現代社会を活写しながら、人間の多面性を問う~「傲慢と善良」
かなこさん企画の本、読了しました。
ヘビーで、面白かったです。2022年に文庫化されてから、重版を重ねて、只今、22刷のロングセラー。若い世代に話題の本で気になっていました。丁寧すぎるぐらい丁寧に心理描写が描かれ、読後ずっしりと人間の怖さ、面白さ、愛しさを感じました。文庫本には、朝井リョウ氏の見事な解説付きでした。
☆傲慢と善良 辻村深月氏 朝日文庫 810円+税
☆主な登場人物
主人公は西沢架(39歳)。 広告代理店勤務後、父親の急死で実家のクラフトビール会社を継ぎ社長。恋愛経験豊富で女友だちも多い彼だが、恋人にふられたこともあり、マッチングアプリで婚活し、真実に会う。
坂庭真実(35歳)。西沢架の婚約者。前橋の公務員の家庭で育ち、香和女子高校から併設の大学に行き、県庁の臨時職員として働いたのち、2回のお見合いをして、東京に上京する。
☆あらすじ
ストーカー被害を訴えていた真実が、架と婚約し、職場のお別れ会のあと、忽然と姿を消してしまいます。彼女を捜すうちに、彼女の「過去」と向き合うことになった架は、現代社会の生きづらさ、を痛感します。当初、善良な女性と思われていた真実の過去が暴かれるにつれ、架自身は、恋愛を通して人間というものに真剣に向き合うようになっていきます。
☆感想
朝井リョウ氏が解説で書かれているのですが、当初、架→傲慢、真実→善良だった図式が、架が探偵役となって真実の過去を調べるうちに反転していきます。親の言うことを聞き、善良だと思われた真実が実は選ぶことをしない人生であったこと、そして、自分の価値を高めるために相手を求めていたこと。真実の両親、結婚相談所の小野里さん、真実の姉、真実がお見合いした二人の男性、真実の県庁時代の友人恵、中学校の同級生泉、などとの出会い、証言によって。その暴かれ方が鮮やかというか、凄いなあ、と。作者辻村さんはテレビ番組「ぼくらの時代」で、書くときには黒辻村と白辻村がいると言っていました。
一方で、当初、勝ち組と言われた架は、真実になかなかプロポーズしない傲慢さもあったのですが、純粋に真実を心配し、彼女を愛するようになります。
傲慢と善良は、表裏だったことを感じました。また、謙虚は自己愛の表れだという指摘にも、そういう観方もできるのか、怖いなあ、と。
余談になりますが、萩原健太郎監督の映画「傲慢と善良」は、原作と別物のような感じがしました。映画の方は、恋愛映画の王道のような感じで、真実を演じた奈緒さんのイメージもあるのでしょうが、原作のしたたかな真実が健気に描かれていました。自分のついた嘘を反省もするし、2時間でおさめる手前、セリフでの説明では説明不足な所があって、毒がないというか印象が全く別の感じでした。これはこれで、架役の藤ヶ谷太輔氏の好演もあって(原作のイメージぴったり)、恋愛の王道として爽やかで面白かったです。映画を観てから、したたかと健気も観方によって表裏かも、と思いました。
この本に関しては、かなこさんが素敵なレビューをすでに書いています。かなこさんとは、読む本がよく重なります。わたしは、図書館で借りることも多いせいか、時間差が生じてしまうこともあるけれど、読みたいなあ、と思っている本をすでに読んで、素晴らしいレビューを描かれ、読むことを後押しをしてくれることがよくあります。
今回、街の本屋さん応援という素敵な企画をたててくれました。迷わず手にとったこの本。読み応えありました。ありがとうございました。
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