わたしの本棚111夜~「小説8050」
ママ友さんに「面白かったよ」と言われて、借りて読んだら、本当にノンストップの面白さでした。ページをめくる手がとまらない本であり、睡眠時間を削って読みました。あとがきによると、「週刊新潮」に連載したものであり、新潮社内に編集者さんたちと「チーム8050」をつくり、2年間伴走したとあります。NHKの朝イチに出演されたときには、実際の農水事務次官殺人事件からヒントを得たと言われてました。
引きこもりの50歳台の子どもが80歳台の親の年金を頼って生きていく現実は社会問題になりつつある8050問題。引きこもり100万人時代に生きるすべての日本人に捧ぐ、絶望と再生の物語、と帯にあるように、圧倒的リアリテイーで家族の日常の闇に迫る問題作でした。
☆小説8050 林真理子著 新潮社 1800円+税
1.登場人物
大澤正樹(父) 都内で父から受け継いだ歯科医院を営む50代。歯科医院は日に患者10名たらず。息子には医者になってほしいと願った。
大澤節子(母) 女子大卒業後、自動車メーカー勤務して、正樹と結婚後は専業主婦。美しく従順だったが、翔太の子育てを非難されたことから自立に目覚める。
大澤翔太(息子)有名中学校に進学するも、中学2年生からいじめが原因で不登校、7年間引きこもりに。
大澤由衣(姉) 早稲田卒業後、損保会社で企画部。「弟のせいで結婚できない」と心配する。野口という好青年の婚約者がいる。
2.いじめについて
中学時代のいじめが原因で、何年間も引きこもるというのは、本当に辛い体験だと思います。ふざけていただけ、加害者はそういいます。気づかなかった、ともいいます。たいしたことない、とも。学校側は、いじめはなかったと繰り返し、個人情報などをたてに真実を話しません。娘の結婚を前にして、正樹は、翔太の引きこもりの原因に真摯に向き合い、同級生への復讐、裁判を決意します。ここからのお父さん、正樹のがんばりには涙でした。
いじめの原因が、翔太は学校で昼食後、親の指導で歯磨きをしており、その歯磨きセットのキャラターをからかわれたことから、というもの。現実でも、女子のいじめが、可愛いからなどの嫉妬や妬みからくるものが大半である一方、男子は些細なことからだそうです。そして、男子の場合、時として被害者が加害者にもなるという。本の中でも、翔太もいじめる側にまわって、藤田くんという同級生を痛めつけた事実が出てきます。
「七年前のことでも裁判は可能です」熱血漢あふれる高井弁護士と一緒に、正樹がかつての息子の同級生や学校関係者に証言を得ていく姿。ラストの法廷シーンとともに圧巻で、怒涛の展開で疾走感あふれます。高井弁護士の言葉が印象的でした。「加害者は目を閉じればイヤなことを忘れられます。だけど被害者は違う。ずっとそのことばかり考え自分を問い糺していく。いわば賢人となっていく」
3.家族の物語
8050への警鐘をあらわす社会派小説である一方、この小説は家族の物語でもあります。正樹と節子は何度も衝突し、別居に至ります。正樹が時として、自分を責めながらも、翔太や由衣の幸せを願うために奔走する姿は、家族の在り方の一端を示した姿でもありました。
「子どもを信じて、お前を守ってやれるのは世界中でお父さんとお母さんなんだと言い続けてください。(中略)裁判はお金も時間もかかりました。ですが、真実はわかったんです。息子は自分が悪いわけではなかったと確信を得ました。私たち親子にはそれで充分だったんです」
正樹のがんばりに、翔太も傷を負いながらも自殺未遂をしながらも、家族に心を開いていきます。そして、翔太自身が、8050問題と向き合い、高井弁護士から借りた8050問題の本を読んで、「結婚も就職もできぬまま50代になった子どもが、80代の親の年金を頼って生きていく事実に、オレは絶対にそうはならないよ。あと30年ある。きっとどうにかするよ」と車椅子生活ながら、未来を語るようになります。弟を疎んじてた由衣は、衆議院選挙に立候補し、いじめのない生活をと公約を掲げて、彼女らしいやり方で家族を支え、生きていこうとします。
引きこもりに対する家族それぞれのいろんな観方、考え方を提示し、世間体ということも考慮にいれながら、それでも家族としてどうあるべきか、の一端を示した作品でした。社会派問題を加味しながら、強烈な写実描写、圧倒的な筆力で描ききった家族の物語でした。
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