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ナミの怒りは、どこに向けられているのか?|「女囚701号 さそり」に学ぶテクニック(2)

※引き続き、「女囚701号 さそり」を分析します。本記事の前に、以下の記事をご覧になることをお勧めします。


ナミは怒っている!


前記事で詳しくご説明した通り、「女囚701号 さそり」は【レイプされた女性(ナミ)が復讐を果たす物語】です。

一言で言えば【復讐譚】


つまり、ナミのモチベーション(= 行動の背景にある感情)は、自分を裏切った男やレイプした男への<怒り>です。

彼女は<怒り>ゆえに、地獄のような刑務所生活にへこたれず、そして隙を見て脱獄し、男たちを殺して回るのです。


ナミは恨んでいる!


ナミは怒り狂っています。彼女はごくわずかな回想シーンを除いて、最初から最後まで怒りっぱなしです。

……といっても「常に暴力的」だとか、「怒鳴り散らしている」とかそういうことではありません。

むしろその反対。ナミは極めて寡黙で、看守の指示には大人しく従っています。少なくとも表面的には。


そう、ナミは怒りを内に秘めているのです。

その意味で、【ナミは怒っている】というよりも【ナミは恨んでいる】と表現した方がしっくりくるかもしれません(恨んでいるというと、感情を内に秘めている感じがしますよね)。


ちなみに……本作のテーマソングは「恨み節」です。


【本記事の主題】ナミの怒りは、どこに向けられているのか?


さて、ナミは杉見らによってひどい目に遭わされました。彼女が自分を裏切った男やレイプした男に怒りを抱くのは当然のことでしょう。

また、自分に害をなした特定の男性のみならず、<男性全般>に嫌悪感を抱くようになるのも容易く理解できます。


ところが!

ここからが興味深いところなのですが……じつは、ナミの怒りは男性にだけ向けられているのではないんですよ。


はて。彼女の怒りはどこに向いているのか?

本記事では、この点を詳しくご説明します。


象徴的なシーンのご紹介


まずは、象徴的なシーンを3つご紹介しましょう。


▶ 象徴的なシーン1(オープニング)

・Step 1:本作は、「君が代」をバックに幕を開けます。そしてまず、風にはためく日の丸が映る。これは刑務所の庭に掲げられた日の丸です。

・Step 2:刑務所の庭には、たくさんの看守がズラリと整列しています。そして看守たちが見守る中、刑務所長がうやうやしく表彰状を受け取った。表彰状には、「右は戦後27年間の長きに渡り、受刑者の教育・更生に勤め、国家の安寧、秩序維持に貢献するところ誠に甚大であり、他の模範とするところなり。よって、ここにこれを表彰する」。そう、永年勤続表彰の真っ最中なのです。

・Step 3:とその時、刑務所内にサイレンが響き渡りました。一体何事か!?刑務所長はハッとする。そして、思わず表彰状を落としてしまう。するとちょうど風が吹き、表彰状が飛ばされる。表彰状は、間もなく地面に落ちました。

・Step 4:直後、緊急事態に対応すべく看守たちが一斉に駆け出した。表彰状は彼らに踏みつけられてしまいます。

・Step 5:刑務所長は慌てて表彰状を拾います。しかし、バッチリ足跡が付いてしまっている。

・Step 6:で、次のシーン。たったいま刑務所を脱獄したナミと由起子が河原を走っています。先ほどのサイレンは、2人の脱獄を伝えるものだったのです。


▶ 象徴的なシーン2(第1幕)

・Step 1:3年前(刑務所に入る前)、ナミは恋人の杉見に処女を捧げました。

・Step 2:破瓜ゆえでしょう、真っ白なシーツに赤い染みができる。染みは円状に広がり……まるで日の丸です。


▶ 象徴的なシーン3(エンディング)

・Step 1:ナミが刑務所を脱獄。いよいよ復讐の秋です。

・Step 2:杉見は復讐を恐れて警視庁に逃げ込みました。しかし、そこにナミが登場!

・Step 3:ナミはドスを抜き、警視庁の屋上で杉見に致命傷を与えることに成功します。

・Step 4:いま、杉見の腹にはドスが突き刺さっている。彼はフラフラッと後ずさりして己の腹からドスを引き抜くと、それを空高く放り投げました。と、そこで掲揚されていた日の丸が映ります。そして杉見はバタリと倒れ、死亡した。


【ナミの怒りの矛先①】悪いのは、日本社会全体だ!


とまぁ本作には、ちょっと露骨なほどに<反日的なシーン>が含まれているのです。

これは、「杉見や刑務所長はナミに害をなした悪人である。しかし、彼らのみが悪いのではない。彼らの背後にあるこの<日本という社会そのもの>が悪なのである!」というメッセージと解釈していいでしょう。


象徴的なキャラのご紹介


ナミの怒りは<男性>、<日本社会全体>に加えて、<女性>にも向けられています

ここでは、象徴的なキャラを3人ご紹介しましょう。


▶ 象徴的なキャラ1(班長)

囚人の中には、「班長」と呼ばれる者がいます。

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班長は、看守に媚びへつらうことで特権を与えられている(囚人服からして、一般囚人とは別です)。そして彼らはその特権を笠に着て一般囚人の上に君臨。一般囚人に命令を下し、その一方で自分たちは労働をさぼるなどしています。

また作中には、班長らがイカサマ賭博で一般囚人から物品を巻き上げるシーンも描かれています。


つまり班長は、看守と一般囚人の間に位置する存在であり、本来は同じ立場であるはずの一般囚人を食い物にしているのです。


▶ 象徴的なキャラ2(鬼頭)

鬼頭は、本作に登場するたった1人の女性看守です。彼女はナミの企みを知ろうとして、新人囚人を装いナミに接近します。


▶ 象徴的なキャラ3(片桐)

片桐は、ナミと同じ刑務所に入っている囚人です。

彼女は「仮釈放させてやる。代わりにナミを殺せ」と杉見から指示を受け、ナミの殺害を企てます。


【ナミの怒りの矛先②】ナミの怒りは、<男性にすり寄る女性>にも向けられている!


班長、鬼頭、そして片桐……3者の共通点は、<女性>でありながら、<男性>の側にいるということです。

3人は<男性>の力を借りて、ナミに害をなそうとする。


そして……ナミの怒りは、そんな女性たちにも向けられています

班長どもはナミに嫌がらせをしようとして逆襲に遭い、鬼頭はナミの超絶的な性技によって骨抜きにされる。また、片桐は焼き殺されます。


特にご注目いただきたいのは、片桐の最期です。

片桐はナミを殺そうとするものの、ナミや進藤の反撃に遭い、絶体絶命のピンチに追い込まる。そして助命を乞うのですが、そこで彼女はこんなことを言います。

片桐「助けてー!あんたを殺そうとしたのは、杉見の差し金なんだ!キャー!私はあいつの口車に乗せられただけなんだ!助けて!キャー!死にたくない!死にたくない!死にたくない!

悪いのは片桐、つまりは<男性>であり、自分は利用されたに過ぎないという主張ですね。


で、これに対してナミはこう呟きます。

ナミ「騙されるのが女の罪なんだ……」

ナミは、「<男性>は確かにクソだ。しかし、<男性にすり寄り、そして利用される女性>も負けず劣らずクソだ」と考えているのです。

<男性>に利用される女性といえば、かつて杉見に騙されたナミ自身ももちろんそこに含まれています。


<参考>

さそりの憤怒はほんの一部の自立した精神を持つ女や無辜の魂の女以外、同性にも向けられる。さそりは女本来の弱さと苦痛を知る者だが、今目の前にいる個々の女たちの無自覚な愚かさは許さない。
さそりは「騙されるのは女の罪なんだ」と呟いて、炎に包まれる横山リエを見殺しにする。もちろん卑劣なかたきの男性を野放しにするのではなく、男性への怒りは煮えたぎらせながらも、同時に女の自立していない愚かさを憎むのだ。

※補足:以上の文中の「さそり」はナミ、「横山リエ」は進藤のことです。また「自立した精神を持つ女」は進藤、「無辜の魂の女」は由起子を指しているものと思われます。

※引用元:真魚八重子「気高き裸身の娘たち――東映ピンキーヴァイオレンス」(「戦う女たち――日本映画の女性アクション」収録)


まとめ


本記事では、【ナミの怒りは、<彼女に害をなした特定の男性>や<男性全般>のみならず、<日本社会全体>、そして<女性>にも向けられている】とご説明してきました。


男性だけ……ではない!

これが、本作の「ユニークさ」や「深み」の源泉の1つでしょう。もし本作が、【レイプ被害者が自分をレイプした男に復讐するだけ】なら、あまりにもストレートすぎて退屈な物語になっていたかもしれません



続きはこちら!!


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(担当:三葉)

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