わたしの本棚136夜~「哲学の蝿」
衝撃の本でした。ここまで書くか、といった人間の闇の部分を丁寧に考察し、本を読むことで、哲学書を読むことによって、人間を知ることによって、作者が寛解してきたものを追体験したような感覚が残る自伝的エッセイでした。一昨年、白石一文氏の小説「君がいないと小説は書けない」を読んだときにも赤裸々な自伝的な告白にびっくりしましたが、エッセイの形態をとっている分、この本の自伝部分はより強烈でした。
☆哲学の蝿 吉村萬壱著 創元社 2200円(税込み)
元看護婦さんで、日本舞踊をされて、専業主婦だった母親の影響が強く、その体罰の恐怖から、友人のO君をいじめて泣かしていたという小学校時代の話から、ことあるごとに母親の抑圧に苦しむ主人公。中学、高校、大学になり、友人たちの影響もあり、哲学書やオカルト書に親しみます。
偶然なのですが、わたしのママ友のKさんが吉村氏と同じ高校の同級生であり、氏は彼女の憧れだったそうで、高校時代は好青年だったそうです。
そんな片鱗はなく、書かれているのは、苦悩の日々や浪人時代の乱れた生活、バイト、変態への思考など。全編を読んでいて、その読書に裏打ちされた思索をも垣間見れ、読後の重層感は半端ないです。毎年、大阪女性文芸賞の贈呈式に来てくださり、スピーチしてくださる温和な印象から想像つかないです。ここまで書くか、と呟いてしまいそうになりながら、それでも、その深い洞察にうなりながら、読んでしまった、作家魂入魂の本でした。
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