会の実現 とは?
厚生労働省は、「健康づくりのための睡眠指針の改定に関する検討会」で、以下のような指針を案として打ち出しています。
でもこれ、フルタイム共働きとか11時間保育を容認や推奨している時点でほぼ不可能ですよね。
11時間保育って、つまり保育園への送迎を考えると自宅で過ごせるの実質12時間くらいしかないってことじゃないですか。
仮に1-2歳児の推奨されている最小の11時間睡眠を確保するには、1日2時間で朝夕の食事、お風呂(当然、食事準備やお風呂掃除などの時間も入りますよね)、親子のコミュニケーションの時間を…
・・・なかなか頭を抱えてしまいます。
今回の研究の中でも親の労働環境の改善について触れられていますが、ほんとうの意味で「こどもまんなか」を叫ぶのであれば、こどもの望ましい生活習慣のために、大人がどう変わっていかないといけないのか。
これを、子どもがいて当たり前にそういった点に関心を持っている人たちだけではなく、子どもがいない方にも、もうお子さんが大きくなってそういったことは意識されていない方にもしっかりと届くように周知してこそ、職場環境や文化として醸成されていくのではないかと思います。
厚生労働省が打ち出す理想とする日本人の生活と整合性の取れた枠組みをどんどん社会に打ち出していってほしいですね。
この案も昨年後半に打ち出されているだけに期待。
「研究」の限界
これは研究にわずかながら触れている者としての一意見として読み流してもらえたらと思いますが、「研究で明らかになった」という一言で安心してそれを真実として飲み込んでしまいがちのように感じます。
実際私自身も、研究について色々知ったり読んだりするまでそうだったし。
でも実際は、一つの研究で明らかにできることって、一つのテーマに関するほんの一部の事実を報告しているに過ぎなくて。
だからこそ、注目されるテーマに関しては沢山の人が色んな視点で研究を行い、どんな条件が影響しているのかとか、逆に反対意見を支持するような結果はあるのかとか、そうやって色んな人が揉んで揉んで、少しずつ分かってくる何かがあるという感じなんですよね。
研究はあくまでも「真実」を明らかにするのではなくて、世の中のグラデーションの一部の「確からしさ」をどれだけ明らかにできるか、みたいなものだと思っています。
そして、その研究テーマはどこから来るかというと、「どうやらこうらしい」とか「肌感覚でこうなんだけど、これって本当かな」みたいなところから吸い上げられることも多くて。
結局は、やっぱり自分自身の感覚みたいなものが頼りになるのかな、なんて思ったりしています。
結語
研究よ、進め。
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