<ややこしい設定>だって、描写だけで鑑賞者に伝えられる!!|「女囚701号 さそり」に学ぶテクニック(4)
※引き続き、「女囚701号 さそり」を分析します。本記事の前に、以下の記事をご覧になることをお勧めします。
刑務所内には序列ができている
「女囚701号 さそり」の舞台はとある刑務所。
そして、その刑務所内には以下の序列ができています。
上から刑務所長、看守、そして囚人(班長)、囚人(一般)です。
なお、班長というのは……
・特徴1:看守に媚びへつらうことで特権を与えられた、ごく一部の囚人のこと。
・特徴2:彼らはその特権を笠に着て一般囚人の上に君臨。一般囚人に命令を下し、その一方で自分たちは労働をさぼるなどしている。
・特徴3:また作中には、班長らがイカサマ賭博で一般囚人から物品を巻き上げるシーンも描かれている。
つまり班長は、看守と一般囚人の間に位置する存在であり、本来は同じ立場であるはずの一般囚人を食い物にしているのです。
Q:<物語の設定>をいかにして鑑賞者に伝えるか?
ところで……ご想像ください。
皆さんが映画の脚本やら小説やらマンガやらを書くとしましょう。舞台は、上記のようなピラミッド型の序列が存在する場所です。
さて皆さんは、「ピラミッド型の序列」という物語の設定を鑑賞者・読者にいかにして伝えますか?
「そこには、刑務所長を頂点とするピラミッド型の序列があった」なんて風に説明してしまう?
いやぁ、それは悪手でしょう。だって、鑑賞者・読者は【物語】を楽しみたいのです。堅苦しい【説明】なぞ厭われるに決まっている。
はて。どうすればいいか?
「女囚701号 さそり」の名シーンに学ぼう!
さぁ、「女囚701号 さそり」に学びましょう!
映画開始から7分ほど経ったあたりに、じつに見事なシーンがあるんですよ。
▶前提
・映画開始直後、ナミと由起子が刑務所を脱獄します。
・しかし、すぐに看守が追跡を開始。2人は間もなく捕まってしまう。そして刑務所に連れ戻されました。
▶Step 1
・嗚呼、囚人の脱走!大変な不祥事である!刑務所長は激昂し、「脱走を許すなぞ、まったく話にならん!」と看守を怒鳴りつけた。
▶Step 2
・刑務所長の説教後、看守たちは牢(雑居房)へ。そして囚人に対して宣言しました「本日の事件の懲罰として、全員を7日間の減食処分に処す!」。
・さらに看守たちは調理場(一部の囚人が食事を作っている)に向かい、完成間近の料理を排水溝に捨ててしまいます。
▶Step 3
・舞台替わって、食堂。
・多数の一般囚人が、金属製の皿をテーブルに叩きつけています。「カチャ!カチャ!カチャ!」と激しい音が響き渡る。彼らは減食処分に抗議しているのです。何しろ食事は、刑務所内にあっては数少ない楽しみですからね。
▶Step 4
・と、そこに班長たちがやってきた。彼らは一般囚人の前に立つと、「静かに!」「騒ぎ立てたからってスープが出るわけじゃなし!」「すべてはナミのせいだよ。恨むなら、ナミを恨むんだね!」「フケようなんてヤバい考えを持っていない者は早く箸を持つんだ。さっ、食べな!」「食べない者は脱走の意思ありと疑われても仕方ないんだよ!」。
・その言葉を受けて、一般囚人は不承不承ながらも食事を始めました。
・なお、班長たちと共に数人の若手看守も食堂にやってきたのですが、彼らは黙って突っ立っているだけ。班長たちに任せきりです。
▶Step 5
・さらに場面替わって、今度は懲罰房。
・脱走未遂を起こしたナミが、両手両足を拘束され床に転がっている(いわゆる「イモムシ」と呼ばれるスタイル)。
▶Step 6
・そこに、井棟(班長の1人)がやってきました。井棟は大きな鍋を持っている。彼女は看守から、<ナミに食事を与える役>を任されたのです。
▶Step 7
・井棟は柄杓で鍋の中の雑炊(?)をすくうと、それを床に落としました。食器ではなく、じかに床です。そして、「ほらほら。飢え死にしたくなければ犬のように食いな」「おう。ぺろぺろ舐めな」。
・とまぁしばらくの間、井棟はナミを嗜虐的にいたぶります。
▶Step 8
・ところが……ナミは一切動じない!それどころか井棟に向けてニヤリと笑ってみせた。井棟はハッとする。彼女の顔に怯えが走る。
・その時、廊下から笑い声が聞こえてきました。ドア越しに様子を伺っていた看守が井棟を嘲笑しているのです「ハハハハッ!」。
▶Step 9
・と、そこに刑務所長がやってきました。
・看守は慌てて背筋を伸ばし、敬礼してみせる。井棟も愛想笑いを浮かべる。
A:<物語の設定>は【描写】で伝えよ!
<1>
さて以上のシーン、どう思われましたか?
特にご注目いただきたい箇所を抜き出してみると……
・刑務所長が看守を怒鳴りつける【Step 1】
・看守が囚人に罰(減食処分)を下す【Step 2】
・班長が一般囚人を脅し、なだめる。一方、看守は何もしない【Step 3~4】
・班長(井棟)が、一般囚人(ナミ)に嫌がらせをする【Step 5~7】
・看守が、班長(井棟)を嘲笑する【Step 8】
・看守と班長(井棟)が刑務所長に怯え、媚びを売る【Step 9】
<2>
本作には、「囚人は<班長>と<一般囚人>に分かれており、前者は後者を支配していて……」なんて【説明】はありません。
しかし上述のシーンを見れば、刑務所長・看守・班長・一般囚人の関係が手に取るようにわかりますよね。
たった1回の食事シーンの【描写】を通じて(【説明】ではなくて【描写】)、各キャラの関係をきっちりと鑑賞者に伝える……じつに見事ですよね!
続きはこちら!!
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(担当:三葉)