わたしの本棚45夜~「戻り川心中」
学生のころ、連城三紀彦さんの小説に出会って、その流麗な文体と謎解きの多い展開に酔って、感動したことが度々ありました。臆病だったせいもあり、恋に恋するような感じで連城さんの小説は愛読しました。エッセイも面白く、そこにカッコイイ友人として描かれる荒井晴彦さんたち映画人の話とか楽しく読みました。彼ほど、作家仲間から尊敬され愛された作家も少ないのでは。65歳で亡くなったせいもあり、偲ぶ会はもちろん、綾辻行人、伊坂幸太郎、小野不由美が発起人となり、レジエンド集が発行されたり、いろんな方が才能を賞賛しました。時に天才と称されましたが、晩年は出家して郷里の愛知にこもり、これだけ恋愛小説書いているのに、生涯独身でした。
☆「戻り川心中」連城三紀彦著 光文社文庫 586円(税込み)
大正歌壇の寵児・苑田岳葉。二度の心中未遂事件で、二人の女を死に迫いやり、その情死行を歌に遺して自害した天才歌人の話です。岳葉は女性を愛していたのだろうか。歌に秘められた男の野望と道連れにされた女の哀れを描く表題作は、日本推理作家協会賞受賞作です。耽美で流麗な美しい文体と詩情あふれる物語です。直木賞受賞作「恋文」などもよかったですが、わたしは初期のこの作品の美しさには、今でも感嘆しています。