大山(丹沢):ヤビツ峠・イタツミ尾根から七沢温泉 ♣マイナー登山道を往く♣(0007)
相模湾の好展望に恵まれた丹沢・大山の山頂へ至るルートです。蓑毛からヤビツ峠へ出て、さらにイタツミ尾根を上がり、帰りは日向薬師を経て七沢温泉に立ち寄ります。
(本記事/ 文字数:約7900字、読了:約16分)
<趣意>
あまりメジャーではないマイナーな登山道。ちょっと気になってはいたもののなかなか行く機会のなかった山道を歩いてみました。
<概要>
大山 (おおやま)
神奈川県伊勢原市・厚木市
神奈川県・丹沢山地の一座。標高は約1252m。
降雨祈願で有名な阿夫利神社の本宮が中腹にあり、山頂には奥宮がある。
日本三百名山。花の百名山(ウラシマソウ)。
<大山・イタツミ尾根の魅力>
第1に、好展望のルートであることだと思います。
大山登山でもっともメジャーな阿夫利神社下社からの表参道の場合、山頂までは両脇がほぼ樹木に囲まれているところが多いため、一部の展望スポット以外はあまり景色に恵まれせん。
一方、ヤビツ峠からのイタツミ尾根の場合、ルート上は比較的背丈の低い木々なので丹沢西側や富士山そして相模湾(江ノ島など)の光景を望めるスポットが多いです。
第2に、歴史のある寺院や史跡等の歴史・文化スポットも点在しています。
「日本三薬師」のひとつにも挙げられることのある関東有数の古寺「日向薬師」、壬申の乱から東へ逃れたとの伝承をもつ「大友皇子の墓」など歴史好きの好奇心がくすぐられるポイントもあります。
<登山コース>
※標準的タイムによる目安(休憩含まず)
「蓑毛」バス停から出発です。バス停そばの道標にあるとおり沢の流れに沿って「ヤビツ峠」へ向かいます。お茶屋さんの前を通り過ぎると、ヤビツ峠と下社(阿夫利神社)への分岐になります(「千元院」というお寺があります)。ヤビツ峠方面へ向かいます。
なお、下社へ向かう道は「裏参道」とも呼ばれており、大山中腹にある「阿夫利神社下社」に繋がっています(さらに途中で分岐して下社から山頂上社への道にも合流します)。
ヤビツ峠へは沢沿いの簡易舗装された林道(柏木林道)を進みます。沢を木橋で渡りますが、そのたもとに湧水(?)があります(湧水なのか単なる排水口なのか確証なし…)。
沢を渡ると次第に山道となっていきます。途中で視界が開けて相模湾と江ノ島が見えました。この眺望ポイントまで来ると、もうすぐヤビツ峠になります。
「ヤビツ峠レストハウス」に到着です。レストハウスは近年オープンしたばかりで新しくキレイな内装です。軽食や物販も比較的充実しています。
レストハウスから一段下ったところに「ヤビツ峠」のバスロータリーとトイレがあります。またロータリーの向かいには昔からの「ヤビツ峠売店」もあります。売店は丹沢の写真や独自の物販もあります。
ヤビツ峠からいよいよイタツミ尾根を上がって大山山頂へ向かいます。
ふたたびレストハウスのある高台に戻り、その脇を通るようにしてイタツミ尾根へ入ります。登り始めてすぐに相模湾が見下ろせるようになります。ちらっと富士山の姿も見えるようになってきます。
イタツミ尾根の大山山頂までの中間地点くらいへ上がってくると、左手に丹沢の西側の山並みが視界に入ってきます。中央のあたりが塔ノ岳に行き着く表尾根、そして右端の3つのピークの連なりが丹沢三峰でしょうか。
さらにその上に天望の良い平場があり、相模湾と富士山のパノラマが広がっています。ここがイタツミ尾根でもっとも魅力のある眺望ポイントかもしれません。
眺望ポイントのすこし上が、大山山頂への表参道との合流地点となります。表参道でも富士山などの眺望がありますが、表参道から登った場合でも時間的・体力的余裕があれば、イタツミ尾根の眺望ポイントへ寄り道してもいいかもしれません。ほんの数分程度の距離になります。
大山山頂に登頂です。
上社の裏手に回れば、横浜市街の光景が前面に大きく広がっています。
山頂は広く、腰を落ち着けるところも十分にありますので、お昼休憩にはもってこいの場所です。
山頂から雷ノ峰尾根を通って見晴台へ下りていきます。
下りの途中では、真鶴半島・伊豆半島の遠望や相模湾・江ノ島の景色を目にすることができます。
見晴台にはベンチとテーブルがいくつかあり、また東屋もあります。
見晴台から右手(西側)へ下っていく道は阿夫利神社下社に繋がっています。今回は道標に「日向薬師」と指示されている九十九曲の道へ東側に下りていきます。この道は「関東ふれあいの道」の一部ともなります。
日向薬師への道は高い杉林が広がっており、表参道と比べると薄暗く、また登山者の数も少ないため静かな山歩きとなります。
最初は普通の山道ですが、次第に、その名の「九十九曲」どおり左右に何度も切り返した道が続きます。切り返しの坂道をひたすら下っていくと、やがて沢の音が聞こえ始め、左手に赤い屋根の建物が見えてきます。登山口はもうすぐそこです。
小さな沢を渡り舗装道路に出ました。ここが九十九曲の登山口になります。
その先は日向川に沿って右手(東側)へ道路を進みます。しばらくすると「クアハウス山小屋」があります。軽食あり、日帰り入浴OKです。
この道沿いにはいくつかの古刹や史跡があります。史跡の一つが「大友皇子の墓」になります。伝承によりますと、壬申の乱で破れた皇子が東のこの地まで逃げ延びたとのことです。
「日向薬師」バス停まで下りてきました。バスに乗れば小田急線「伊勢原」駅まで出ることができます。
今回は、日向薬師に立寄りさらに七沢温泉へ向かいたいと思います。
バス停近くにある古来からの参道から入ります。徒歩で向かう場合はこの参道の方が風情や趣があって個人的に好みです。石段を上がると山門が出てきます。その両脇には朱塗りの仁王様が並んでおります。まるで赤鬼のごとき仁王像がちょっとお気に入りです。
山門をくぐり抜けると、日向薬師の寺林が広がっています。現代を忘れさせてくれるような静かな落ち着いた雰囲気です。
日向薬師は近年、大規模な改修が終了し、たいへんキレイに整備され直しました。
日向薬師の境内を抜けて、駐車場と境内の間の坂道(車道)を上がっていきます。七沢温泉まではおよそ30分程度の車道歩きとなります。
上がりきった先に「亀石」という岩があります。ちょっと車道から外れたところにありますが、「これかなー」という曖昧な感じ…。
やがて下り始めると「七沢温泉」の街並みに入ってきます。
今回はここがゴールです。
[行程表]
「蓑毛」バス停→ ヤビツ峠(80分)→ イタツミ尾根→ 大山・表参道合流地点(60分)→ 大山・山頂(20分)→ 雷ノ峰尾根→ 見晴台(50分)→ 九十九曲→ 日向ふれあい学習センター(50分)→ 「日向薬師」バス停(40分)→ 日向薬師(20分)→ 七沢温泉(30分)→ 「広沢寺温泉入口」バス停(20分)
歩行時間/ 6時間10分程度
標高差/ 900m程度
[アクセス]
●往路
小田急線「秦野」駅から路線バスで「蓑毛」バス停(約25分)または「ヤビツ峠」バス停(約50分)。ヤビツ峠行きのバスは「蓑毛」バス停で途中下車できます。蓑毛行き(終点)のバス便もあります。
●帰路
「広沢寺温泉入口」バス停から路線バスで「本厚木」駅(約30分)または「伊勢原」駅(約25分)。
《補足》
「秦野」駅からヤビツ峠行きのバスの本数は非常に少ないです。
ヤビツ峠行きのバスは、冬季には路面凍結のために運行休止になる場合があります。運行の可否は当日の朝に決まるようです。
七沢温泉にもバス停がありますが、本数が非常に少ないため、すこし歩いて「広沢寺温泉入口」バス停までいけば運行本数が多くなります。
《参考》
小田急線「新宿」駅から「秦野」駅まで快速急行で約65分。
小田急線・特急ロマンスカーで約55分(「秦野」駅に停車する特急は一部に限定されます)。
[国土地理院地図]
[コースマップ]
丹沢・大山安全登山マップ (山と渓谷社)
[登山コースの補足]
イタツミ尾根の登りは大山以西の丹沢山地の山並みがよく見えます。
ヤビツ峠の標高は約760mで大山山頂までの標高差は約500mになります(参考標高:蓑毛バス停/約310m、大山ケーブル下バス停/約310m、阿夫利神社下社/約695m)。
難所や危険個所はほとんどないですが、一部、露岩の道があります。
大山山頂から見晴台までの雷ノ峰尾根は相模湾・江ノ島の眺望があります。
見晴台から日向薬師への道は「九十九曲」とも呼ばれるとおり左右に何重にも切り返しの道になります。
見晴台から九十九曲・日向薬師を経て七沢へ出る道は「関東ふれあいの道」となります。
日向学習センターから日向薬師へ向かう途中に、左へ曲がる「日向薬師」への指標がありますが、この道は自動車用の車道です。徒歩で日向薬師へ向かう場合にはその先の「日向薬師」バス停まで行き、バス停そばにある旧来の参道を使った方がいいかと思われます。
日向薬師から七沢温泉への道は舗装された車道歩きになります。
●水場やトイレなど
登山道場に水場はありません。
トイレは「蓑毛」バス停、ヤビツ峠、大山山頂、「日向薬師」バス停にあります。なお、大山山頂のトイレは冬季閉鎖です。
[難易度・危険箇所など]
とくに大きな難所や危険箇所はほとんどありません。
<こんな方にオススメ>
(1)展望のよいコースを歩きたい
(2)歴史のある神社仏閣が好き
(3)下山後に温泉に立ち寄りたい、ご当地グルメを食べたい。
<補足情報>
[売店等]
小田急線「秦野」駅周辺にはコンビニや商店複数あります。
ヤビツ峠には売店とレストハウスがあります。
「ヤビツ峠レストハウス」 (秦野市)
「ヤビツ峠売店」 (表丹沢/秦野市)
大山山頂に売店がありますが、営業は週末などの休日に限られるようです。
「日向薬師」バス停に売店があります。
「広沢寺温泉入口」バス停近くにコンビニがあります。
[お食事処]
ヤビツ峠のレストハウスで軽食が提供されています。
大山山頂の売店では営業時に軽食の提供があることもあります。
日向登山口のクアハウスでは軽食の提供があります。
「クアハウス山小屋」 ※公式サイト
小田急線「本厚木」駅には、厚木市のB級グルメ「シロコロホルモン」のお店が複数あります。 (厚木観光なび/厚木市観光協会)
[日帰り温泉など]
東丹沢七沢温泉郷 (厚木市)
「クアハウス山小屋」(日向登山口) ※温泉ではない。
鶴巻温泉「弘法の里湯」/鶴巻温泉駅 (秦野市)
はだの・湯河原温泉「万葉の湯」/秦野駅 ※公式サイト
湯花楽 厚木店/本厚木駅 ※公式サイト
[山小屋などの宿泊施設]
東丹沢七沢温泉郷
陣屋(鶴巻温泉) ※公式サイト
大山参道には阿夫利神社の宿坊があります。
(るるぶ特別編集「大山宿坊体験」)※PDF/7.36MB
[名産品]
落花生
蕎麦
とん漬
豆腐
[付近の山]
塔ノ岳
鍋割山
弘法山 ※桜の名所
三峰山
相州アルプス(経ヶ岳・仏果山・高取山など)
[そのほかの補足]
七沢温泉は強アルカリ性の温泉であり”美人の湯”として有名です。お湯に入ったときにヌルっとした肌触りで一風変わった感覚です。強アルカリ性のためお湯自体に高い洗浄効果があるそうです。
丹沢一帯は4月以降の気温が高い日にはヤマビルが出やすくなります。
伊勢原駅のそばには日帰り温泉などがないため、鶴巻温泉駅に出ますと徒歩圏内に日帰り温泉施設があります。
日帰り温泉施設「湯花楽 厚木店」へは本厚木駅から送迎バスが運行されています。
大山参道の宿坊では食事の提供を行っているところもあります。豆腐料理や牡丹鍋などが有名です。
[お天気情報]
大山/山の天気 (tenki.jp)
<私的な雑感>
眺望がすばらしい。
ヤビツ峠からイタツミ尾根を上がっていくときの率直な感想です。
大山の場合、阿夫利神社を経由する表参道が定番だと思います。アクセスが便利ですしケーブルカーも使えますので多くの人がこのルートを利用すると思います。
そんななか、表参道に比べて登山者の数が少なくて静かにゆっくりと登れて、丹沢山地、富士山や江ノ島・相模湾などの眺望にも恵まれているイタツミ尾根が個人的にはお気に入りです。登り一辺倒の山道ですので、「ちょっと疲れたな」と思ったら、景色を眺めて写真を撮ることを言い訳に小休憩をとります。
表参道は登り一辺倒ですが、イタツミ尾根も同様です。道はすこし細いですが、とくに荒れていることもなく歩きにくいわけではありません。
逆コースで、日向薬師を起点にして九十九曲から登り、見晴台を経て大山山頂に至り、イタツミ尾根を下りて行くのも楽しいかと思います。
ヤビツ峠のバスは本数が少ないため、蓑毛まで歩けば、そこからのバスの本数は十分ありますので、余裕をもって秦野駅へ出ることができます。
大山登山でネックの一つは日帰り温泉への立ち寄りではないかなと思われます。伊勢原駅の近くにお風呂に入れるところがちょっと見当たらない。小田急線に乗り、鶴巻温泉駅か東海大学前駅でいったん下りることになるでしょうか。
日向薬師にお参りしてすこし足を伸ばせば七沢温泉に立ち寄ることができます。七沢温泉のお湯は高アルカリ性のため、肌当たりが”とろ~ん”とした感じです。天然の洗浄成分効果で「美人の湯」とされています。
また、「広沢寺温泉入口」バス停から本厚木駅へ出れば、様々な飲食店が豊富にあるので登山後の打ち上げに困ることはないと思います。
厚木で名産を食べるのであれば、味わい深い脂身たっぷりと優しい口当たりが嬉しいシロコロホルモンの焼肉が定番でしょうか。
できれば、名産品の“とん漬”をお食事で出していただけるお店があれば、もっと嬉しいなーと思っています。
個人的には、日向薬師の山寺然とした雰囲気がとても好きです。参道は高い樹木と濃い緑に覆われ、山門の厳めしい仁王像とともに、古い歴史と文化を感じさせてくれます。
<山旅のお土産>
●とん漬け
”豚肉の味噌漬け”です。
私は本厚木駅に立ち寄る際には、駅前にある「波多野商店」さんにお世話になっております。
お店によりすこし味付けや仕込みが異なると思われます。波多野商店さんの味噌漬けは、赤味噌というよりも「”黒”味噌?」という色合いの濃さです。
お味噌は自家製でこの”とん漬”のための独自のものだそうです。味付けはもちろん濃厚。白飯との相性が抜群で何杯でもお茶碗をおかわりしてしまいそうです(登山で消費したカロリーが無駄になるどころか、逆に割増しになってしまいそうですが)。
しかし、いい意味での昔ながらの味わいのままなので、これもまたいいのではないでしょうか。
由来はいろいろとあるようですが、かつては山中や里などで捕獲されたイノシシの肉を保存食とするためだったものが、近代に入り養豚が本格的に始まるようになってから、豚肉に置き換わっていったようです。このへんの流れは秩父の”豚肉の味噌漬け”なども同様のようです。
東京在住者からしますと、丹沢に行ってわざわざお土産を購入するか…という微妙な感覚があるのですが(あくまで個人的には、ですが)、たまに変わった夕食メニューの一品として重宝するなーと感じています。
[参考リンク]
「とん漬け 神奈川県 / うちの郷土料理」 (農林水産省)
<備考>
大山阿夫利神社 ※公式サイト
日向薬師 ※公式サイト
大友皇子(弘文天皇) (Wikipedia)
ウラシマソウ (みんなの趣味の園芸/NHK出版)
「Let's GO! 丹沢・大山やまなみ登頂スタンプラリー」 ※公式サイト
●お得な切符
丹沢・大山フリーパス ※公式サイト
<参考リンク>
丹沢大山国定公園 (神奈川県)
秦野ビジターセンター ※公式サイト
丹沢大山ナビ (神奈川県)
丹沢大山エリアの登山道通行情報 (神奈川県)
東丹沢方面の自然公園情報 (神奈川県)
関東ふれあいの道 (神奈川県)
神奈川中央交通バス ※公式サイト
山と高原地図 「29.丹沢」 (昭文社)
秦野警察署 ※公式サイト
厚木警察署 ※公式サイト
<関連記事>
<バックナンバー>
バックナンバーはnote内マガジン「マイナー登山道を往く」にまとめております。
0001 「石砂山」
0002 「三峰山(丹沢)」
0003 「最乗寺から明神ヶ岳(箱根)」
0004 「秩父御岳山」
0005 「都留アルプス」
0006 「芦生の森」
<ご留意点>
(1) URLはリンク先の運営方針等によりリンク切れなどになっている場合があります。ご容赦ください。
(2) 詳細な情報等はリンク先へご確認、お問い合わせ等をお願いいたします。
(3) 各項目は本運営者の自己の裁量で掲載させていただいております。なお、リンク先およびその記載情報等について、正確性、信頼性、安全性、有用性や合法性等を保証するものではございません。また、本ページへの掲載は、運営者のリンク先の掲載情報への賛意等を意味するものではございません。ご理解ください。
(4) 本ページの掲載内容は、諸般の事情により運営者の判断で変更されることがございます。ご了承ください。
(5) サービス改善や向上などのご意見等がございましたら、お聞かせいただければ助かります。よろしくお願いいたします。
(6) 不定期更新です。 隔月一回を目安に更新を予定しております。
(7) カバー写真と、今回ご紹介した山とは、関係はありません。
(8) 情報は掲載日時点の内容です。
(9) 登山道等の状況については、適宜、現地の観光協会、ビジターセンターや山小屋などの各関係機関にあらかじめご確認くださいますようお願いいたします。
(10) 今般の新型感染症の影響で各種施設等の利用については制限などが行われている可能性があります。ご利用の際には詳細について事前に各種施設等へご確認などをお願いいたします。
(2022/12/17 上町嵩広 改訂:2024/01/04)