【本要約】戦略がすべて
Ⅰ.ヒットコンテンツには「仕掛け」がある
1.コケるリスクを排除するーAKB48の方程式
人を売るビジネスの3つの壁。
第一に、どの人材が売れるか分からない。
第二に、稼働率の限界。
第三に、売れれば売れるほど契約の主導権や交渉力がタレント側に移る。
以上の問題を解決する方法がある。複数のタレントを包括するシステム、すなわちプラットフォームを作り、そのシステムごとまとめて売ろうというものである。その象徴的な存在がAKB48だ。
第一の壁に対して、誰が売れるか分からないという状況は変わらないが、これだけ売り出しておけば、誰か当たるだろうというやり方が出来る。AKB48には総選挙というスキームがあり、わざわざ市場のニーズを分析して戦略を立てなくても、消費者が自ら好みを示してくれる。
第二の壁に対して、個々のタレントではなく、AKB48全体で売り出すことでクリアできる。仕事のオファーが個々のタレントではなく、AKB48にくるので、トップタレントが稼働できないときも、セカンドクラスのメンバーによって稼働を抑えることが出来る。
第三の壁に対して、AKB48というグループの看板に個々のタレントは依存しているので、人気が出た後も、個々のタレントの独立や報酬のインフレのリスクを軽減できる。
このように、コンテンツをたばねるプラットフォームを作ることは、様々なリスクを軽減して、ビジネスに永続性を持たせることとに有効な手法だと言える。
この仕組みを一般企業に転じて考えてみる。
多くの企業では、優れた人材を採用し、昇進させていると信じている。しかし、競争や移り変わりが激しくなれば、誰もが持てる能力や、平凡な人材にニーズはない。非常に高度な技術、あるいは特殊な才能がものを言う。何が求められているかも変わっていく。将来的にそうした人材になるかなんて分からない。であれば、いろいろな人材にチャレンジさせて、市場の反応や時代のニーズに合わせて自ずと選抜させていった方が合理的だ。もちろんこのやり方は、試される人材にとっては厳しい。だからあくまで、自分の能力を高め、高い報酬を得たいという者だけがこの競争に参加すればいい。こうした競争が嫌ならば、コモディティ化された人材として、大きな夢を見ず、賃金や条件の不満は飲み込んで、こつこつ働くしかない。
2.全てをプラットフォームとして考えるー鉄道会社の方程式
プラットフォームビジネスは、人、物、金、情報をネットワーク化することで、そのネットワークの流量が増えるにしたがって、そのハブであるプラットフォーム事業が利益を上げるという仕組みだ。さらに、一度強いプラットフォームを築き上げれば、利益を独占し、リスクを回避できる。メッセージ交換サービスを例にとると、日本ではLINEが圧倒的だが、韓国ではカカオトークというサービスがほぼ独占している。あるときまでは競争状態にあった両社だが、ひとたびシェアが独占状態になれば逆転する隙はなかなかない。
プラットフォームと聞くとネットワーク上のオンラインがイメージに湧くが、オフラインにも興味深いビジネスモデルがある。例えば鉄道会社。鉄道会社は、鉄道を敷いて、その周辺の街を開発することで、大規模な集客を行い、そこに様々な事業者のビジネスを誘致する。こういう視点で考えると、鉄道会社はただ鉄道を運行させるだけでなく、沿線全体の集客、そしてサービスの質を管理することでプラットフォームのブランド価値を高めることが本質だと分かる。
この考えを発展させると、国家も一種のプラットフォームであることがわかる。国家は、どういったブランドで人を集めるか、生活やビジネスにおいて、どのような環境や機能を提供するか。魅力的な国家には、より良い人や職が集まるだけでなく、海外から優れた企業を誘致したり、優秀な人材を移民の形で外部から調達することも可能である。
さらに身近に引きつけて言えば、各個人も、周りの人たちや組織に対してプラットフォームとして価値を提供するということが考えられるかもしれない。自分が何らかの価値を提供して、周りに人を集める。彼らが協力と競争を通じて、お互いに学習・成長し、その成果が自分のところに少なからず戻ってくるようにすれば、その時、個人がプラットフォームになったことになるわけである。そういう意味では、国家も個人もプラットフォームという視点から再考してみる必要があるのではないだろうか。自分はどのようなブランド・サービスを提供すべきなのか。どのような価値があるのだろうか。どうやったら人から必要とされるのだろうか。
3.ブランド価値を再構築するー五輪招致の方程式
プレゼンテーションにおいて、最も重要なのは、「聴衆が何を求めているか」ということである。そこから、内容と見せ方が決まってくる。見せ方の中には、どのような話し方をするのか、非言語的な立ち振る舞い、印象のみならず、その内容を誰が話すかも重要だ。
プレゼンテーションにおいては、「勝利の条件」が何かを見誤ると失敗する。それは、プレゼンテーションしているものの、「本質を見抜く」ということである。
オリンピック開催というと、日本国内の報道では、日本への経済効果、日本へのメリットという点に注目が集まりがちだ。あるいは、日本のメダル数をいかに増やすか、ということが話題の中心になりがちである。しかし、これらはともすると、自国中心主義的な考え方である。オリンピック精神の中核には、国家間のメダル争いなどない。その本質は、あらゆる国の人がスポーツに参加して、スポーツマンシップによって国際交流を深めるというところにある。そう考えると、オリンピックのホスト国にふさわしい国というのは 、自国だけのことを考えているのではなく、オリンピック運動に貢献するという、国際公約を守れる国かどうかということが最も重要なことになるだろう。日本へのオリンピック誘致の背景には、オリンピックの本質を正確に捉え、オリンピックに貢献できる国は日本であるという一貫したストーリー、ブランディングを行ったことがある。反対にスペインはセールス色が強かったのが、マイナスだったといえよう。
Ⅱ.労働市場でバカは「評価」されない
4.「儲ける仕組み」を手に入れるースター俳優の方程式
大企業と中小企業では、構造的に給与格差が存在していることが、広く知られている。しかし、なぜ会社の規模で給料に格差が生じるのだろうか。大手不動産会社に勤めるAさんと、中小不動産会社に勤めるBさんを比較してみよう。不動産業では会社の規模によって、それほど必要とされるスキルが違うわけではない。むしろ、中小不動産会社の方が競争が激しいため、Bさんの方がより、スキルが高いかもしれない。しかしながら、大手社員の方が往々にして給与は高い。この理由は極めて簡単である。マクロで見れば、従業員1人当たりの付加価値額が、大手不動産会社の方がはるかに高いからだ。大企業では、1人の社員がより多くの資金と不動産を扱っているので、大手不動産会社と中小不動産会社とでは、1人の社員に割り当てられている資源量が大きく違う。社員の資源に対する利益率があまり変わらないのであれば、大企業の方がより容易に利益を上げることができる。逆に小さな資金と不動産しか扱っていない中小企業は、利益が上げにくい構造である。
これは不動産業だけではなく、多くの産業で同じ構造が存在する。従業員1人当たりに投入されている資源量を「資本装備率」と呼び、資本から生まれる付加価値額の比率を「資本生産性」と呼ぶが、多くの産業で大企業と中小企業で資本生産性はそれほど変わらず、差がつくのは資本装備率なのだ。製造業においても、資本生産性は中小企業の方がやや高かったりするが、資本装備率が倍以上違うので、従業員1人当たりの付加価値額に倍近くの差がつく。従業員の給与は、付加価値額に労働分配率をかけたもので決まる。労働分配率は業種によって多少違いはあるが、国際比較で見ても、時系列で見ても、60%前後がベンチマークであり、そこまで大きく差があるわけではない。結局のところ、スキルの高低というよりも、元々社員に与えられている資源量で、給与差がついているという方が説明をしやすい。
では、どうしたら高い報酬を得ることができるかを分析してみよう。1つの方法は、資本装備率の高い企業に行くことである。これは中小企業よりも大企業ということでもあるが、鉄道エネルギーといった、公益事業・商社・大手不動産会社のような資源を、大量に保有している会社が挙げられる。しかし、こうしたところはぶら下がり社員も多いので、結果的に資本装備率や資本生産性が落ちるリスクもあるし、従業員である以上は限界がある。より高い報酬を望むのであれば、取るべきは自らが「資本=設ける仕組み」の形成に関わり、リスク・リターンをシェアすることで大きな分け前を得られるようにする方法である。これは、自分が起業するか、あるいはベンチャー企業の初期に、設ける仕組みを作るのに参画して、ストックオプションのようなリスクリターンシェア型の報酬をもらうというのもあるだろう。結局、ビジネス全体を理解して、「資本=儲ける仕組み」に参加しない限り、可能性の上限は限られ、経営者の気まぐれな労働分配率に頼らざるを得なくなる。コモディティ化された存在によっては、いつまでも高額の報酬が望めない。
5.資本主義社会の歩き方を学ぶーRPGの方程式
社会学の概念に、「予期的社会科」という言葉がある。これは、子供がその発達、過程において、社会の縮図に近いことをあらかじめ行うことで、多くは遊びの形で行われる。わかりやすく言えば、〇〇ごっこである。かつて、日本が軍国主義時代を歩んだ時には、子供たちの遊びといえば軍人ごっこであったし、将棋も軍人将棋であった。
読者のうち私に近い世代、すなわち20代から40代の読者にとって、共通の文化になっているものは何かということを考えてみると、それはロールプレイングゲームなのではないかと思う。このロールプレイングゲームの世界観・メカニズムは、学校教育で教えられるカリキュラムよりもはるかに現実の社会、とりわけ資本主義のルールを教えているのである。
まずRPGの基本システムとして、職業システムというものがある。色々なバリエーションがあるが、一つの典型的なパターンは、戦士、魔法使い、僧侶、盗賊というモデルである。各職業は全く違う、強み弱みを持っているので、戦士だけのチームや魔法使いだけのチームでは、冒険の目的を達成することができない。各人の強みを生かしたバランスの良いチームが、冒険のためには必要である。要は、資本主義の基本である「分業」と「熟練」が暗黙に前提とされているのだ。
これは、初等・中等教育、とりわけ公立学校で強調されるバランスのいい「内申点」を個人が取っていくゲームとは真逆である。さらに皮肉なことに 各職業には、キャリアシステムが存在する。例えば、戦士は呪文の勉強をすると、治療系の魔法も使えるパラディンに転職でき、非常に使い勝手の良いメンバーになるが、ひたすら戦闘力だけを鍛えて武闘家として頑張っても、ゲームの後半ではメンバーに選ばれなくなって失業してしまうということがある。呪文を英語と例えると、なんだかグローバル化の波にさらされて英語学習に頭を悩ませるビジネスマンのようであるが、呪文を使えば使うほど希少性が上がっていくようになっている。
このように、ロールプレイングゲームを、資本主義社会の縮図のように捉えると、一律した平均的な人材を目指すより、何かに特化した能力を鍛えた方が、良い人材になれることが分かる。先の例えでは、武闘家が最終的に失業する可能性が高いと述べたが、その武闘家だって、一点を極めて行けば、これまた希少性の高い人材となるのである。
ロールプレイングゲームだけに限った話ではないが、ゲームに組み込まれたルールを、現実世界に転用させられる考え方を持っている人は、ビジネスにおいても、良いパフォーマンスを上げられる可能性が高い。
6.コンピュータにできる仕事はやめるー編集者の方程式
検索結果から簡単な広告を自動で作成し、それを読者の属性やコンテンツの性質ごとに、アルゴリズムで割り当てていく方法では、コンピューターが勝利するはずだ。一方で、人間にしか作れない広告もある。広告とコンテンツが有機的につながり、広告自体にコンテンツとしての価値が加わるようなケースだ。このような広告営業戦略を取るには、雑誌のブランドと広告主のブランドをきちんと一致させる必要がある。営業担当者には、コンテンツ制作者の意図を汲める人間が必要になってくるであろう。特集記事のストーリー と整合するブランドイメージを保有する企業はどこか、どのような広告メッセージを出すことが有効か、そのためにどのようなクリエイティビティが必要なのかと、編集的な観点と広告的な観点を融合させて考える必要が出てくる。
7.人の流れで企業を読むー人材市場の方程式
ビジネスの場において、他企業を評価する機会はしょっちゅう訪れる。売上、業界シェア、時価総額、株価、会社を評価する基準はたくさんある。しかし、これだけで会社の実態は本当にわかるだろうか。私は仕事柄、数多くの企業を評価しているが、ひそかに活用している観点がある。それが人材市場である。どのような人がその企業に入ったか、どのような人がその企業を去ったかという、人の出入りこそが、企業の業績の先行指標として非常に有益な場合がある。
人材の移動は、ベンチャー企業において如実である。ベンチャー企業が、非連続に変化して成長する時の前兆として、優秀な人材が続々と転職して参画するという現象が見られる。逆に、人の辞め方もよく観察しておく必要がある。ベンチャー企業の場合は、会社の成長に個人の成長が追いつかない結果 、幹部社員が突然辞めたりすることもあるし、単に会社の将来性に限界が見えてきて、大量に人が辞めるというケースもある。だからこそ、人材市場こそが、企業の未来をより先取りし、より正確に予見しうる市場だ。
今勤めている会社の人材が辞める時の理由であったり、転職を考えてる人は 転職候補先で、他にどのような人が採用されているか、直近で辞めていった人材の情報を、ウォッチしてみると良いだろう。
8.二束三文の人材とならないー2030年の方程式
私は、2030年の日本において、リンダ・グラットンが「ワークシフト」で提唱したような、自由な働き方が、大きく広がっているとは思わない。大抵の人にとって、企業を離れて個人で働くというのは、零細な個人事業主になるようなものであり、とりわけグローバル資本主義のもとでは、買いたたかれるリスクが増すだけだろう。だからこそ、不確実で厳しい未来においては、自分の労働をコモディティ化させないことが重要になる。企業で働く人は、まず自分がいる会社を、時代の変化に即して変えていくことに努力すべきだと思う。会社ではなく、市場に評価される人材を目指せ、といった考え方も最近多いようだが、そもそも、企業自身が市場から評価されようと懸命に努力しているのだ。ならば、市場からの評価というリスクは会社に取らせ、自分は、社内という狭い世界で評価されることを目指し、イニシアチブをとって会社の変化を主導する。その方が、一般の労働市場に打って出ていくよりも、個人にとってのリスクは、はるかに小さいはずだ。
本章の最後に、特に若い世代の働く人たちに向けて、「パラダイムシフト」についての話をしたい。2030年の社会はきっと大きく変化しているだろう。世の中の常識が天動説から地動説へと、パラダイムシフトしたのは、ガリレオガリレイをはじめとする科学者たちが、地動説の正しさを証明したからではない。天動説を信じる人がほとんど死に絶え、地動説を信じる人たちへと 世代交代したからだったのだ。いつの時代も、世の中のパラダイムシフトは世代交代によって引き起こされてきた。不確実性が高まるこれからの社会、これから起きるパラダイムシフト的な大きな変化に向けて、20代・30代前後の世代が担うべき役割は極めて大きい。高齢化が進む社会において、若い世代の人たちは、年上の世代の人たちが多くいるため、現在十分に力を出せていないかもしれない。特に企業社会においては顕著にそうだろう。けれども 若い世代の人たちは、自分の出番が回ってくるのを待っていてはいけない。それでは変化に取り残されるだけだ。是非、年長の責任ある役職の人を取り込んで、その人を立てつつも、実質は自分たちが主導しているくらいの技を身につけて欲しいと思う。
Ⅲ.「革新」なきプロジェクトは報われない
9.勝てる土壌を作り出すーオリンピックの方程式
「オリンピックでメダルを増やすにはどうすればいいか」という問いは、コンサルティング会社の採用面接でもよく出される問題で、私もマッキンゼー 時代によく出していた。言い換えれば、オリンピックの成果は、経営戦略の勝利と見ることが可能なのである。
勝つための戦略を立てるにはどうすればいいか。まず「どの土俵なら勝てるかを見極め、勝てる土俵を選ぶこと」にある。あまり頑張らなくても、構造的に勝ちやすい場所を選ぶことが何よりも重要だ。ビジネスにおけるこうした土俵のことは「事業ドメイン」という。その上で、「楽勝でできることを徹底的にやる」。これは私の好きな言い方なのだが、大きなリターンを得る秘訣である。それでは、オリンピックにおける正しい戦略とは何か。端的に言えばメダルが取りやすい競技を見極め、そこに資源を集中して投入するということになる。どの領域が勝てそうかを見極めたら、後は資源をどう投入するかを決める。具体的なリソース投入の戦略である。具体的なリソース投入とは、 モノ、ヒト、カネの3分野のことである。
10.多数決は不毛であるーiPS細胞の方程式
イノベーションは少数意見から生まれる。私自身、エンジェル投資家として様々な企業に投資してきているが、絶対やめといた方がいいと言われたテーマのリターンがよく、これは堅いのではないかというものに限って、リターンは今一つだったりする。3人寄れば文殊の知恵ということわざのあるように、多くの人が知恵を出した方がより良い結果をもたらしても不思議はないのに、なぜこのようなことが起きるのか。それはイノベーション、さらに言えば、資本主義というものは、少数意見が既存の多数意見を打ち破り、新しい多数意見に変わっていくプロセスにおいて、最も大きな価値が生じるからである。全員が良いと思う考えは、多くの人が殺到するのでかえって、過当 競争になり、勝者は誰もいない戦いになる。むしろ、ほとんどの人が注目していない、誰もいない領域を自ら開拓したものに、多くの報酬を与えるのが 市場メカニズムである。
11.人脈とは「外部の脳」であるートップマネジメントの方程式
トップマネジメントは、広範で多様な知識や能力を持つジェネラリストでなければならない。様々な利害関係、情報を総合して判断するのが仕事であるから、特定の専門知識を持っているだけでは、堪えることはできない。しかし、個人として様々な知識を蓄えることよりも、様々な知識を持つ他の人に、どうアクセスできるかの方が、より現実に必要なものとなってくる。各分野の先端的な知識を、個人で完全にアップデートするのは困難である。トップマネジメントともなれば、自らの学習に避ける時間は限られている。一方で、各分野の専門家を自分のチームに顧問として参加させることは、比較的容易である。
また、考え方が対立する人材を取り込み、双方の視点を取り入れた上で、それらを統合し、最終決断をするのもトップマネジメントの重要な役割だ。とかく、トップは自分に賛同する人材で部下を固めがちだが、実は異見を取り入れることが、質の良い意思決定を生むのである。
トップマネジメントにとっての教養とは、どのような知識を持っているか以上に、どのような人材と、どのような関係を構築しているか、その多様性、広がりと深さに置き換わることになる。そしてこの話は、組織学習とトップマネジメントにとどまらず、1個人についても全く同じように当てはまる。
1個人といえども、その個人を中心としたバーチャルな組織のトップマネジメントであり、どのような人材と、どのような関係を構築して、どのような知識を活用できるかが重要になってくる。言い換えれば、脳の中で複数の知識が関係づけられるように、人的ネットワークの中で、複数の知識が関係づけられれば、それがそのままその人の、「外部の脳」ということになる。つまり、教養として知識を学ぶことと、同様の努力を持って、多様な人的ネットワークを構築することが、個人の教養を深める方法として、有益という結論になる。現代においては、書籍なので学ぶ知識だけでなく、教養としての人脈の重要性が増しているのである。
12.アナロジーから予測を立てるー北海道の方程式
「どうしたら未来を予測できるのか」というのは、私がいつも考えているテーマである。世界はどのように変化し、何が求められるようになるのか。これがわかれば投資やビジネスは途端に簡単になる。ここでは、私の予測方法と考え方をご紹介したい。
未来を予測する方法として、今、最も注目されている手法は、俗にビッグデータと呼ばれるものだ。大量のデータをもとに、統計的な手段を使って未来を予測するものである。しかし、私が必要とする未来予測は、このような手法にはなじまない。それでは、どのようにして未来を予測するのかというと、 ビッグデータとは真逆の方法を利用する。つまり、他のやや極端なケースを観察して、その特徴をヒントに、未来を予測するという類推(アナロジー)を活用したものだ。アナロジーの元になるのは、過去の歴史だったり、他の国の事例だったり、全く違う分野で起きたことだったりする。
例えば夕張市の財政破綻やJR北海道の経営危機を参考にしてみよう。地方都市の人口減少で地方公共セクターの負担が過剰になることも、都市圏への人口移動で鉄道の稼働率が低下することも、さらに言えば社会インフラの稼働率が低下して、メンテナンス投資が経済的に成り立たなくなることも、これから日本全体でほぼ確実に起こる。これが北海道の一部だけで起きている現象であれば、日本全体で支えられる可能性はあるが、全国で一斉に起こるのであれば、全く違う方策を取らなければならなくなるだろう。すでに他のエリアでも起きていることだが、郊外から県庁所在地へ、県庁所在地からより 大都市圏へと人工集中が進むメカニズムは、子供の世代が、大学進学や就職などで都市圏に流出することから始まる。その後、高齢化した両親が介護の必要性から、子供の住んでいる都心ないし、郊外の介護施設等に移転するという流れである。これも、今後日本全国で加速度的に起こるだろう。
ここで紹介したのは、ほんの一例だが、このように日本の将来像やビジネスモデルを考えるヒントは、様々なところにたくさん転がっていて、そこからの類推でいくらでも未来に関する仮説を作り出すことができるのだ。
Ⅳ.情報に潜む「企み」を見抜け
13.ネットの炎上は必然であるーネットビジネスの方程式
なぜネット上では「炎上」が起こるのだろうか。
1つには、ネットメディアは、大小問わず個人が書いたものがそのまま発信される形態が多いので、スクリーニングのプロセスが弱いという点である。スクリーニングというのは、なるべく情報の精度を高めるための作業である。ネット以前の既存メディアの場合 、個人が勝手に情報を発信することはできず、裏を取る、参考文献を確かめる、誤字脱字をチェックする等々のプロセスを、制作担当者や編集者、校閲担当者が行ってきた。ネットには、このプロセスが存在しないので、基本的な事実誤認、法的に問題を引き起こしかねない名誉毀損や中傷、著作権侵害などがそのまま発信されてしまう。
しかし、これだけではネットの炎上を説明することはできない。ネット上では、本来まともな主張を書ける人が炎上することを書いてしまったり、元々まともなことを書いていた人が、時間の経過によって、どんどん炎上を誘うようなことを書くようになったりしている。この事実の説明がつかないからだ。むしろネットにおいて炎上は、意図的に起こされてすらいるのではないか。その理由は、インターネットメディアの事業構造、ビジネスモデルによるものではないかと考えている。
インターネットのビジネスモデルは大きく分けて2つある。1つは誰でも見られるフリーのサイトを作り、そのPV数に比例する広告収入である。もう1つは、契約者からの課金によって収入を得る有料課金モデルである。まず、前者の広告モデルについて言えば、関心を集めるほど売上が増える構造になっているので、主張が極端で反論する人が多ければ多いほどいいということになる。みんなが賛成するような普通の意見は埋もれてしまいがちだが、極端に許せないような挑発的な意見ほど、これはひどいと言った形で批判を呼びかける意見が多く発生するからだ。結果的にページの閲覧数が増え、売上が伸びるのである。もし、これが新聞や雑誌であれば、読者から編集部に批判が届き、購読者の減少につながるので、売上は立たなくなるだろう。ところが、インターネットにおいては、これはひどいと批判されること自体が 閲覧数を増やし、広告収入を増大させるという構造になっている。つまりネットにおける発信者は、閲覧数を増やすことを基準に執筆をするので、より 炎上しやすい、極端で質の低い情報発信を行うことにインセンティブを持つようになるというわけである。
ネットリテラシーを上げ、自分の取る情報の取捨選択の精度を上げることが、今後は必要不可欠な能力になる。
14.不都合な情報を重視するー新聞誤報の方程式
新聞などメディアの取材は、結論ありきの物が多い。ネットメディアが多数出現したことにより、各ネットメディアが、PVを伸ばすために、見出しで「釣る」という戦略を取ることが多くなったからだ。この見出し主義のPV競争は、新聞メディアにもフィードバックされていっている。新聞メディアは、ネット媒体との競争で、質の低い記事や噂レベルの情報に振り回されることが増えていくだろう。
そのため、読み手は記事の検証に対して、反対の考え方を確認するという自衛策をとることが重要になる。
15.若者とは仲間になるーデジタルデバイスの方程式
ほんの十数年前まで、携帯電話が普及したら「いつ連絡が入ってくるかわからないので携帯電話は持ちたくない」という考え方をする人が結構いた。現在はむしろ、通話やメールだけでなくFacebookやLINEに代表されるメッセンジャー系のサービスを複数使い、常に繋がっていることが当たり前になり「スマホを忘れると繋がれない、連絡が取れない、情報が得られないから不安である」というような価値観が支配するようになった。
古いバラダイムが新しいパラダイムに大きく変わるとき、両者のパラダイム では前提にしている認識や枠組みがあまりにも違うために、古いパラダイムを知らない人間の方に有利に働くことがある。つまり、新しい人たち若い人たちの方が、新しいパラダイムに早く習熟し、その中で次の展開の中心を担っていくということだ。
16.教養とはパスポートであるーリベラルアーツの方程式
・現代は情報をなるべく制限し、自分に都合のいい情報だけを吸収する風潮にある
・自分とは違う立場の考え方がありうる、と知ることで狭い社会認識から脱却できる
・社会の繋がりを再構築するには、普遍的な価値、教養を手に入れる必要がある
・多くのイノベーションは、他の異なる考え方を組み合わせることによって生まれる。そうなるとイノベーションを起こすためには、自分の知らない思考様式、学問体系、先端的な知識になる
以上の点を踏まえ、何が「教養」なのか。
極端に言えば、「自分とは異なる思想」全てが教養ということになる。
Ⅴ.人間の「価値」は教育で決まる
17.優秀な人材を大学で作るー部活の方程式
グーグルもアップルもマッキンゼーも一流大学の成績優秀者を好んで採用する。それは、必ずしもそこで身につけた知識、専門性を評価しているとは限らず、学問を学ぶことを通じて身につけた、論理的かつ体系的な思考力、視点の多様性、文章を中心とするコミュニケーション能力などを評価しているのだ。
18.エリート教育で差別化を図るー東京大学の方程式
大学は社会の状況に合わせて戦略的に差別化し、競争していくべき。
イノベーションを生むには「実学」だけでは不十分であり、多様な分野の「独自性」と「ネットワーク」を両立させなければならない。
大学のプロジェクトにも、適切な戦略目標と説明責任をもつべき。
19.コミュニティの文化を意識化するー部活動の方程式
部活が、当人が意識しないままに、その後の人生を左右することは意外に多い。
人は社会に出てから所属した会社、業界、組織の暗黙のルールを知らないうちに身につけている。
自らの属している「部活」の特徴、ルールを意識し、その変化に敏感であるべき。
20.頭の良さをスクリーニングするー英語入試の方程式
東大入試は記憶力やある種の自頭力だけではなく、高速な論理操作や判断推理の力が求められる。
現在の大学入試は、大学教育を受ける前提能力を図れない。
英語入試によって、論理的思考力や判断推理力がある程度測定できる。
21.入試で人間力を養うーAO入試の方程式
2014年末、大学入試改革に関する答申が中央教育審議会によってなされた。これによって、今後の大学教育、中等教育に大きな影響があるだろう。入試によって教育が大きく変わると言うと、違和感を持つ読者が多いかと思われるが、実は入試制度の設計は大きな影響力を持つ。本末転倒に思われるかもしれないが、高校進学の少なからぬ目的は大学進学にある。大学への進学、実績によって、高校のパフォーマンスが測定され、それが中学生の高校選択に大きく影響を与える。つまり、大学入試政策こそ、高校教育を大きく変えるレバーなのだ。
英語教育を例に考えてみよう。英語教育で、読解・文法だけでなく、会話等の実用性も重視すべきだという政策を掲げても、高校教育がその政策通りに変わる保証はない。ところが、センター試験に英語のリスニングを導入すれば、学校教育はもとより、参考書、受験産業に至るまで様々なリスニング対策教育を準備する結果、教育方法が進化し教育、成果も上がるだろう。
Ⅵ.政治は社会を動かす「ゲーム」だ
22.勝ち組の街を「足」が選ぶー地方創生の方程式
金融政策や規制緩和によって経済成長がもたされたとしても、それは「全体」が良くなるのであって、必ずしも「全員」が良くなるわけではない。そもそも、資本主義は資源配分の効率を高めることで「全体」のパイの拡大に最適化されているが、そのプロセスで「全員」がうまくいくわけではない。むしろ、優勝劣敗によって、システムを新陳代謝させて「全体」の効率を高める仕組みだ。だからこそ、資本主義下では、規制緩和によって市場競争を行い、勝ち組と負け組の格差を拡大させるとともに、一方で財政を通じて所得再分配を行い、敗者に対するセーフティネットを準備するのである。
ここで敗者として保護されるべきは、あくまでも個人であって、企業ではない。淘汰される企業は、社会に必要とされるものを、必要とされているコストで提供できていない企業であるから、社会的資源を無駄にしているのであり、これを保護するのは社会的に有害である。この視点からすると、いわゆるブラック企業についても、同じような議論が可能である。低賃金労働でコストを抑え、低価格で勝負してきたいわゆるブラック企業が、人手不足で経営危機に陥り始めている。こうした企業はその労働環境や離職率ばかりに注目が集まるが、根本的には労働者の処遇を改善する原資になるだけの付加価値を生んでいないこと、値上げをしたら消費者が選ばないような商品を提供していることに問題がある。消費者がどこから商品を買うのも、労働者がどこで働くのも根本的には自由競争であり、それぞれの市場で相対的に劣位で選ばれない企業を保護する必要はない。むしろ、消費者や労働者が他の選択肢を選ぶことを推進するべきだということになるだろう。
各地方自治体も当該地域を経営してサービスを提供しており、そのサービスを巡って自治体同士が競争をしていると考えるべきだ。そして勝ち組と負け組に自治体が分かれ、負け組の自治体が淘汰されることは十分予想されることである。本来必要な地方創生は、全ての自治体をむりやり生き残らせようとして全体を沈めるのではなく、自治体同士の競争を促し、住民の移動という足による投票によって、強い自治体への統合を目指した方が良いということになるだろう。
23.マーケティングで政治を捉えるー選挙戦の方程式
選挙は消費財マーケティングに近いと考えることは、選挙戦略をより効果的にするヒントとなるだけでなく、その問題点や法政策上の可能性をも導き出すことが出来る、重要な視座だと考えている。
現代の日本において政策で差別化するのは困難である。したがって各党はニッチな政策かブランドイメージで差別化を図るしかない。
24.身近な代理人を利用するー地方政治の方程式
組織に無能な人があふれるパラドックス。ローレンス・J・ピーターが主張した組織労働の法則で、「ある職階の中で、成績の良いものが上位の職階に上がり、成績が悪いものはその職階に留まる」というものがある。端的に言えば「全ての人は、その人が無能と判断される職階まで昇進し、そこに長くとどまる」、すなわり「昇進を続けてやがて無能になる」という状況が生まれるのだ。たとえばベテラン課長は係長として有能だったが、課長としては無能で部長になれなかった人ということになる。ということは、そもそもこの人は課長にすべきではなかった。合理的な判断として、適材適所を目指すのならば、彼は係長に降格させたほうがいいということになる。一見、組織において合理的な実力主義を採用しても、昇進のルールだけを採用し、降格・退職といった「下げる」ためのルールがなければ、無能な人ばかりが各ポストに配置されるパラドックスが起きてしまうのだ。
Ⅶ.「戦略」を持てない日本人のために
まとめ
・「戦略で勝つ」とは、横一列の競争をせず、他とは違うアプローチを模索すること
・日本の組織の多くは、意思決定能力の低い人が上に立つ構造になっている
・理論や手法を学ぶだけでなく「実戦」の場を何度も経験することが重要
・日常的に身の回りのことを「戦略的思考」で分析する習慣を身につけよう