【絶対にハズレのない小説家いますか?】
書名:「冬の鷹」 作者:吉村昭
かつて、本の虫というか、「本の獣」と言うべき、
博覧強記すぎてちょっと頭おかしい先輩がいて、
その人に、「絶対にハズレのない小説家いますか?」という無茶な質問をしたところ、
吉村昭と帚木蓬生、この2名の作家の名を挙げられた。
「この二人の本をいくつか読んでみて、一つも面白い作品が無いと感じたら、もう小説を読まない方が良いよ。きっと薄っぺらい無意味な読書しかできないだろから」
という怖い一言とともに。
結果、吉村昭の作品の方が好みに合ってハマり、その中で唯一、
本棚で発見できたのがこの一冊。
うちの本棚からは、定期的に本が神隠しにあうので、
おそらく残りはもう戻ってこないんだろうなぁ。
(我が家の本棚から本をお隠しになっている「神」の招待は予想がついてるけど、おそろしい祟りがある可能性があるので、歯向かうことはしません(笑))
突然ですが、クイズです。
Q:解体新書(ターヘル・アナトミア)を翻訳して日本に広めた人と言えば?
A:杉田玄白
正解!
しかし、当時に外国の言葉を訳す、しかも全く未知の医学の分野の分厚い本を訳すのに、たった一人で出来る訳もありません。
この小説は、解体新書(ターヘル・アナトミア)を翻訳することに、
異常なほど清廉潔白な情熱を燃やし、翻訳に力を注いだチームの中で、
最も大きな労力をかけ、最も大きな功績をあげながらも、
歴史の表舞台に立つこと無く、後世に功績を知られること無く消えていった、
前野良沢、という人物を主人公にしています。
先に補足しておくと、杉田玄白が前野良沢の手柄を横取りした、とかでは全然ありません。
それは、「冬の鷹」というタイトルの由来にもなっています。
吉村昭の魅力は、異様なまでに歴史的事実について資料を調べ上げ、その事実を実に淡々と書くことで、逆にとんでもないリアリティを生み出しているところ、
と個人的に思っています。
司馬遼太郎は、歴史的事実を「より面白い、より洗練された物語」にするため、
意図的に情報を取捨選択、あるいは「昇華」している節がある、と感じていますが、
吉村昭は何というか、調べたままの事実を組み立てて書いている、
と感じます。
思うに、引き込まれる小説とは何か?という問に対しての答えは、
涙なくしては語れない感動のストーリー、
よりも、
繊細かつ流麗な超絶技巧の文章力、
よりも、
小説を読んでいたら否が応でも伝わる「説得力」
ではないでしょうか。
この冬の鷹の主人公、実は、僕がメチャクチャ嫌いなタイプの性格をしています。
(性格が悪いのではない。念の為)
しかしそれでも、グイグイ読んでしまう。読み飛ばすことができない。
俳優さんが演じている歴史ドラマを見ているのではなく、
まるで、ホームビデオで撮ったおじいちゃんの昔のビデオテープを見ているかの如く。
ラスト3分の大どんでん返しもない。
こうなるんだろうな、というある意味予想通りに淡々と物語は進み、
そして終わる。
しかし、面白い。小説に魅力が溢れている。
そんな小説です。ぜひぜひ。
【追伸】
吉村昭の小説で一番好きなのは「戦艦武蔵」です。こちらもぜひ!
(超有名で未来で宇宙にまで行った戦艦大和じゃないよ)
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