わたしの本棚156夜~「シュンペーター」
タイムリーな1冊です。コロナ禍後の世の中を考えるとき、地方のいち主婦にすぎないわたしにも、わかりやすく経済を、閉塞感を打ち壊すイノベーションの考えを解説してくれました。シュンペーターをほとんど知らなかったわたしは、資本主義の先を予言した1883年生まれの彼の言動を、時に詠嘆しながら読み進めました。経済学は、高校生の時の公民、大学の教養課程でほんの少しかじった程度だったので、学び直した感じで、重厚感あふれる内容に圧倒されました。
3部構成からなります。著者は、京都先端科学大学ビジネススクール教授であり、シュンペーター及びイノベーションを主として研究されている名和高司氏です。
☆「シュンペーター」 名和高司著 日経BP 1900円+税
第1部 シュンペーターは何者?
経済学の偉人は4人いるそうです。アダム・スミス、カールマルクス、ジョン・メナードケインズそして、シュンペーター。(p50)シュンペーターの生まれた1883年は、マルクスが亡くなり、ケインズが生まれた年です。オーストリア・ハンガリー帝国(現在のチエコ)に生まれ1950年に没。画像で観るシュンペーターは鋭利な感じのする学者さんです。(右は著者の名和高司氏・ダイヤモンドオンラインから借りました)
シュンペーターの思想を今学ぶのは、デジタルを利己的な資本主義の延命に利用するのではなく、社会価値と経済価値を高い次元で両立させるためだそうです。資本主義の先には社会主義がやってくるという予見から、利他的なことにイノベーションの力を注ぎ、限界を突破しようとします。流行りの「SDGs」は儲からない欠点をあげ、成長の限界を突破するには、イノベーションの考えを提示します。
第2部 イノベーションとは何か
イノベーションとは、シュンペーターの思想の根幹です。早い話は「自らの手に未来を創ること」ですが、これまで組み合わせたことのないものを組み合わせて新たな価値を生み出すこと、が良いとも語っています。「新統合=知×知」異質な才能がワンチームとなって初めて新統合が生まる。この考えは、「具体と抽象」(細谷功著、dzero社)を彷彿させました。なるだけ、遠いものどうしが反応した方がいいという。明らかな波動を起こせるという。余談ですが、俳句の取り合わせでも、近いものより遠いもの、意外性があるものどうしの掛け合いで優れた作品ができます。
シュンペーターは、イノベーションを起こせる人をアンドプレナーと名付けました。特徴は行動する人です。名和氏は、現代のアンドプレナーとして、世界ではステイーブ・ジョブズ、ジエフ・べゾス、イーロン・マスク氏をあげています。日本では、日本電産の永守重信氏、ファーストテイリングの柳井正氏、ソフトバンクの孫正義氏を挙げています。
11月に日本でも経済産業省が、Rapidus株式会社の創設を発表しました。
次世代の半導体開発に出資しあって、8社で研究し、世界に対抗するそうです。キオクシア、ソニー、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、日本電気、NTT、三菱UFJ銀行。うまく行くとこれもまたイノベーションになるのではないでしょうか。本を読みながら、考えてしまいました。
第3部 資本主義の先を見る
資本主義の成熟化→企業に魅力がなくなる→人間が疎外され、「競争」が足かせになる→社会保障、平等、規制などを求める動向→社会主義化→進化した社会主義
シュンペーターの唱える社会主義はマルクスの唱えるものとは違います。資本主義の成熟化によって、資本主義は内部から崩壊いくので、革命が必要ないからです。
先のアメリカ大統領予備選で、民主党のサンダース議員が社会保障政策充実を訴えていたことを思いだしました。そして、意外でしたが、彼は若者に支持されたこと。2018年に実施されたギャラップ社の調査では、18歳から29歳のアメリカ人の過半数が社会主義に賛同していると事実。ただ、この場合の社会主義は修正社会主義であり、資本主義の成熟が始まった社会では、北欧型の社会主義化が忍びよることと符合していると思いました。
巻末には、もしシュンペーターが現代日本にあらわれたら、として、岸田政権の「新しい資本主義実現会議」をのぞいてみましょう、として考察されています。GAFA帝国は10年以内に崩壊するでしょう、と大胆な予測も。
終わりに、感想
読書の秋2022の推薦図書で、この本「シュンペーター」を知りました。普段の生活では、あまり読まない類の本なので、この機会に読めてよかったです。コロナ禍、仕事がなくなったり、貯蓄の金利が低いからと投資を研究している友人やママ友さんの話を聞くこともあり、経済というものが少し身近にも感じられました。そして、経済学というと、統計や論理的なことが必要となり文系の中の理系(逆に医学などは膨大な暗記が必要なこともあり、理系の中の文系)と思って難しそうと身構えていたのですが、この本は、一人の経済学者に焦点をあてたので、歴史もわかり、読み物としても面白かったです。加えて、マスク氏、永守氏、孫氏、柳井氏のように、日常の新聞紙面に出てくる経営者も頻出し、今の課題も知りました。コロナ禍後の世界経済を考えるタイムリーな1冊でした。
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