わたしの本棚84夜~「見るレッスン」映画史特別講義
「スクリーンと向き合う孤独から確信は生まれる」と見開きに名言があります。そして、帯とカバーにあるように、「映画は自分の好きなものを、他人の視点など気にせず自由に見ればいい。ただし、優れた映画には必ずハッとする瞬間があり、それを逃してはならない」という言葉に尽きます。映画の批評は感想とは違って、映像をつくる人はまず批評できなければいけないともあり、かなり辛辣にいろんな人を評されています。
☆「見るレッスン 映画史特別講義」蓮實重彦著 光文社新書1107 820円+税
面白かったです。つぶやきのような感じの、堅苦しくない口調で書かれているので、スラスラと読めました。そして、ところどころの毒舌にここまでいうか、と笑いそうになりました。最近の作品に関するところでは、観た作品が多く、また好みが少し偏っているかな、とも思いました。
現代ハリウッドでのイチオシは、デヴイット・ロウリー監督だという。ロバート・レッドフォードの「さらば愛しきアウトロー」を絶賛。わたしも鑑賞しましたが、批評する域にまで達せず、「物語をたどることではなく、そのつど被写体がどのようなカメラに収まっているかを確かめること」という観方はできなかったです。物語としても、この作品、面白かったです。
現代の日本人監督では、濱口良介監督「寝ても冷めても」、三宅唱監督「きみの鳥はうたえる」を繰り返し絶賛。どちらも好きな作品でしたが、「映画は時間との闘いです。(以下、略)」との考察、どうショットにおさめようかとの技術論的な観方はできておらず、こちらも物語として面白かった作品でした。山戸結希、蜷川実花両監督に辛口です。
そもそも映画はドキュメンタリーとして生まれた、と持論を展開し、最近の女性監督、小森はるか、小田香監督をもちあげます。わたしは、残念ながらどちらの監督の作品も観てないので(あまりドキュメンタリー作品を観てないこともあり)、わかりづらく、今度、観ようと思いました。
わたしが好きな深田晃司監督に関しては、キャメラワークは素晴らしいし、女優さんの演技や存在感も良い。ただ、「心」の問題に帰着し、感情表現になってしまい、「もうそろそろ心のお話はやめにして運動でとりませんか」と提案されています。そして、「淵が立つ」は好きになれないけれど、皆さんはまともに見てほしい、と。また、今の日本映画界に、純粋な美形な女優さんがいないと嘆かれます。筒井真理子さんは、演技は上手いが美形ではなく、小松菜奈さん、多部未華子さんも美形ではなし、辛うじて中谷美紀さんが美形であると。韓国映画には、存在だけで美しい女優さんがいると。
こんな調子で、最近の映画から、ヌーベル・バーグとは何だったかの考察、映画の裏方たちと映画史を簡潔に綴っていきます。東京映画祭の問題点、映画は90分で良いという案、映画に物語性は必要ないという意見、溝口監督をはじめ名匠の存在しないプリントを探せなど、面白く書かれています。また、ロメールがベッケルの「モンパルナスの灯」より中平康の「狂った果実」を評価したことから、「ロメールは、わたくしの殺人リストの上位にマークされる人物でした」という書き方に思わず笑ってしまいました。
そして、新書の根底に流れるのは、現在83歳という作者の映画に対する深い愛情であり、読んでいて、毒舌に笑いながらも、あの映画も観たい、これも観たいと思ってしまいました。