「キャラAは天才詐欺師→ゆえにすべての言動が疑わしいし、何をしでかすかわからない」という設定によって先の展開を読めなくして、読者・鑑賞者の興味を引きつける ~映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の場合
◆概要
【「キャラAは天才詐欺師→ゆえにすべての言動が疑わしいし、何をしでかすかわからない」という設定によって先の展開を読めなくして、読者・鑑賞者の興味を引きつける】は「読者・鑑賞者の心を掴んで離さない語り口」のアイデア。
◆事例研究
◇事例:映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」
▶1
本作の主人公は、フランク(10代男性)。
彼は天才詐欺師である。
物語冒頭、
・Step1:ナレーションによってフランクの<偉大なる犯罪歴>が語られる。曰く「驚異的な頭脳の詐欺師」「アメリカ犯罪史上、最も若い大胆不敵な詐欺師」「パイロットや主任医師、検事補佐になりすまして各地で詐欺を行った。それも、10代の内に!」「26か国とアメリカ全州で小切手を偽造し、手に入れた総額は400万ドル!」。
その後、物語の舞台はフランスの留置所に移る。
・Step2:薄汚い独居房の中にいるのは……フランクだ!そう、天才詐欺師にもついに年貢の納め時が来たのだ。
・Step3:そこに、カール(FBI捜査官)がやってきた。フランクはフランスで逮捕されたが、彼はアメリカ人。ゆえにアメリカに身柄を移送する必要がある。それを担当するのがカールだ。
間もなく、
・Step4:「ゲホゲホゲホ!」。独居房の中から激しい咳が聞こえた。カールが中を覗くと、フランクが苦しそうに顔を歪めて咳き込んでいた。さらに、フランクはかすれ声で「助けて……助けてくれ……」。
・Step5:そこは、お世辞にも清潔とはいいがたい留置所だ。フランクは病気にでもなったのだろうか?
・Step6:だが、カールは信じない「私を騙す気か?」。何しろ相手は稀代の詐欺師だ。そう簡単に信じるわけにはいかぬ。騙されてなるものか!
ところが直後、
・Step7:バタン!フランクがその場にぶっ倒れた。これにはさすがのカールも仰天する「……フランク?おい、フランク!」。彼は留置所の職員に向かって叫んだ「医者を呼んでくれ!医者だ!」。
▶2
ご注目いただきたいのは、Step1である。
上述の通り、物語冒頭で「フランクは天才詐欺師である」と説明が入る。ゆえに、それ以降のすべての言動が疑わしく見えてくる!
例えばStep4-7。
フランクは本当に咳をしているのだろうか?彼は、本当に体調不良でぶっ倒れたのだろうか?それとも演技?病気のふりをして皆の油断を誘い、脱獄するつもりなのかもしれぬ……嗚呼、わからない!
というわけで、私たち鑑賞者はハラハラドキドキしながらフランクの一挙手一投足を見守ることになる。否が応にも物語に引き込まれる!
つまり、【「キャラAは天才詐欺師→ゆえにすべての言動が疑わしいし、何をしでかすかわからない」という設定によって先の展開を読めなくして、読者・鑑賞者の興味を引きつける】というテクニックである。
なお、「フランクは本当に体調不良でぶっ倒れたのだろうか?」という疑問は正しい。彼は医務室に移された途端に脱獄を図るのだ。憮然とするカール……。