ヤバい新選組!!|『ネットワーク』(3)
テーマ発表!!
第1回、第2回に引き続き、映画「ネットワーク」をベースに新しい物語を妄想します。
※「ネットワーク」のストーリーなどについては、第1回の記事をご参照ください。
妄想開始!
嘉村 「ネットワーク」は、「狂った組織 = 視聴率至上主義のテレビ局」の中で生きる人びと(加害者になる人、被害者になる人、組織を捨てる人 etc.)の物語ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……前回に引き続き、一体どんな物語にするといいかディスカッションしてまいりましょう!
三葉 承知しました。
嘉村 前回ご紹介したのは、「『ネットワーク』 ~『カリスマPと地下アイドル』編」でした。
案②
三葉 まずは、「ネットワーク」風の物語を作る時に注意すべきポイントを確認しておきましょう。
三葉 ……ですね(より詳しくは第1回の記事で)。
嘉村 ふむふむ。
三葉 以上を踏まえて「案②」は……「『ネットワーク』 ~『ヤバい新選組』編」です。
嘉村 新選組!
三葉 はい。
嘉村 新選組というと……あの新選組ですか?
三葉 ええ、その新選組です。
嘉村 ふむふむ。
三葉 新選組をモチーフにした作品は過去たくさん作られてきましたが……「ネットワーク」のストーリー構造を使って新選組を描くこともできると思うんですよ。
嘉村 ほぉ!
三葉 上述の通り、「ネットワーク」風の物語を作る時には、3タイプのキャラを登場させる必要があります。すなわち……①「組織人」、②「組織の犠牲者」、③「組織に捨てられ、そして組織を捨てる人」です。
嘉村 ふむ。
三葉 この内、まずは「組織人」について考えてみましょう。
嘉村 承知しました。
三葉 さて……「組織人」は、物語の舞台となる「狂った組織」を象徴するキャラです。
嘉村 ええ。
三葉 そして新選組を舞台とする以上、「組織人」はあの人しかあり得ませんよね!
嘉村 ズバリ……土方歳三ですね!
三葉 ええ、その通りです。
三葉 土方歳三といえば、NHK大河ドラマ「新選組!」における山本耕史さんの名演技のおかげか、あるいは「銀魂」の影響かわかりませんが、昨今はイケメンで、知的で、一見クールながらじつは情熱的というカッコいいキャラとして描かれることが多い印象です。
嘉村 確かに。
三葉 しかし……その一方で、彼が「鬼の副長」と呼ばれた男だということを忘れてはなりません。彼は厳しく、しかも恣意的に運用可能なルール(陣中法度、局中法度)を作りました。そして、背いた者には容赦なく切腹させた。
嘉村 ふむ。
三葉 また、近藤勇をリーダーとして担ぎ、派閥争いを展開。対立した者を暗殺したこともよく知られています。
嘉村 ふむふむ。
三葉 無論、彼は自らの信念のために命を賭して戦った男です。英雄と呼んで差し支えない。また、新選組という組織にしても同様です。「池田屋事件」や「禁門の変」では大いに活躍しました。あっぱれ!……とは言うものの、その一方でやはり「頭のおかしな野郎」「頭のおかしな集団」とも言えると思うんですよ。
嘉村 ふーむ。
三葉 だって、新選組って「敵と戦って死んだ者」よりも、「内部粛清で死んだ者」の方が多い組織ですよ!おかしいでしょ、コレ!もちろんいろいろ理由はあるのでしょうが……やっぱり頭がおかしいじゃないですか!
嘉村 まぁ……確かに。
三葉 つまり、ですよ。「ネットワーク」が「『視聴率のためなら何をしてもOK』という狂気に陥ったテレビ局」を描いた作品であるのに対して……。
嘉村 ええ。
三葉 「案②」は「『大義のためなら何をしてもOK』という狂気に蝕まれた新選組」の物語というわけです。
嘉村 あー、なるほど。
三葉 さて、ここまでは「組織人 = 土方歳三」のご説明をしてきましたが……続いて、「組織の犠牲者」について考えてみましょう。
嘉村 ふむふむ。
三葉 単純に考えると、「組織 = 土方歳三」から切腹を命じられたり、あるいは暗殺されたりした者が該当しそうですが……。
嘉村 ええ。
三葉 それでは安易すぎるかなと、もう少しヒネリがあった方がいいかなと思いまして。
嘉村 ふむ。
三葉 そこで考えました。第1の「犠牲者」は……沖田総司!
嘉村 ほぉ!みんなが大好きなあの沖田総司!
三葉 ええ、その沖田総司です。
嘉村 ふむふむ。
三葉 ご説明しましょう。……沖田総司は剣の天才です。土方歳三も、あるいは近藤勇も達人ではありますが、沖田総司には敵わなかった。
嘉村 ふむ。
三葉 畢竟、土方歳三は沖田総司に汚れ仕事を依頼しました「総司、○○のヤツが近藤さんを裏切ろうとしている。頼むぞ」「承知です」「いつもすまんな」「止めてくださいよ。オレと土方さんの仲じゃないですか。じゃ、掃除屋総司行ってまいりまぁす!」。
嘉村 ……掃除屋総司。ダジャレですか。
三葉 ええ、ダジャレですね。彼は陽気な男なんですよ。
嘉村 ははぁ……。
三葉 まぁそれはいいとして……沖田総司はメチャクチャに強い。圧倒的に強い。常人離れしている。
嘉村 ふむふむ。
三葉 さて……そんな男が組内にいると何が起こるでしょうか?
嘉村 ふーむ。
三葉 単刀直入に言って、組員の士気が下がるんですよ。
嘉村 ほぉ……と言うと?
三葉 すなわち……「つーかさ、沖田さんがいればよくね?」「わかる」「だよねー」「オレら、何のために戦ってんのかね?」「そりゃまぁ、沖田さんが到着するまでの時間稼ぎだろ」「あーあ。それ言っちゃダメなヤツ」「メッチャやる気失せるぅ」「わかる」。とまぁ、こんな具合ですね。
嘉村 なるほど。チームで仕事をしたり、スポーツをしたりするのと同じですね。ずば抜けてデキるヤツが混ざっていると、「アイツに任せればいいよね」とモチベーションが下がる現象……。
三葉 ええ、まさにそれです。というわけで……組内の士気が下がってきた。しかし、それでは困るのです。江戸幕府や会津藩をお守りするために、そして我らがリーダー・近藤さんの名を世間に知らしめるためには、組員1人1人が一騎当千の働きをしなければならぬ。ということで……致し方がありません。土方歳三は腹を決め、沖田総司に匹敵する腕の持ち主・斎藤一に命じました「総司をやれ」「承知!」「頼むぞ」「総司くんを掃除……ふふっ。お任せを」。
嘉村 ……斎藤一も陽気なんですね。
三葉 斎藤一は、沖田総司を無事暗殺しました。しかも、新選組の敵の犯行を装ったのだからたまりません。組員のモチベーションはガツンと上昇しました。「野郎ども、行くぞ!」「はい!」「お前らは、自分が属する組織の名を知っておるか!」「知っております!」「それは誇り高き組織か!」「誇り高き組織であります!」「それは大義を果たす組織か!」「大義を果たす組織であります!」「それは武士道に則る組織であるか!」「武士道に則る組織であります!」「その組織の名は何だ!」「新選組であります!」「そうだ!オレたちは新選組だ!気合を入れろ!」「はい!」「沖田さんの仇を取るぞ!」「はい!」「地獄を見せてやれ!」「はい!」……なんて具合ですね。
嘉村 アメリカ海軍のようだ……。
三葉 さて、それからもう1人……近藤勇も「組織の犠牲者」になり得ると思うんですよ。
嘉村 新選組の局長・近藤勇が「組織の犠牲者」……?
三葉 はい。
嘉村 ふーむ。
三葉 すなわち……ある日、近藤勇が言いました「なぁ、トシ」。土方歳三が応える「んー?近藤さん、どうした?」「あのよぉ、お前最近……あー……ちょっとやりすぎじゃね?」「……ん?」「あー、いやさ。お前が大義のため、新選組のためにメッチャ頑張っていることはわかっているんだ」。土方歳三が、近藤勇をジロッと見る「近藤さん……オレはあんたのためにも頑張っているつもりだぜ」。
嘉村 土方歳三、怖いですね……。
三葉 近藤勇が慌ててうなずく「あっ、ああ!もちろんわかっているよ!オレのためにも頑張ってくれているよな!」「そうだな」「ただ、その……総司を殺したのは……どうなんだ?」「余計なことだったかい?」「いや、そんなことはねぇ!お前の狙い通り、あれ以来組員のモチベーションはうなぎ上りだ」「うん」「ただな、あの……総司はオレたちの弟みたいなヤツだったわけだ。弟を手にかけるというのは……」。近藤勇の歯切れの悪い言葉を聞き流しながら、土方歳三は考えていました「近藤さんにもあの世に行ってもらうか……」。
嘉村 ええっ……。
三葉 というのも、彼は、新選組を「近藤勇の名の下に戦う集団」にしたいと考えていたのです。
嘉村 ほぉ。
三葉 ところで……「神」というのは、姿が見えないからこそ特別なのです。聖書や預言者の言葉など、ごく限られた方法でしかその意思を確認することができないからこそ、聖性を帯びているのです。もしも神がホイホイ姿を現したり、軽口を叩いたりしようものなら、有難みがなくなってしまいますよね。
嘉村 あー、確かに。
三葉 土方歳三は、近藤勇を亡き者にすることで神格化しようとしたわけですね。
嘉村 なるほど。
三葉 つまり……沖田総司同様、近藤勇も「組織」のために犠牲になったと言えるでしょう。
嘉村 ふむふむ。
三葉 さて、ここまで「組織人」と「組織の犠牲者」を見てきましたが……最後に「組織に捨てられ、そして組織を捨てた人」について考えてみましょう。
嘉村 承知しました。
三葉 果たして誰がいいだろうと考えてみたのですが……ここでは、山南敬助を採用しましょう。
三葉 山南敬助は、土方歳三同様、新選組の副長を務めた男です。つまり新選組の中心人物の1人ですが……他の組員よりもずっと賢く、そして心優しい彼は「ドンドン狂っていく組織 = 新選組」に耐えられませんでした。
嘉村 ほぉ。
三葉 彼は土方歳三に抗議した「土方さん、大義のためなら何をやってもいいと思っていないかい?」。
嘉村 あー……。
三葉 土方歳三は悪びれることなく、「思ってるよ。当たり前だろ」。山南敬助は愕然。土方歳三は続けた「うちは浪人集団。要するに烏合の衆だ。隙あらば、怠け、気を抜き、市民に狼藉を働くような者もいる。そんなヤツらをまとめ上げ、そして大義を果たすには、厳しいルールが必要なんだ。わかるだろ?」。無論、山南敬助は承服しかねる「しかし、だからといって仲間を殺めるのはおかしいだろ?」。2人は口論になります。結論は出ない。そしてその日の夜……嗚呼、恐ろしい!土方歳三は刺客を送り込んだ。
嘉村 やっぱり……。
三葉 しかし山南敬助は賢い男。危機を察知し、素早く逃走した。……とまぁ、こうして彼は組織から捨てられました。
嘉村 ふむ。
三葉 その後、山南敬助は別の職に就き、穏やかな毎日を送ります。しかししばらくして……偶然、彼は沖田総司と再会した。
嘉村 あー、沖田総司がまだ生きている頃の話なんですね。
三葉 そうですね。そして山南敬助と沖田総司は親友同士です。沖田総司が笑う「元気そうじゃないか」。山南敬助も微笑む「きみもね」。「ところで山南くん。きみ、新選組に戻ってこないかい?」「いや、しかし……」「大丈夫だよ。じつは近藤さんも、きみに戻ってきてほしがっている」「近藤さんが……」「オレと近藤さんで、土方さんを説得するさ」。山南敬助は逡巡します「うーん」。実際のところ、彼には未練がありました。土方歳三の組織運営にはついていけぬものの……とはいえ、目指すところは同じです。そして、新選組には多くの仲間がいる。新選組の一員に復帰するというのはじつに魅力的な話でした。
嘉村 ふむふむ。
三葉 しかし……「最近○○があってさ」「□□さんは亡くなったよ」なんて沖田総司の話を聞いている内に、山南敬助の気持ちは冷めていきました。
嘉村 ほぉ……。
三葉 というのも、山南敬助は新選組を離れ、正気を取り戻していたのです。だから、沖田総司がさも当然のこととして語るエピソード1つ1つが、彼には狂っているようにしか聞こえなかった。かくして、山南敬助は沖田総司の提案を拒否しました。つまり、彼は「組織」を捨てたのです。
嘉村 なるほど。
三葉 以上、「『ネットワーク』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!
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「ネットワーク」の研究はこれで終了です。ありがとうございました。
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(担当:三葉)
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