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異世界なんてうんざりだ!!|『コールド マウンテン』(3)

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テーマ発表!!


 第1回第2回に引き続き、映画「コールド マウンテン」をベースに新しい物語を妄想します。

※「コールド マウンテン」のストーリーなどについては、第1回の記事をご参照ください。


妄想開始!


嘉村 「コールド マウンテン」は、戦争にうんざりした主人公が軍を脱走し、故郷(愛する人の待つ場所、戦場とは真逆の無垢で穏やかな場所)に向かって旅する物語ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……前回に引き続き、一体どんな物語にするといいかディスカッションしてまいりましょう!

三葉 承知しました。

嘉村 前回ご紹介したのは、「『コールド マウンテン』 ~『七人の農民!』編」、「『コールド マウンテン』 ~『魔法少女の帰還』編」の2案でした。


案③


嘉村 それでは「案③」にまいりましょう!

三葉 はい。「案③」は、「『コールド マウンテン』 ~『異世界なんてうんざりだ!』編」です。


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嘉村 異世界!

三葉 詳細をご説明する前に、「コールド マウンテン」風の物語を作る時に注意すべきポイントを振り返っておきましょう。


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三葉 ……ですね(より詳しくは第1回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。

三葉 以上を踏まえて……「案③」!ストーリーをご紹介しましょう。主人公は男子高校生です。彼はある日の登校中、トラックに轢かれた!

嘉村 おっ!

三葉 気がつくと目の前に神がいて、「まったくすまなかったのぉ。手違いで殺してしまったよ」「ははぁ……」「何かお詫びをしたいのじゃが……」「えっ!でっ、でっ、では、異世界に転生させてください!」「ふむ。よかろう」。かくして彼は、異世界で蘇りました。

嘉村 つまり、「異世界転生もの」ですね。


三葉 ええ、その通りです。主人公が転生したのは、多くの「異世界転生もの」でお馴染みの剣と魔法の世界でした。

嘉村 ふむ。

三葉 主人公は歓喜する。彼はラノベやアニメが大好きで、「オレも異世界で大活躍してぇなぁ」と夢想していたのです。夢が叶った!うーむ、最高!そして彼は考える。さて、この世界でどう生きていこうか。剣士、魔法使い、鍛冶屋などなど様々な道がありますが……うむ!オレはアーチャーとして生きていこう!

嘉村 アーチャー、つまり弓使いですね。

三葉 はい。というのも、彼は中学高校と弓道部に所属していました。慣れ親しんだ弓で食っていこうと考えたのです。ゴブリンやらスライムやらドラゴンやらの討伐クエストをこなして金を稼ぎ、困っている人びとを救う。弓を引いて引いて引きまくる。ズバズバズバズバ矢を放つ。共にクエストをこなす仲間から信頼を得る。やがて英雄として名を上げ、お姫さまと結ばれたりして……ウヘヘ!夢が広がるなぁ!ヨッシャヨッシャ!

嘉村 なるほど。

三葉 かくして、主人公は意気揚々とクエストに乗り出しました。幸いなことに、彼の弓道の腕前はこの世界でも十分通じました……が、しかし!彼は、間もなく現実の厳しさを知る。

嘉村 ほぉ……と言うと?

三葉 何しろ、これはラノベではない!またアニメでもない!現実である。そして現実とは厳しいものです。すなわち……戦えば、こちらも害をこうむるおそれがある。殴られれば痛いし、死ぬことだってある。

嘉村 確かに……。

三葉 例えば、他の冒険者とチームを組んでドラゴン討伐に臨んだ時には……嗚呼、思い出したくもない。まさに悪夢でした。剣士も魔法使いも武術家もみな死んだ。チームの半数以上があっさり殺され、ほうほうの体で逃げ出したのです。

嘉村 ふーむ。

三葉 また、ゴブリンやスライムは無機物ではありません。彼らも知的生命体。それぞれに人生があり、家族や仲間がいるのです。死の直前には苦しみ、涙を流す。そして助けを乞う。いくら異種族と言えども、そんな相手を殺めるのはなかなかどうしてしんどいものです。

嘉村 うーむ。でしょうねぇ……。

三葉 つまり、ラノベやアニメの主人公のように、スマートに敵を撃滅し、容赦なくとどめを刺して「オレ最強☆」とうぬぼれるなんてことは……とてもできない!現実はもっと血生臭いものだった。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公は頭を抱える。冗談じゃないよ!もう誰も殺したくない。誰も傷つけたくない。もちろん、自分が死んだり、ケガしたりするのも嫌だ。こんな異世界……うんざりだ!

嘉村 ふむ。

三葉 想えば……元の世界の生活は、そう悪いものではありませんでした。少ないながらも友だちはいたし、好きな女の子もいた。オヤジやオフクロは口うるさいが、まぁ、それもオレを想ってのことだ。そして何よりも平和だった!誰かを殺したり、殺されそうになることはない。……かくして主人公は決意した。元の世界に帰ろっと。

嘉村 なるほど。

三葉 問題は、いかにして帰るかです。というか、そもそも帰れるのか、オレ!?うーむ……しかし悩んでも仕方がない。神に直談判するしかあるまい。では、神に会うにはどうすればいいか。これは簡単です。転生前に確認済み。神曰く、「ワシに用がある時には、最果ての森まで来るがいい」。

嘉村 ほぉ。

三葉 ということで、主人公は森を目指して旅に出ました。ところが……これがじつにしんどかった!途中ドラゴンの巣窟やら、猟奇的な宗教団体が支配する国やらを通過しなければならず、何度となく死にかける。彼は迫りくる敵から逃げ、あるいは反撃しながら、どうにかこうにか森にたどり着いた。

嘉村 ふむふむ。

三葉 そして神を呼び出し、要望を伝える。神は困惑する。しかし主人公は引かない。やがて神が根負けする「まったく押しの強いヤツじゃ……」。主人公がニヤッと笑う「この世界に来てから、強くなければ生きていけないって学びましたからね」。「わかったわかった。世界の理を捻じ曲げて、お前さんを元の世界に戻してやろう。しかし不可能を可能にするには、それなりに準備が必要じゃ」。主人公は、神の言うがままにドラゴンのウロコやら、幻の花やら、エルフの秘宝やらを集めて回る。またしても、何度となく死にかける。

嘉村 ふむ。

三葉 しかしその甲斐あって、やがて次元の門が開かれた。神が言う「これをくぐれば、お前さんは『トラックに轢かれなかった世界』に戻ることができるじゃろう」。主人公は礼を言う。神が問う「しかし……本当にいいんじゃな?1度戻れば、2度とこちらに来ることはできぬぞ」。主人公はうなずく「もう誰かと戦うのはうんざりなんですよ」「ふむ。しかし元の世界にも戦いはあるじゃろ?」。なるほど。その通りです。テストや受験。社会人になれば、もっと多くの戦いが待っているのでしょう。しかし……「戦いが避けられないとしても、せめて家族や友だちの傍にいたいんです」。そして主人公は……帰った。

嘉村 ほぉ。

三葉 見知った光景が広がっている。通学路だ。おお、帰ってきたぞ!主人公はガッツポーズする。嗚呼、神よ!ありがとうございます!これから毎日あなたに感謝を捧げます!

嘉村 ふむふむ。

三葉 時刻を確認する。10時半。彼が車に轢かれるはずだった時間からおよそ2時間経っている。つまり……遅刻じゃねぇか!彼は慌てて駆け出す。チクショー!神め、もうちょっと気をつかえよな!完全に遅刻である。うーむ……とりあえず弓道場で時間を潰そう。授業と授業の間の休憩時間を待って、何食わぬ顔で教室に紛ればいい。うん、そうしよう。彼は弓道部員だけが知る秘密の抜け穴を通って、学校の敷地に入りました。

嘉村 ふむ。

三葉 しかしこの時……学校ではとんでもないことが起こっていたのです。

嘉村 とんでもないこと……。

三葉 ええ。すなわち、学校はテロリストに占拠されていた!

嘉村 テロリスト!

三葉 主人公は、間もなくそれに気づきます。そっと様子を伺うと……武装したテロリストが教師や生徒を人質に取っている!主人公はスマホを取り出す。警察に通報するのだ。しかし……電波状況が悪い。外部と連絡を取らせぬよう、テロリストが妨害電波を発射しているようです。

嘉村 ふむふむ。

三葉 となれば、学校の外に出るしかありません。敷地を出ればさすがに電波が回復するでしょう。交番に直接駆け込んでもいい。主人公はそっと移動を開始する……が!途中、数人の生徒がテロリストからボコボコに殴られている場面に遭遇する。どうやら、彼らはテロリストに反抗し、制裁を受けているようです。生徒が血ヘドを吐く。このままでは殺されてしまうだろう。ううっ……わかっている。ここは心を鬼にして見て見ぬふりをすべきだ。大勢を考えれば、一刻も早く学校の外に出るべきなのだ。しかし……見過ごすことはできませんでした。主人公はヒラリと飛び出し、素早く弓を引く。矢が猛スピードで飛び、テロリストの急所、すなわち目やのど、股間に命中する。テロリストがバタバタと倒れる。……とまぁ、こうして彼は異世界で磨いた弓の腕前とクソ度胸を武器に、テロリストと対峙することになりました。

嘉村 なるほど。

三葉 主人公は、非常階段やら排気口やらを移動してテロリストを倒していく。しかし最後の最後に致命傷を負い、死んでしまう。じつに哀れ!……ですが、死の直前、彼の心中は穏やかなものでした。

嘉村 ほぉ……。 

三葉 さて、ここで「コールド マウンテン」のストーリーを思い出してみましょう。すなわち……主人公のインマンは「対立」(誰かを殺したり、憎んだりすること)を厭い、軍を脱走する。そして、「対立なき場所」(故郷)を目指して旅に出る。やがて長い旅路の果てに故郷に到着するが……故郷にもまた「対立」(義勇軍)があり、インマンはわずか半日ほどで殺されてしまった。

嘉村 ふむふむ。

三葉 せっかく帰郷したのにすぐに殺されてしまうだなんて、インマンは一体何のために長く苦しい旅路を歩んできたのか!彼の旅は無意味だったのか!?……いや、そうではありません。彼は、故郷に「対立」をもたらす存在(義勇軍)と相打ちになって死にました。彼の活躍によって故郷から「対立」は消え、人びとは穏やかに暮らすことができるようになった。その意味で、彼の旅には意味があったのです。

嘉村 ふむふむ。

三葉 「案③」も同様です。主人公は「対立」(戦い)を嫌って、異世界を離れた。そして苦労の末に元の世界に戻った。ところがそこにも「対立」(テロ)があり、彼は戦いに巻き込まれてしまう。そして死ぬ。まったく哀れ!……ですが、彼の帰還、そして活躍があったからこそ、彼の愛する人びと(友だち、好きな女の子)は生き延びることができたのです。その意味で、彼の苦労は報われたと言えでしょう。だから、彼は穏やかな死を迎えることができた。

嘉村 なるほど。

三葉 以上、「『コールド マウンテン』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!


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 「コールド マウンテン」の研究はこれで終了です。ありがとうございました。

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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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